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寝てしまいました(合編)

空は橙に、木々は闇に飲まれる。

影が異様に伸び、まるで自分が偽物で影が主役であるかのような錯覚を覚える。

日は刻一刻と落ち、今にも暗闇が世界を覆わんとしていた。

異常なざわめきが聞こえるような気がして、不気味で、とっても怖い。

でも僕がこの場を離れるわけにはいかないだろう。何せ――――



「少しここで待っていてください。直ぐに終わらせますから」



そこには当たり前のようにグレートスさんがいて、目の前にある何の変哲もない落ち葉を踏みしめようとすると彼女は何処から持ってきたのか抱えるほど大きな石を落とした。

すると聞こえる地面が落ちるような大きな音。

僕が慌ててグレートスさんの元へ行くとそこにあったのは大人二人が肩車しても届かないだろう深さの穴。

落ち葉でカモフラージュしてあったそれは間違いなく人工の物であり、作った人の苦労が知れる。

何故こんなところに落とし穴があるのだろう、僕は疑問に思い首を傾げます。


ここはグレートスさんの屋敷からそれほど離れていない裏庭(本人談)。

殆ど人の手が加えられていない天然の山で、時折キノコ狩りが行われるだけで利用価値もない荒れ野だよとグレートスさんは言う。

その割にはグレートスさんの歩みに迷いがない気がしたのだが、ここでそれを突っ込むのは野暮と言う物でしょう。


僕は勿論のこと穂枯雫捜索に尽力している。

山に行っただろうと屋敷にいた使用人さんに話を聞いて訪れたのですが、予想以上に辛いものがありますね。

僕の足は既に震えが止まらず、立っているのがやっとです。

普段から運動をほとんどしてない僕には天然の山は難易度が高すぎました。

後でこちらに来たグレートスさんにも早々に見つかってしまい、僕は完全にお荷物。

お姫様抱っこまでされていた身です。とっても恥ずかしい、あれほど華麗に去ったのが黒歴史であるように思えてきました。

こんな格好悪い僕は、流石のグレートスさんであっても失望してしまいますよね。御免なさい。




「ふふっ無理しなくていいのですよ。貴方はか弱い女の子、私が絶対守って見せますから。」



グレートスさんはいつもの笑みをその顔に貼り付け、僕を抱く力をそっと緩めました。

か弱い女の子、ですか僕の評価。それはあまり嬉しくありません。

僕も元は立派な男の子でした。

ならば少しは意地を張らせてもらわなければ、僕のちっぽけなプライドも全て無に帰してしまいますよ。

僕は何とか一人で歩こうとします。緩めた腕から出ていく世界は何と遠いものでしょう。

落ち葉に足を取られてしまいます。

転げて膝や肘に擦り傷を作ってしまいました。

こんなことなら運動靴でも履いてくるべきでしたね。

ヒールでは歩くにも歩きづらいと言うものです。



「ほらほら、私の肩に捕まってください。直ぐあの子を見つけて帰りましょう。それが一番です」



まるで生まれたての小鹿のように震える僕を見かねて、グレートスさんは再び僕を抱きかかえる。

今度は逃げないように、しっかりと握られた手足。

お姫様抱っこ再びと言った具合ですが、僕はそろそろ疲れました。

目をつぶっているので、勝手にしろと言う感じです。早く見つけて、早く家に帰ってしまいましょう。

そして心行くまで温かい湯船でゆっくりとしたいのです。

グレートスさん、後のことはよろしくお願いしますね。




「分かりました。必ず見つけ出して、そして隅々まで私が洗い流してあげます。実は私マッサージ得意なんですよ、だから期待していて下さい合ちゃん。」



…もう、勝手にしてください。

僕は意識が遠のきそうになり、何度か船を漕ぐことになりますが結局眠りには抗えず静かに意識を手放してしまうのでした。
















目が覚めました。

ゆっくり伸びをして周りを見上げてみると、僕の周辺には人っ子一人いません。

辺りには静寂が訪れ、暗闇が支配する世界に様変わりしています。

何とか木の輪郭が分かる程度の中、不安だけが募っていくのです。

ここはどこでしょう、なんで僕はこんなところに寝ていたのでしょう、グレートスさんは皆は何処に。

暗闇は僕の心をも蝕んでいくようで、考えがまとまる気配がありません。

不安は留まる事を知らず、震えが止まらない。

目の前が回っているように感じて、立っているのもやっとです。

どちらに歩けばよいのか、ここは果たしてどこなのか分かりません。


このまま救助を待った方がいいのでしょうか。


下手に歩いて迷子となるよりじっとして待つ方が助かる可能性は高いように思えます。

先程まで眠っていたおかげで体力は幾分か戻っていましたが、まだ万全ではなく。

折角のヒールは歩くのを阻害する障害物と化します。

ですからこのまま待っている、なんて選択は僕に存在しておりませんでした。

鉛のように重い足を引きづるように僕はあてもなく歩いて行くのです。

意識が朦朧とする中、一体どれくらい歩き続けたのでしょう。

気付けば随分と歩いていたようで、僅かに光る物が見えました。

僕は助けだと勝手に判断して、走り出します。


ヒールを脱ぎ捨て、走りやすい裸足で駆け出す。

上手く見えない木々にぶつかりながらでしたので服はボロボロ、傷だらけとなっていることでしょう。

しかし僕はそれを気にするでもなく、懸命に光を目指して足を進める。

何とか光の下へと辿り着いた僕。乱れた呼吸を何とか飲み込み、目をあがるとそこにあったのは小さなランタンでした。

しかもまだ点けたばかりであるようで、十分に使える貴重品です。

これをここに置いたまま、持ち主は何処に行ったのでしょうか。

僕にくれるために置いた、などとは考えにくい。足を滑らせてしまって転げ落ちたのかも。

そんなことを考えている間に囁かれる小さな声。



『素敵なお嬢さん?こんなところで何をしているのかな』



凄まじくハスキーな声に心臓は高鳴り、振り返ると完全なる不審者がそこにはいました。

全身真っ黒なスーツを着込んだ布マスク。左手には少しの装飾が施された杖があります。

しかし彼の変わったところはそんなとこではありません。

彼は逆さだったのです。何かにぶら下がっているのでしょうが、上半身をこちらに投げて宙ずりとなっていたのです。


僕は彼にものすごく見覚えがありました。

彼は『さかさおじさん』、乙女ゲー随一のギャグキャラにしてお助けキャラの攻略対象外。

白いお髭を上にいきり立たせた、そんな一風変わったオジサマなのです。




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