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プロローグ

乙女ゲーの短編が思いの外評価高かったので連載。

短編の時より少しだけ設定をいじっていますのでご容赦を。

よろしくお願いします。

覚えてる、波のようにうねる薄桃色の長い髪を。

こちらに向ける優しげだが力強い青色の瞳を、薄く赤みを帯びた艶やかな口元を今も鮮明に覚えている。


桃のような甘い匂いが鼻をくすぐり、僕の頭に乗った大きくて暖かな掌。

まるで母に抱き抱えられているような安心感が心に染み渡っていく。

僕は一体何をしているんだろう、そう思った。

体に力が入らず、うなだれたままの僕。思考能力も低下していて今の状況がイマイチ把握できていなかった。



「大丈夫、もう大丈夫ですからね。」



心地よい声音が脳まで溶かしてしまうかのようだ。


触れた肌は妙な弾力があり、暖かい。このままずっと抱き着いていたい衝動に駆られるが、それは許されぬことだ。

僕は辛うじて残る意識を絞りだし、声を上げる。



「…僕に協力してください。夜角目さん、貴方の力が、必要なんです。」



やっとの思いで絞り出した言葉は拙く、理由や根拠なんて全然説明できなかったが彼女はそれに快く返事を返す。



「いいですよ、私に出来ることなら何でもしてあげる。でもその代わり…」



何とか言を繋いだ僕の意識はそこで途絶える。

ついに彼女の口から最後まで交換条件を聞くことは叶わなかった。


それが後に重大な事件を生むことになろうとは、この時の僕は考えもつかない。


ただ彼女の胸に体を預け、寝息を立てる。最後に見たのは薄暗く淀んだ空と彼女の穏やかな顔、であった。


















甘酸っぱい匂いが部屋中に広がっている。

レモンティーだろうか、僕の前にある白の陶器には湯気を上げる黄色い飲み物が存在する。

更に視線を上げると優しげな笑みを浮かべたまま優雅にカップを煽る『夜角目よつのめグレートス』さんと目が合う。


彼女は僕の視線に直ぐに気が付き、カップをテーブルに置いた。


流れるような薄桃色の髪が座っている純白の椅子とマッチしてとても印象的に見える。

高貴な出で立ちがより一層深みを増していくかのようだった。




夜角目よつのめグレートス』

夜角目大財閥の令嬢にして今の僕が最も頼りとしている人物の一人。

薄桃色の長い髪とその温和で洗練された顔立ちが印象的な典型的なお嬢様。


彼女と出会ったのはついこの前、4月の頭でとある事情により尾行する僕を彼女が見つけた。


それからの付き合い、と言ってもまだ二週間と経ってはいない。しかし短いながらも中々に濃ゆい日々を彼女と僕は送ってきたのだと断言できる。

…ですが流石にもう、カラオケ24時間マラソンとかは御免こうむります。

アレは単純につらい。





「ふふっあの時は楽しかったですねぇまたしてみたいものです。」





当たり前のように心を読んできた彼女に驚愕しつつも、何が楽しいものかと僕は反論しようとする自分を必死に押さえつけた。

僕がここにいるのは単なる遊戯などではない。そりゃあグレートスさんとこうしてお茶するのは心が安らぐ。


ずっとこうしていたいと切に思うが、それではどこかの軽音楽部のようになってしまいそうで怖いのだ。


だから24時間カラオケのことはもう忘れて他の話を致しましょう。あれは喉の限界を超えて次の日声出なくなりましたし、ただの苦行としかならなかったのですから。




「残念です。でも私は貴方といられたらそれだけでもう幸せですからね。ふふっ」




グレートスさんは軽やかに微笑を浮かべる。

まるで太陽のように眩しく、女神であるかのように神々しく光景が幻視されるが、内容としてひどいものだった。

そもそも僕は女の子だ。れっきとした10歳の小学五年生。


そんな子に貴方といられたら幸せですなんて、ちょっとグレートスさんはロリコンの毛があるかもしれません。


危険ですので僕もグレートスさんから離れた方が良いかもしれませんね。うん、それがいい。




「あっ意地悪しないでくださいよ。私は貴方だからよいのです、勘違いしては困ります。」




むっと頬を少し膨らますグレートスさんも何かとっても可愛くて非常にグッド。

強いて言うならもっと上目遣いで恥ずかしそうに顔を赤らめていればなお良かった。


なんて、そんなことを話している場合ではありません。僕にはやることがあるんです。

とっても大事な、僕の命に直接関わる重要なことが。




「それで?ちゃんと判明したのですか。彼女の行方と行動範囲は」




「うーん、まあ大体は判明しました、後でデータ化して直接渡しますのでそちらで確認を。

しかしこんな私好みの可愛らしい少女を貴方の為とはいえ調査して何の得があるのでしょう。私には全く理解できませんわ」




グレートスさんは肩をすくめて疑問を投げかける。

彼女にとってその情報は必ず役立つものであるはずなのだが、どうやら本人には全く自覚がないらしい。

僕は苦笑しつつ彼女にこう答えた。





「えぇ僕の為にもグレートスさんの為にも、それは非常に得のあるものですよ。」





ニッコリ笑う僕が脳裏に思うのは一人の可憐な少女の姿。

黒に近い茶髪のサイドアップされた髪、利発そうな容姿は正しくどこかのゲームのヒロインであるようで。


事実僕の連想した彼女はこの世界の『主人公』であり、この何ら普通に見える世界は僕が妹に借りてプレイした乙女ゲーの世界とあまりにも類似している。


そんな世界に前世の記憶を持って転生した僕は、今世で死亡フラグの立つ女子小学生を演じていた。






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