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僕、転生したみたいです。

僕と言う人間は二度目の生を与えられた非常に珍しい人間であるように思う。

人間誰しも前世があり、それを覚えていないと言うのもまた普通のことなのだが僕にはしっかりと前世の記憶が残っていたのです。


僕の前世はしがない普通の男子高校生でした。


かつての僕は友達が少なく一人でいることが非常に多かった為、何時しか人間観察が趣味の青年となっていたのです。

それで困ったことなど一度もありません。人全てに自分の考えた物語を作る様は大変に面白く、退屈などしませんでした。


程なくして僕はゲーム、主にギャルゲーにはまることになりますがそれも当然の節理と言えましょう。


恋愛ゲームとは正に人を映し出す。様々な人間が思い思いに人生という名の架空世界を愉しむ様は見ていてとても痛快でした。

数多のゲームをプレイしました、人を知るため人を見るため。

現実世界にそれらが何時しか役に立つことがあろうと、妹に勧められた『乙女ゲー』すらその一字一句忘れぬことの無いように書き留める。


だがしかし僕の人生は突如終わりを告げたのです。


交通事故――――端的に言えばそれで終いとなる人災。よそ見をしていたトラックに轢かれ、僕はあえなくこの世から去った。

享年16歳、若すぎる僕の前世はそこで幕を閉じることになったのです。




そして僕が本当の『僕』になったのは、小学生に上がってすぐのことだったと記憶しています。




それまで普通の家庭に育った女の子の記憶媒体に前世の残念な僕が混じり、元の人格を書き換えてしまいました。

元の私―――本名を傍織合はたおりあわせと言うらしいそれは元気で明るい女の子なのでした。


いつも周りから心配されるも意に返さず、危険なことを積極的にやっちゃうような。どこにでもいる普通の女の子。


ある日いつものように学校へと登校すると感じる強烈な違和感が僕を襲いました。

その時は何がなんだか分からず、逃げるようにして家へと舞い戻ったことを今でも思い返します。


僕の正体は生前やった乙女ゲーの特定ルートキャラ。しかもルート終盤で事故死してしまう理不尽極まりないキャラクター。


それに気づいた時に流した大粒の涙は、今でも僕の小さな部屋に染み付いてしまっているのではないでしょうか。






兎に角僕はそこで生まれ変わったのです。





荒々しかった言動を止め、生前のように言葉を発しない物置と化す。

短かった髪の毛は肩に乗るほど長く、丁寧な言葉遣いを心がけました。

それも単に死亡フラグを回避するため、僕の知る彼女は元の性格の通り底抜けに明るい女の子でしたから印象を変えたら、もしかしたらという思いで一杯だったのです。

その結果色々と両親との間に出来た確執や唯一の姉妹にも影響が出てしまうのですが、それはまあ脇に置いておくとして(ホントはいけないのですが)こうして僕は小学五年生となることが出来ました。


これまでの小学校生活が走馬灯のように駆け巡ります。

多くのことがありました。多くの苦しさも乗り越えました。

事情を話さないことによって今まで仲良くしていた友達すら失い、僕の居場所が見えません。

だけどこれも必要最低限のことであると僕は思い込むしかないのです。

死ぬことは誰であろうと嫌に違いない。

それを回避するためなら自らを変えることも厭わない。

僕はそう信じてこの時をずっと待っていたのです。



周りの人達の関係は以前と大きく変わり果てました。

あまり気分的にも良好とは言えませんが僕は断言いたします。

必ず生きて、小学校を卒業するのだと。それだけが今の僕の望みであります。


通学路には桜が綺麗に咲き誇り、道端に落ちるピンクの花弁はとっても儚くて。

まるで僕の未来を暗示しているように感じてしまい、思わず手に取る汚れた花弁。


僕もいつかはこうなるのでしょう。人はいずれ死が訪れる生き物なのだ。

輝かしく神に愛されているようなお方であろうと、死は必ず付き纏う。

でもそれが今であってはいけません。未だ10歳の誕生日を迎えたばかりの僕が死んでいい理由がどこにありましょう。

前世も16歳という若い年齢でしたし、今世こそは長寿であることを強く望みたいと思います。



「待っていてください。必ず貴方を止めてみせます、乙留桜花おつどめおうかさん。」



僕はこの世界の主人公である彼女の名前を口にし、桜の咲き誇る校門をくぐる。

この一年、何があろうと生き残ってみせる。そんな気迫を纏った僕に近づく者など誰一人として存在しなかった。



僕は一人だ、味方はいない。

僕しかいないんだ、僕だけが僕を救える。

僕だけが頼りだ、感覚を研ぎ澄ませ頭の回転を速めろ―――



これは夜角目グレートスというゲーム中にライバルキャラと呼ばれる彼女に目をつけられる前の少しの牙を持って、獲物を食い殺さんとしていた頃の僕の話。


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