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主人公とのご対面 はじめ

こんにちは僕は傍織合はたおりあわせと言う前世冴えない男の子だった、現世での美少女さんです。

僕は現在とある人物の自宅前にいます。

そこは築40年は過ぎているでしょうか、とても古いアパートです。

鉄錆の目立つ階段、軋む音がやけに耳へと響く外廊下。

外観は水色のペンキが剥がれ落ちて、下地の鉄が頭を出している。

大きさからいって一部屋1DK程度でしょう。小さな部屋が一階と二階とで5室ほどあります。


僕の住む家とは大違いですね。僕の家庭環境は一段と冷え込んでいますが、家の面積としたら庭と車庫を入れてここの半分ほどでしょうか。

そこそこに大きい一軒家であります、現在の父上には感謝してもしきれません。

最も前世の僕はあのまま高校を卒業していたら、このようなアパートに住むことになったのでしょうけどね。


さてここに住むお方に今日は用事があって来たのですが、どうやら留守のようです。

二階の奥にある部屋のインターホンを何度か押して見たのですが応答はなく、ノックするも静まり返る紅のドア。

本当にここには誰もいないのでしょう、無駄足でしたか。

折角今日はグレートスさんのお茶を断って一目散に来たのですが、彼女は一体何処に行ったのでしょうね。



「…仕方ありません。また後日訪れてみましょうか。」



僕はいつ戻るかもわからない彼女を待つことを早々に諦め、一階へと繋がる階段に足をかけたところで僕は出会います。



「あら?貴方は確かこの間の女の子?私に何か、用かしら」



黒に近い茶髪のサイドアップ、人懐っこい可愛い笑顔。

僕に見せる全ての物が嫌味たらしくない素朴な感じを演出している。

彼女の名前は乙留桜花おつどめおうか、この世界の元となった乙女ゲーの『主人公』に僕は二度目の再会を果たした。















「おまたせ!アイスティーしかなかったけど、いいかしら」


「ファッ!?」


「いや、だからアイスティーしか…」


「…あっはい。どうぞお構いなく」



少々ぎこちなく僕の前には透明なグラスに入れられたアイスティーが置かれた。

僕は招かれた、ここは幾度となく見た主人公の部屋だ。

それをこうして現実で見るとやはり感慨深いものがあります。

部屋の中央を占領する大きな机、ピンク色の多い小物の数々。

脇に置かれたベッドには二つの熊がこちらを睨む。

赤と青の手作り、ぬいぐるみの数もゲームで見た時と同じように変わっていないように見える。


ゲームでの設定がそのままであれば彼女は親に勘当され、ここに一人暮らしをしているはずです。

幸いここは親戚の叔父ちゃんが運営しているアパートですので暮す場所には困ってはいないみたいですが、彼女は将来に大きな不安を抱えたままです。

だからこそ彼女は公務員試験に向け必死になって、日々を過ごす。

ゲームでは貧乏ながらも知恵と持ち前の明るさで、悲壮感に浸ることなくプレイヤーを導いてくれた彼女ですが現実となった今やはり色々と感じる物がありますよね。

特に今僕も両親との仲は冷え切ってしまっていますから、高校に入れたら勘当されこうなる可能性も無きにしも非ず。

今からでもグレートスさんに住む場所を確保してもらいましょうか。

いや、そうなるとまた貸しを作ってしまい将来本当に養子縁組への道が見えてくると言うもので―――



「さっきから部屋を見回して、どうしたのかな?何か物珍しいものでもある?」


「いっいや、何でもないです。」



彼女はキョロキョロと辺りを見回す僕を不審に思い、声をかけたようでした。

危ない危ない、つい思考が別の所へと飛んでいたようです。

ここに来た理由を思い出しましょう僕。

主人公に極力会うことなく、監視だけをしていました僕がここに勇気をもって侵入したのはあの『さかさおじさん』の言葉。


『自分の固定概念を疑う』


僕は今まで主人公に直接介入することを禁忌タブーとしてきました。

理由はこの世界の強制力とはどの程度の物なのか、判断がつかなかったからです。

もしかしたら消えゆくかもしれないと考えると慎重になるのも仕方のないことですよね。

ですがおじさんは固定概念を疑えと言いました。それは自らに課したこの禁止事項にも当てはまると思うのですよ。

主人公と接触しない、監視だけに留める。

それを打ち破り、恐怖から今も微妙に手が震えてしまっていますが何とか冷静さを失ってはいません。

これは一重にグレートスさんのおかげです。彼女が僕にここに立たせる勇気を与えてくれている。


僕は出されたアイスティーを思いっきり飲み干します。

口の中に紅茶の程よい苦みと甘みが広がり、まるで野原を駆け回るような爽快感を与えてくれますがそれを今は構っていられません。

用事はすぐに済むのです。ならばいつまでも長引かせるのは、相手にとっても失礼にあたるでしょう。

僕は彼女にとって思いがけない言葉を口にするのでした。



「…会長さんから手を引いていただきたいです。あの方は貴方に相応しくない。」



僕は出来るだけ相手の深層へと届けようとトーンを落とし、真面目な顔で告げる。

彼女にとっては寝耳に水でしょう。一度会長とのデート時に会っただけの僕が、手を引けと相応しくないと断言する。

快くは思っていないはずです、会長とデートしたのもやはりその気があったからでしょうし。

一筋縄ではいかない事は百も承知です。ですが言わなければ、僕の死期は早まっていたでしょうし言わないわけにはいかなかった。

だからこんな小娘に言われたところで変わる心だとは正直思いません。

寧ろダメで元々の言葉です。これで断られても仕方がない、そう思いながら彼女の返事を待ちます。



「なんで、なのか聞いてもいいかな。私が会長に合わない理由を」


「…ふむではまず外見的な問題から言わせてもらいます。貴方と会長さんは可愛い彼女とカッコイイ毅然とした彼氏として一見釣り合いが取れているように思えますが実際は完全に男性に食われるアクセサリー。

マスコットのような愛らしさの貴方がメガネのド鬼畜会長には合いません。それに黒茶と薄金はどう見ても不良同士ととられがちなので世間体はあまりよくないかもですね。

あと内面的には貴方は尽くし、会長はそれを当たり前とする関係。いずれ崩壊することは目に見えています。

貴方を見る目は既にお手伝いさんのそれでしたよ。これからも女として見てくれることは望み薄です、ご愁傷さまでした。」



真実、虚実全てを織り交ぜて口から出る無数の言葉は、彼女の心にどう響いたのか。

僕が全てを言い終えた後、彼女はしばし俯き静寂が場を支配します。

そして数分の時が立ち、ようやく声を出せるまで回復した彼女が言った言葉は果たして本音であったでしょうか。

微かに聞こえる強い苛立ちの声、ですがそれを聞き取ることは僕には出来ません。

僕が要約聞こえたのはその後、宣言するように立ち上がった強い彼女の咆哮でありました。



「なら、誰と付き合えばいいのよ!正直迷って迷って、誰にしたらいいのか分かんないんじゃボケーーーーー!!!」



僕はこの彼女の心から叫びについて、取りあえず聞こえないふりをしてあげることとしたのです。

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