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少しの家庭事情

再び朝、僕はいつものベッドで目が覚める。

勿論シャンデリアとか、無駄に沈むベッドではない普通のお布団。

羽毛のように軽く暖かいグレートスさんの所の布団とは違ってこっちのは少し重くて冷たい。

親が中々日干しをしないためかじめっとした感じさえする。

暗い部屋には一筋の光が伸びていた。

廊下へと繋がる扉が微妙に開いているのだ。なので光が漏れているのだなと僕は重たい体を何とか起こした。


昨日は豪遊に次ぐ豪遊でありました。

結局疲れを取るお休みと評してグレートスさんとまったり室内プールに入ったり、お話したり、お菓子を頂いたり。

疲れをとるためにとサウナにも入ったりしましたが、アレの効果は果たして出ているのでしょうか。

待ったりと過ごす休日、大分体も軽くなったろうと思っていましたが流石は朝が弱い僕。

それとは何も関係なく、気分の沈む始まりとなりました。

今日も一日憂鬱かもしれません。



「おーい合、朝だぞ。朝食の準備もしておいたから食べとけよ?」



扉から洩れる光からいつも目にする僕の姉の姿がチラリと映り、そしてすぐにいなくなってしまいます。


僕の姉は今年で17歳となる高校二年生。

部活は弓道部と演劇部を梯子していて、毎日とても忙しそうにしている。

でもそれだけ充実感はあるでしょうね。僕が言うのもなんですが輝いて見えるのです。

周りに銀粉でも無数に撒いてるかのようで、輝きが常人の数倍は出ていることでしょう。正に超人と言った感じです、本当に僕の自慢の姉だと断言できる出来ます。


そして僕を気遣ってか、毎日朝6時過ぎにはこうして僕を起こしに一言声をかける。

毎日朝練があって早朝には家を出る姉です。

物のついでということもあるでしょうが、その気遣いが僕には溜まらなくうれしい。


前世で優しさを知らない世を味わったからか、姉の何気ない優しさが身に沁みます。

朝食の準備もやってくれていますし、ホント出来た姉ですよ。

絶体誰にも渡しませんからね、こんな出来た子を嫁になど出してあげませんから。




「…さてそろそろ準備しないと。学校に遅れちゃう。」




色々と考え込んだせいもあってか、早めに起こされたはずの僕は既に7時を回り8時に差し掛かろうとしています。

どんなに早く起こされても低血圧の為、寝起きは物凄く弱い僕ですからこの時間にいつもなってしまうのです。

直さなければ直さなければと自分でも思っているのですが、中々難しいですよね。


未だふらつく体を何とか布団から出して、傍に置いてあった着替えに袖を通します。

今日のお洋服は白と水色のストライプ、下は真っ赤なミニスカートです。

特におしゃれに興味がない僕ですから買い与えられたものをそのまま着るのみであります。

今回はあの姉が僕と同じころ身に着けていた、所謂お古というやつが僕の手足となり血肉となるわけだ。

少々色あせたスカートが年季を感じさせる、ような気がします。


僕は自分の部屋を後にしてリビングへと足を運びました。

そこには誰も居ません。姉は先に出たのでしょう、テーブルの上にはいつも通り「いってきます」との走り書きが置いてあった。

両親は共働きで中々顔を合わせることはなく、また今顔を見合わせたところで何を話せばいいのか分からない。

僕と両親との間に出来た溝、僕がまだ僕でなかった頃から思うと、とても信じられないとあの人達は僕を認めてはくれませんでした。

僕は僕で、前世の記憶は所持してますが立派な貴方達の子供でしょうに。

中々達観した所がある僕はそれを冷めた目で見ていたものですが、こうして誰も居ないリビングを見ると少々心寂しくなってしまうのは僕がまだ未熟なせいでしょうか。

もっと孤独になれなければなりませんね。人は誰しも最後には自分一人になるのですから。


さて机に有るのはトーストの上に目玉焼きが乗った奴と自家製ドレッシングのかかるトマトとキュウリとレタスのサラダです。

我が家の朝食はフレンチなのです、お味噌汁とかご飯は僕には合いませんから当然ですよね。

時計を見ると遅刻ギリギリのお時間となっています。

僕は手早くトーストを口に放り込み、サラダを詰め込むとすぐさまランドセルを背負って学校へと赴きます。

背中の真っ赤に燃えるようなランドセルが、今日の日差しに当てられ目に焼き付く。

止め具周辺に多少の装飾がされており、可愛く仕上がっているランドセル。

今日も僕は通学路を走ります。校門までダッシュなのです。


途中こちらを振り返る通行人のみなさんに軽く会釈を返し、僕の日常は今日もまた始まりを告げました。



考えることはたくさんあります。

穂枯雫や安谷光との関係、グレートスさんの謎、僕の死亡フラグの行方。

両親との確執、主人公との出会い。

様々な要素が僕の足を絡み合い、引っ張り合うように思える。

なかなか踏み出せぬ一歩に僕は何とか活路を見出そうとしていた。




「おっはようあわせ!今日もシケタ面してんなおい!」


「おはよーあーちゃん!今日も可愛くてとっても素敵ですね!」



教室には噂をすれば何のやらな二人の女生徒の声。

辿り着いた僕のいるべき場所、必ず戻ってくると心の中で思う安息の地。

それは僕の家でもましてやグレートスさんのお屋敷でもない。この何の変哲もない教室、5年3組だ。

僕はここで生きて6年生へと上がる。

その為には沢山の苦労が、辛いことがあるかもしれない。4月の下旬、もし僕が物語の主人公であったなら未だ序盤のこの時。

動き出すとしたら今だ、何も決まっていない今こそ全ての雌雄が決する。

僕は駆け寄る二人に淡い笑みを浮かべて、今後を想い心で憂くのでした。

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