茂ミヨ椎岳二登レ
単鉱探偵事務所一行が山登りをしていた所に奇妙な茂みが立ちふさがります。
民葉町の北側には山が多い。その中でも最も高い山が「椎岳」である。
椎岳は、春夏秋冬様々な顔を持つ為地元では年中無休の人気登山スポットである。
単鉱探偵事務所一行も、そんな椎岳に登山に来ていた。
淡々と山道を行く単鉱怪揮に付いてくるのがやっとのファヴロス。
「怪さんちょっと待ってくださいよ。私はあなた程体力に自信は有りませんから。」
長い道のりにファヴロスが弱音を吐くも、怪揮は一蹴した。
「目的地はまだだ。それにお前にゃ背中に立派な羽根が有るはずだろ。こいつで飛んでくれば楽だろ。」
怪揮が最もそうな事を指摘したが、畳み掛けるかのようにファヴロスは理由を話す。
「飛行する方がよっぽど体力使いますよ。」
やがてファヴロスは疲れきって目を回してしまう。怪揮は相方の体力不足を嘆きつつ一先ず休憩することにした。
単鉱怪揮が椎岳に向かったのは観光目的でなく、ある用事があったからだ。
今回はその用事を最優先にする為、いざという時に戦いの訓練になるとしてファヴロスを連れてきたのだ。そう、彼はまだ事務所で働き始めてから一度も事件を担当していない。当然戦闘経験など無いも同じである。そこで、用事を済ませるついでにファヴロスに対し実地訓練を行おうと企んだのである。
幾度と休憩を重ね、ファヴロスも漸く山道に慣れた様子。怪揮ともやっと追いついた。
山道を行く二人の前に現れたのは不自然とばかりに生い茂った茂み。この茂みは明らかに山道を塞いでいるのだ。
怪揮曰く「前にも何度か来た事はあるがこんな茂みは無かったぞ。」と口走った。
そこで怪揮は茂みを吹き飛ばそうとダヴィンガを取り出し、茂みを焼き払おうとするもファヴロスに止められてしまう。
「待って下さい!目先の目的だけの為に周りの植物全てを犠牲にするつもりですか!」
怪揮は元々何かしらの目的の為なら動物だろうが植物だろうが人間だろうが容赦なく切り捨てる質なので、ファヴロスの考えに呆れ果ててしまう。
しかし、茂みに道を絶たれた事実は変わらず、目的地に行くことが叶わなくなった二人の前に狩衣衣装を着た鳥の姿をした時空獣が飛来した。椎岳に住む時空獣「ルリチュウブ」である。
ルリチュウブは怪揮を迎えに文字通り飛んで来たのだ。怪揮とは何らかの知り合いらしい。
早速怪揮は山道を塞いだ茂みについて聞いてみると、ルリチュウブ曰くこの茂みは数日前に発生したものらしい。更に質の悪いことにこれと似た茂みは他にも存在しており、他の登山者の行く手までも阻んでいるとか。それを聞いたファヴロスはこう叫ぶ。
「確かに私は木が好きですが、こんなあくどい木は見たことも聞いた事もありませんでしたよ!」
気味が悪くなったファヴロスが下山しようとするも、突如茂みが発生し、退路をも絶ってしまった。
しかも、質の悪いことにその茂みから竹槍のごとく枝を伸ばして一行を攻撃したのだ。ファヴロスが飛んで周囲を見渡してみると今まで通った山道にも同様の茂みが発生しており、立ち入った登山者を襲っていた。一方で怪揮達の前にあった茂みも何時の間にかボリュームを増やしていた。茂みの樹木が増えたからだろう。
何も無い所からいきなり茂みが発生し、いきなり増殖を始めた様子から時空獣が関与した事件である事は間違いない。しかし怪揮は茂みに阻まれている為、それを確かめる事が出来る状況ではなかった。
そこで怪揮は思い切ってこの事件をファヴロスに託す事にし、この決定にファヴロスも承知した。
では早速と言わんばかりに、怪揮の許可を得たルリチュウブは「打出の小槌」が大型化したような大槌を振りかぶり、ゴルフの要領でファヴロスにぶつけ、山林の真っ只中にまで飛ばしてしまう。
こうして、ファヴロス最初の事件が幕を開けたのであった。
今回も期待はずれで申し訳ございません。
実は初めての数話にまたがっての事件なのです。
次回もお楽しみいただけたら幸いです。