主人公とのご対面 おわり
理由もなく何もしていないはずなのに、素敵な男性達に言い寄られる。
今まで人生のどん底にいたはずの少女は、ただただ困惑することでしょう。
自分が何故、自分の一体何がそこまで彼らを駆り立てるのだろう。少女の困惑は尽きそうにありません。
主人公さんの話す言葉の一つ一つに不安と困惑が色濃く出てしまっています。
ぽつりぽつりと語る途切れがちの言葉は、どれもこれも深い悲壮が漂う。
確かにゲームをプレイした時には全然不自然に感じませんでしたが(まあ所詮はゲームですので)彼女は入学してからまだ数週間と短い期間に6人との男子と交友を持つことになるのです。
それまでの彼女の人生はゲーム深く掘り下げられたわけではありませんでしたが、概ね両親に頼ることが出来ずにバイト生活を送る苦学生のそれ。
この悩みを誰かに頼りたかったでしょうし、不安しかなかったでしょう。
一人に決めようと彼女はそう思っていたそうですが、中々決めることが出来ずにいるみたいです。
ならばここは貴方の未来の軌跡を知るこの僕が正しき道を教えてあげることにします。
「幼馴染くんがいいと思いますよ。彼は中々の好青年です。彼と付き合っちゃいなさい」
「えー私は彼を男の人として認識でないんだけどなぁ確かにカッコイイとは思うんだけど」
何を贅沢言いやがってんですかこの女。
哀れ幼馴染くん、君はまず男の子として認識すらされずに除外されてしまっているようです。
ゲームとはやはり違いますね、彼女には彼女の好みがあると言うことでしょう。…次の子を提案してみますか。
「では浅宮アクト君はど「むりむりむりむり、あんな不良となんか付き合いたくなんかないわ」」
食い気味に否定しやがりましたこのド畜生。
確かにアクト君は不良ですよ、今時珍しいド直球の不良ですよ。
学ランに釘バットを携える彼の姿は昭和の匂いを感じさせますが、ですがとってもいい子なんです。
心優しく仲間想い、しかも一度気に入られるとそのツンデレぶりを遺憾なく発揮してくれます。
よい人物だと思うのですがね、アクト君。彼の過去話も僕は好きなんですよ。
男と男の友情をこう大々的にですね、ここまで魅せるとなると友達などいらない僕も一時期友達が欲しくなりましたもの。
ですが主人公さんのお眼鏡にはかからないみたい、ではどうしましょう。
後の3人は余り僕からオススメはできないのですが
「…では後輩のサトゥージュ君ではど「あの子は男性としてじゃなくて、愛玩用として飼いたいよね。ずっとなでなでしていたい」」
「…猿治先輩は「不思議系のふわふわした方だよね。私あの方とは合わないと思う、妙に弱弱しいと言うか」」
「…あの頭湧いてる俺様金持ち「絶体無理!あの上から目線に私は怒りしか覚えないよ」」
会長以外の全てを否定しやがりましたこのクソビッチ。
何が悲しくて僕がここまで助言してやったと思っているのですか。我慢しなさい、女の子でしょう!
「こう考えると私って、会長さんしかいないのかも…あの人優しくて眼鏡の奥から見えるきりっとした瞳がとっても素敵。あとあとあの薄金の艶やかな髪も私はとっても好きです。」
結局会長さんとなるんじゃないですか。
折角別の方をと思いましたのに、主人公さんはすっかり自分の世界に入ってしまわれています。
不味い状況です、このままでは僕がこの世を去ることとなるでしょう。
それだけは阻止しなくては、会長との仲を滅茶苦茶にしてやるのです。
「…先程も言いましたが会長さんとは合わないと思います。色々な障害があるのです、諦めてください。」
「どうしてですか、何故あなたがそんなことを決めつけるの。愛の力は偉大だよいくらでも障害があれば乗り越えてやる気概位は持ち合わせているんだからね。」
胸を張る主人公さん、僕はこの瞬間自分の重大なミスに奥歯を噛みしめます。
しくじりました、僕は会長さんとの仲を引き裂こうとしたのですが逆にその絆を強固なものとしてしまった。
こうなれば頑なに彼女はこちらの言葉を受け付けはしないでしょう。
意外と頑固なのです、彼女。それのせいでどれだけ選択肢をやり直し、超えてきたでしょうか。
もっと柔軟になりましょうよ、固くなっては人の器が知れると言うものですよ。
まあ僕みたいに行き当たりばったりに即行動してしまう人が言えた義理でもありませんが
「それによく考えれば貴方、小学生だよね。何故私たちのことについてそこまで詳しいのかな、まるで前から見てきたかのような口ぶりだよね。」
これは不味いです、彼女に僕の正体が知られたら不味いことになる。
或いは彼女の同情を変えますでしょうか。しかし僕の話をしても信じるわけもありません。
徐々に追い詰められていきます、後ろには既に壁がそびえ立ち逃げ場がない。
狭い部屋の中、僕と主人公さんは両方の鼻が付くほどに近づきます。
唇さえ奪えるそんな至近距離にて、突如部屋のドアは開かれました。
「合ちゃん!?ここにいるのは分かっているの、早く出てきなさい!!」
「…既にドアを強行突破している時点でその言葉に説得力がないですお嬢様。」
激しく開かれたドアの反動で僕と主人公さんは体勢を崩してそのまま絡み合うように倒れてしまい――――
「あー!合ちゃんのファーストキスが、この男好きのクソビッチに奪われてしまいましたわ!消毒しなくちゃ消毒しなくちゃ消毒しなく…」
「あらあら、私たちお邪魔だったでしょうか。仲睦ましいことで何よりです。」
僕の唇は完全に主人公さんに奪われる形となりました。
妙に柔らかくレモンのような爽やかな匂いが鼻を擽って、肉厚な唇は弾力があって気持ちよかった。
すぐさま僕と主人公さんは引き離されます。僕は全くの無事でしたが、主人公さんは体勢を崩した際に頭を打ったようで意識が朦朧としているようです。
彼女は僕の良く知る人物に揺らされて、とっても気持ち悪そう。
小さく聞こえる呪言がこちらの精神まで侵されてしまいそうになります。
何はともあれ、主人公さんの追及を一時的にですが逃れることになりとっても侵入者の方には感謝してます。
ですがいきなり扉を開けてられてはびっくりしますよグレートスさん?
「合ちゃんが心配で、付いてきてしまいましたわ。すみません、嫌な気分にさせてしまいましたわよね。」
ガクンと肩を落としてしょげかえるグレートスさんを見ると、こちらも強くは言えませんよね。
グレートスさんのおかげで窮地を脱したのですから、文句を言えるはずもありませんでした。
なので僕はついつい優しくグレートスさんに語り掛けてしまったのです。
「…いえ、そんなことはないです。グレートスさんは僕のピンチに駆けつけてくれたヒーローなのです。大好きですよグレートスさん。」
「うっお姉ちゃんだって、いつも言っているのにー!こんな時はちゃんとお姉ちゃんって言って欲しかったです!!」
僕の胸で泣く大きな子供みたいなグレートスさん。
それに家令である女性が部屋の片隅で「…やはり女性が抱き合う姿と言うのは、こう官能的で、いいものがありますね。」と呟いたのを僕は聞き逃すことはありませんでした。
 




