体がゆうことを聞きません
汗と体液で濡れたままの身体、時折漏れる喘ぎは小さな体であるのに女であることを深く意識させる。
ようやく手足が動く状態となったのに、足は震えて立つこともままならない。
快感が押し寄せてはまた引いていく。
ベッドの上は大洪水が起きた様で、僕は何とかゆっくりと半身を起こした。
「…ぐれーとしゅしゃん、しゅこしやりしゅぎでしゅよ」
「ふふっ口元が緩んで呂律が回っていませんよ。とっても可愛いですね、またやってもよろしいですか」
さ行が強制的にしゅとなり、口が僕の思いに追いつかない。
舌足らずで、その様が一層愛らしく見えたことでしょう。
グレートスさんがまた僕に這うようにして近寄ろうとしますが、流石に僕は拒絶の態度をとる。
ジェスチャーは両手を交差させた簡易のもの。
グレートスさんは既に十分に満足していたのかそれ以上の追及はしてくることなく、人ひとり隠せる大きなタオルを僕に投げた。
口元は変わらず笑みを讃え、びしょ濡れとなった布団を扉の近くにいたお手伝いさんに命令して下げさせます。
横顔がちらりと見えたお手伝いさんの耳は少しだけ赤みを帯びていて、僕も少しだけ恐縮してしまいました。
いや僕が悪いわけではないのですが、全面的にグレートスさんが悪いわけなのですが。
あれだけ激しいものだと、その、まあ恥ずかしいですよね。
大の大人でも目をそらしてしまうような光景がそこには広がっていたはずです。
口から洩れたのは熱い、興奮した声だったことでしょう。
部屋中に響いたそれを今更取り繕うことも不可能でしょう。
僕のどうしようもない痴態を他人に見られてしまいました、この事実だけで僕へのダメージはかなり大きいものとなります。
どうしましょうどうしましょう恥ずかしさのあまりこのままお婿にいけないかもしれません。
どうしてくれるんですかグレートスさん。
「私が貰いますから気にしなくても大丈夫。私は貴方の全てを愛しますよ」
恥ずかしげもなくそう言ってのけるグレートスさんが本当に羨ましい。
好きな気持ちを好きだって口にするのは相応な勇気が要ります。
否定されたら、拒否されたらどうしよう。不安が言葉を遮るのです。
愛しているだなんて、それこそ恥ずかしくてとても僕には言えそうにない。
嘘を、冗談を言っているようには見せてはいけません。慈しみ、こちらに囁くように言葉を伝えます。
グレートスさんには会ったばかりだと言うのにこんなに愛を囁かれるなんてことがあってよいのでしょうか。
あの日あの時、確かに運命を感じる出会いではあったかもしれませんがそれだけとは到底思えないのです。
何か別の、強い意志が関わっているようなそんな気がして、僕は頭を働かせます。
答はいつもの如く出てやきませんが、グレートスさんについて僕は余りにも知らなすぎではありませんか。
ゲームの中の彼女と今目の前にいる彼女。
どうにも違和感が拭えない、大らかで優しい彼女は陰湿でプライド高い彼女に似ても似つかない。
彼女の身に一体何が起きたのか、僕は全てを知る必要があるように思えます。
「私は何も隠していません、ありのままですよ。そもそも惚れるのに理由なんて順序なんて必要でしょうか。恋とは突然で、歪で、急展開。他人から見たら遊戯に見えるかもしれませんが、本気なんですよね皆」
そういうものでしょうか。
僕には理解できません、未だ恋を知らぬ16歳と120か月近く。
小説や漫画のように人は突然恋に落ちる。それを信じろと言われても僕には少し首をかしげてしまう問題ですね。
ギャルゲーや恋愛ものを正しく理解せんと読んだ数なら僕も相当なものとなります。
多少の恋愛観は持ち合わせているはずで、足手纏いにはならないと思いますけど
間違っても16歳の少女と10歳の少女が愛を育むことなど想定の範囲内。
そこまで僕の守備範囲は広くなかったです。
でも、愛は性別と国境とついでに世界まで超えると言いますから年齢の問題など些細なことかもしれません。
…いやだからといってこのままグレートスさんとなし崩し的に一緒になると言うことでは、断じてないのですが。
「ふふっまあそれはまた大きくなってからの話ですよ。兎に角今は、疲れに効くデザートでも食べますか」
気付くと濡れたままの服は新しいネグリジェに変えられ、既に家令の方がプレートを片手に立つ姿が見えました。
なんて早業でしょう、全く気が付きませんでした。
感覚すら置き去りにしてしまうと言うのでしょうか真の付き人とは。
最早常人には理解しがたい極致にいる方々ばかりです。
そして主の言葉によりすぐさま机といすを差し出しています。
心遣いはとってもありがたいのです。ですが少しはこちらの心の準備と言うものが――――
「さあ少し早目のデザートタイムですよ。楽しみましょう、確か合ちゃんはレモンティーでしたわよね」
手を引かれてしまっては逃げるにも逃げられません。
僕は一つため息をつき、その手を取ります。
僕は招かれるのです、大いなるお茶会へ。夜角目大財閥のご令嬢であらせられるお方に、直々にです。
考えてみればとっても名誉のあることなのです。ない胸を張りましょう、小さな背を大きく見せましょう。
少々ぎこちなく椅子に座る僕に、笑うお姫様は太陽のように光り輝いて見えて。
透けるように見えた薄桃色の髪は流れていきます。
僕と同じネグリジェのグレートスさん、その薄い生地は豊満で抱き心地のある彼女の生肌を隠しきれてはいないのです。
透けて見えたままのグレートスさん。
先程までそれを巧みに使って僕を快感の奥底の真理にまで導いたもの。
意識すると顔が真っ赤になって茹で上がりそうなほどの熱気を放出してしまう。
そんな僕をにこやかに笑って、紅茶を啜るグレートスさんはまたとても魅力的で。
またしても、どうしても貴方を考えてしまいます。
何度も何度も気を逸らそうとするのですが、何度も何度も蘇ってくるのです。
衝撃的なことが過ぎ去られた直後であるためか、今の僕には常にグレートスさんがこびりついて離れてはくれません。
これは早急な消毒が必要となるはずですよね。汚物は消毒だー!
「面白い百面相ね合ちゃん。またやりたくなりますわ、二回戦行っておきますか。イエス オア はい」
選択肢の意味がないそれに僕は俯きながら、出されたレモンティーを味わうように口に入れたのです。




