試練の洞窟1
更新が遅くなり、申し訳ありませんm(_ _)m
良ければお読みください。
城塞都市エネルと、東国アリオンと唯一の交易がある港町アミスター(古い言葉で友情と名付けられた)を繋ぐ街道のちょうど中間地点から、北に進むと【聖獣の森】と呼ばれ、魔物達が一切近寄らず、清廉な空気と聖なる気を宿した森が広がり、その奥には小さな村と…そして試練の洞窟と呼ばれる場所がある。
【試練の洞窟】迷宮の一つなのだが、挑戦する冒険者や傭兵などは、ほとんどおらず…挑戦するのは武芸者や求道者などだけしかいない。
それにはいくつかの理由があるが…最大の理由が【魔法具】と【魔石】が存在しないことだ。
通常…神々が作ったか、自然発生した迷宮には、その核となるモノが存在する。
迷宮のボスが宿し、普通の魔物が持つ魔石とは、段違いな高密度の魔石。…もしくは【魔法具】そのどちらかが存在する。冒険者や傭兵はそのどちらかを目指して迷宮に挑むのだが…。
試練の洞窟には、そのようなものは全くなく、通常の魔物すら倒しても魔石を落とさない。
と言うよりは煙のように消失するのだ。
それでは魔石や魔物の素材を売って、生計を立てている冒険者や傭兵が挑む理由がない。
もちろんそれには明確な根拠がある。
なぜ、存在しないと言えるのか?
それは攻略した者達が存在するからだ。
その者達の話によると、出現する魔物はランダムで、奥に進んで現れたボスらしき魔物もランダムらしかった。
では…まったくのランダムか?というとそうではなく、ある共通点が存在する。
それは挑戦者達の苦手とする魔物が現れるということ…。
その情報を元にある者が立てた仮説によると、洞窟に現れる魔物達は、入った人間の記憶から作り出された存在であるため…倒したところで消滅するだけのモノなのだ。
要するに…この洞窟は己の心の傷や、苦手意識を克服するのには役立つが、それだけなのである。
そして…試練の洞窟が開くのは半年に一回。そのうえ理由は不明だが、入れない場合もある…。
そのために…発見当初はかなりの挑戦者がいたが、今はほとんどおらず、先ほども述べた通りの武芸者や求道者くらいしか入らない。
が、この日は洞窟に近づく7人の人影がいた。
★
「ここが…試練の洞窟…」
アベルはゴツゴツとした岩山に空いた洞窟を見て、呟いた。
今日の勇者達は全員がフル装備だ。
アベルはスッキリとした形状の白銀の鎧に、盾と剣をすでに身についている。
ニースも同じような形状で、所々に青のラインある白銀の鎧に二振りの剣をすでに抜剣してある。
マリーとサーシャも、いつもは身に着けてなかった【魔法具】であろう宝石類を身についている。
僕は腰に剣を身に着け、右手に手甲、背中には短弓と矢が16本装備している。
両隣を歩いていたルナスとブラッドは、ルナスはいつも通りフードを目深く被って、腰に短剣と…何やら懐に何かを装備している。
ブラッドは昨日身に着けていた手甲と、クロスアーマー…布で作られた鎧と、おそらく、その中にチェインメイル辺りを身に着けているようだ。
「フハハッ!我が友よ!ここが試練の洞窟なのか!?」
隣にいたブラッドが、アベルの呟きを聞いたのか、僕に確認する。
それに僕は頷いて返した。
…我が友ねぇ。
話はブラッドを倒した直後に戻る。
★
ドサッ…。と静かにブラッドは倒れた。
「はっ…!?」
アベル達が呆気にとられたような声を漏らす。
「ふぅ…」
僕はため息を漏らした。
それと共にリラが駆け寄ってくる。
「だ、大丈夫なの?怪我は!?」
心配そうな瞳でこちらを覗き込む。
「僕は大丈夫…。アベルさん!」
リラの頭を心配ないと、軽く撫でてから、呆気にとられ、固まっているアベル達に声をかける。
「…っ!…おめでとうヤマトくん。…まさかここまで強いとは…」
近づいた僕に、信じられないようなモノを見るような目を向けてくる。
…ここまで強いって言われても…この世界に来てから、ずっとこの村に居るしな。
と…それはともかく。
「どうも。マリーさんか、サーシャさんって回復魔法使えます?」
「…私が使えるけど…」
マリーさんがおっかなびっくりとした挙動で、前に出てくれた。
普段はゆったりとした動作で、色香を漂わせる人にビクつかれると、さすがに僕もショックなんだけど…。
「ブラッドの治療をお願いします。加減はしましたが…内臓までダメージがいってるかも、しれないので」
「え…ええっ!分かったわ!」
マリーさんは力強く頷いて、倒れたブラッドに駆け寄った。
「私達も行こう」
アベルがそう言うと、ニースとサーシャが頷き、マリーさんの後を追いかけて行った。
「あれ…?ルナスは行かないのか?」
一人立ったままのルナスに話かけると、ふるふる…と首を振られた。
「…ヤマトの側にいる」
そう言ってルナスは近づいて来ると、服の端を掴んだ。
…伸びるんだけど…ま、いいか。
ルナスを気にしないようにして、ブラッドの様子を僕も見に行こうとすると、リラが追いかけて来た。
「もう…っ!なに、人がせっかく心配してあげてるのに、つかつか歩い…て…え?」
リラが目線をルナスに合わせると、目を丸くして固まった。
こんな表情初めて見たな。
「って何で黒の勇者様があんたの側に…」
「ヤマトの側に…私が居たいからいる」
「むぅ…むむむ…!ヤマト!」
…なんか、矛先がこっちに向いて来たな…。
「…なんだよ?」
なんやねんと思いながら返事をすると、ルナスと反対の裾をグッと掴まれる。
「なら…私はこっち握る!文句ないでしょ?」
なに…対抗意識を燃やしてるんだ…。
めんどいので、そのまま歩こうとしたところで、義父達が近づいて来た。
「な〜に、両手に花を侍らしてやがる?」
開口一番ニヤニヤとレイダーさんが、からかうように言って来る。
「侍らしてない、侍らしてない。で…?義父様?」
手を振り否定して、レイダーさんの隣で、同じようにニヤニヤといやらしい笑みを浮かべている義父を睨みつける。
「おぅ…!?そんな怖い目で見るなよ!?コイツもだからな!」
「テメェ!ウィルド!」
二人は小突き合いを始める…。
「で…?それで誤魔化されるとでも?」
僕は畜生を見るような冷たい目を向けた。
「「チッ!」」
…このオッサン共は…。
「あ〜…一応理由はあるぞ?…だがまぁ、明日は試練の洞窟四度目の挑戦だろう?それから帰って来たら、話してやるさ」
義父は頭をかきながらそう言って、ルナスの方をチラッと見た。
…やっぱりあの暗殺者ぽいの敵に回すのはまずかったか?
ウルドに聞いたら、レイダーさんが何やら脅してくれたらしいけど…。
「ま、それまでウィルドの言うように我慢しろって事だ。それより…アレ使えそうか?」
「アレ…?ああ…。多分使えるね。それも目的の一つだったの?」
僕の言葉にニヤッ!といたずらの成功したような笑みを義父達は浮かべる。
僕達の会話を聞いて、服を引っ張っている二人が訝しむような表情をして、顔を見合わせるが、…ま、これは話さない方がいいだろうなぁ…。
そんな中ブラッドが倒れてる辺りから、騒がしい声が聞こえた。
「傷は治したはずなのに…なんで!?」
何事だと近づくと、普段はおっとりとした表情のマリーさんが、焦ったような表情を浮かべ、周りも動揺している。
「…どうしたんです?」
近づいて近づくと、サーシャが息を飲みジロッとこちらを一目見てから、事情を話してくれる。
「…生命力が戻らないんですよ…」
その声色には僕を非難するようなものが、混ざっていたが、直接は勝負での事なので、言わないようだ。
ブラッドを見ると、顔色が青白くなっていた。
…これって、もしかして…。
「マリーさん。ちょっと良いですか」
そう言って、有無を言わせずにブラッドに近づくと、「覇ッ!」と気を込めた掌底を叩きつける。
「「なっ…!」」
周りから驚きの声が上がる。
「な、何をしてるんだ!?」
血相をかいたアベルに肩を掴まれたが…
「これでよし!」
ブラッドの顔色に血の気が戻って来た。
「これは…」
「…ブラッドさんは気を一気に使い過ぎたせいで、気力欠乏症になったんでしょう」
本来は筋肉と同じように、脳が制限するはずだけど…、あの固有能力の使った状態で倒したから、一気に気力がなくなったんだろう。
「とりあえず、宿のベッドに運びましょう」
「あ…ああ…」
そして僕とアベルでブラッドを運んだ。
★
「グッ…ァ!」
ブラッドは呻き声を上げて、勢いよくベッドから体を起こした。
悪夢でも見たのか、汗を流して、顔は憔悴している。
「起きました?」
僕はブラッドに話かけた。
「ここは…そうか…我は負けたか…。己から仕掛けておいて…はは…」
自嘲するようにブラッドは笑う。
そして僕に目を向けると。
「なんだ…?負け犬を嘲笑いに来たか…イイ趣味をしてる」
皮肉げに顔を歪める。
まずいな…。僕に負けたのがショックだったのか、普段とはかけ離れた卑屈さだ。
「様子を見にきたのと…夜になってので、そろそろ目覚めたかと、これを持って来たんですよ」
そう言って、小鍋の蓋を開けると、白い湯気と共に、部屋いっぱいに食欲をそそる、なんとも言えない匂いが広がる。
その時ぐぅ〜と腹がなる音が聞こえた。
「…ッく!」
ブラッドは忌々しげに顔を歪めた。
「はははっ…!どうぞ」
そう言って、ベッド横の台に鍋を置くと、小皿に雑炊を取り分けた。
「これは…」
「消化に良い。雑炊ってやつですね。体力取り戻せるように、濃厚な鶏出しに豚団子、卵、薬味、梅干しを使いました」
それをブラッドに渡すと、恐る恐る食べ始めた。
するとみるみるうちに、小鍋が空になった。
「お気に召したようで、何よりです」
満足感に満たされたブラッドにそう言うと、気まずげな表情を浮かべる。
「……馳走になった。そして…旨かった……ダメだな。我は…」
そう言ってブラッドが、顔を伏せた。
目も覚ましたし、ご飯も食べたので大丈夫だろうと、部屋を出ようとしたところで「少しよいか…?」とブラッドから声をかけられた。
真っ直ぐに見つめられる。…男に見つめられる趣味はないんだけど…話たい事でもあるのだろう。
「いいですよ…」
無視したら、根に持たれそうなので、断りを入れて、ベッドの横に椅子を移動させて、座った。
「まずは先程態度を詫びよう。すまなかった」
そう言ってブラッドに頭を下げられた。
「いやいや…気にしてないですから、大丈夫ですよ」
なんとも思ってないしな。
「寛大さに感謝する。そして…ヤマト!お前の強さを見込んで、図々しくも頼みがある」
力強く、そしてどこか懇願するな目で僕を見つめる。
「…我に仕えてはくれないか?帝位を継ぐためにも、その後の目的を果たす為にも、お前の力が欲しいのだ!」
「嫌です。絶対に」
間一髪入れずに僕は断った。
「くっ…!報酬ならお前が望むままに!我の命でも差し出そう!だから頼む!」
ブラッドは深く頭を下げた。
…そんな面倒くさい事はお断りだった。ブラッドの命も、欠片も興味が湧かない。
「嫌です」
「やはり…ダメか」
そう言って顔を上げる時「エイミー…」ブラッドは何やら人の人の名前を呟いた。
「引き止め、急に無理な事を言った。すまん」
「エイミー…って?」
苦笑するブラッドに呟いた事を聞く。
「ふっ…気にするな…。どうやら無意識に呟いたようだな。…そうだな…。我を救った少女で…今度は我が助けたい世界で一番愛しい女性だ」
目を伏せ、ブラッドは大事な何か思い出すように呟いた。
「…やれやれ…何を言ってるのだがな。我は…、すまんな。長く引き止め…」
「分かった…。報酬はいらない代わりに、仕える事も出来ないけど、その子を助ける為なら力を貸す」
「なっ…!?いいのか…!?…だが、何の理由で…」
「…詳しい事情は分からないけど…その子を見捨てたら、僕は僕の大事なものを裏切る事になる」
何でかは分からないけど、そんな気がした。
少しブラッドを、己に重ねたのかもしれない。
「それ以上理由が必要なら…友としてだ」
今度は僕がブラッドを真っ直ぐ見つめる。
ブラッドはそれに目を見開き、何かを察したのか、微笑むと手を差し出して来た。
「ありがとう…。我が友ヤマトよ!お前が我の力が必要な時は、全てを賭けて力を貸そう」
「ああ…!」
そう言って僕はブラッドの手を熱く握ったのだった。
★
うん。正直言って、半分は勢いと雰囲気にのまれたのが、ありましたよ?
…でも…ま、僕にとってのリラのような存在が、ブラッドにいるのなら…それを助ける為だったら、いくらでも力を貸したいと思ったんだ。
この一週間で、随分厄介事が増えたような気がするなぁ。
自業自得だから、いいんだけど…。
「ヤマト、大丈夫?」
「我が友よ。本当に大丈夫か?」
両隣から二人が心配するように、覗き込んで来た。
「や、大丈夫、大丈夫。それより早く洞窟に入ろう」
「大丈夫なら…良かった」
「ふむ、なら行くとするか!」
二人は僕の言葉に揃って頷いた。
「では俺から先に入る。皆、続いてくれ!」
そう言って、アベルが薄い光の膜が張られた洞窟に入った姿を消した。
「次はぼくが行くよ。じゃまた」
次にニースが飛び込み…。
それにサーシャとマリーさんが続こうと、するが…「っ…!」薄い光の膜を通ると、表に出てきてしまう。
その後何回か、同じような事を繰り返して、二人はやって諦めた。
「お二人共、入れない人なんですね」
そう言うと「ウルサいんですよ。…あんた強いんだから、アベル様が危険に晒されたら、助けなさいよ!」とサーシャに睨まれ。マリーさんには「ニース様の事もお願いね…?守ってく・れ・た・ら…イイことするわ」とウインクされた。
僕の知って事じゃなかったが、とりあえず頷いたおく。
サーシャはともかく…マリーさん変わり身早いなぁ。
ステキだと思う。それと助けたところで、【イイこと】なんて曖昧な表現もステキだ。
二人が入って、少し時間が経ってしまったので、ブラッドとルナスと僕の順で入った。
…ルナスが入る直前マリーさんにガンたれしてたような気がするが…気のせいだろう。
★
閲覧ありがとうございます。
書いてて思いましたが…なんで勇者マニアが試合後にブラッドじゃなく、ヤマトに駆け寄るのか…?
なんでヤマトの強さに驚かないのか…?
の疑問解消の為にやっぱり過去編を二本
【一年前の話】と【ヤマトが異世界の村に来て、リラをなぜ大事にするようになったか?】は序章が終わりましたら、執筆予定です。
後書き長いなぁ。