四英雄
毎度お読みいただきありがとうございますm(_ _)mイブですよ?…や、俺には何の関係もないのですが
三人と一緒に宿に戻り、階段で別れる。
手を洗い、鍋でお湯を沸かす。
お湯が沸くのを確認すると、お湯と水をを桶に入れてちょうどいい温度に調整する。
タオルを腕にかけて、二つの桶を持って二階に登る。
まずはアベルの部屋だ。
コンコンッ!と扉をノックするとアベルが出てくる。
「やぁ。ありがとう」
白銀の鎧を外して、簡素な服を着ての笑顔は妙な色気があった。
僕が女の子ならドッキッ!って感じだけど、残念ながらそっちの趣味はないし、僕は男だ。
「もう少しで昼食の準備が出来ますけど…部屋でお食べになりますか?下の食堂で食べますか?」
どちらでも構わないが下で食べられると少し面倒な事になりそうだ。
なにぶん娯楽のあまりない辺境の村だ。
その日々を生きるのに精一杯なら、よそ者の事など知った事じゃないだろうが…、この辺の土地は肥沃ななので食料も懐もある程度余裕がある。すると娯楽などを求めるのが人の人情ってものだろう。
それも勇者様だ。今までの冒険の話や、その姿を一目見るために宿に来る可能性はかなり高い。
悪意のあるものではなく、純粋な好奇心だが疲れた体には堪えるだろう。
なれているのか、アベルが苦笑する。
「一階で食べるのも楽しそうではあるけど、昼は部屋で食べさせてもらうよ」
「かしこまりました。お食事は二種類ありますけど…どうしますか?」
「ふむ、ならオススメで頼む」
はい、と返事をしてアベルの部屋をあとにする。
次はニースか…。
また扉を同じようにノックすると、「はい。どうぞ入ってください」と声がするので、そのままドアノブを回してニースの部屋に入る。
「失礼しまっ…す…?」
普通に入ろうとして、言葉に詰まった。
ニースもアベルに比べて鎧を脱いでいた。
それはいい…まったく問題じゃない。外で野営する場合などそのまま着たままなのだから、肩が凝るだろう。
いや…そもそもニースに問題はない。
あるのは僕の方だ。
見惚れていた。先ほどまで後ろで、纏めていた艶やかな髪をおろしているだけ…そうそれだけなのだ。
だがそれだけで美少年のような印象から美しい少女に…リラとはまた違う魅力を持ち勝るとも劣らない美少女だ。
「ん…?」髪を僅かに揺らしながら、首を傾げこちら見る。
「えっと…お湯とタオルです」
「ありがとうございます」
耐性がない男なら、この笑顔だけで命を賭けかけない。
…ニースこそ、ぼくっ娘ってヤツか?
ま、何があるか分からないから、無駄な詮索はしないけど…。
ニースにも昼食を聞くと部屋で食べると、言われた。
何でもあの色っぽいお姉さんから、勇者であると知られたら部屋で食べるように言われてるらしい。
それもそうか…。今回は試練の洞窟に入る為に勇者という身分が必要だったのだろうが、本来各地を冒険するだけなら明かす必要がないだろうし。
身分を明かすとそれはそれで厄介事を呼び込むのだろう。
ニースの部屋も出て他の部屋も周り終えて一階に戻る。
どうやらとりあえず、全員が昼食は部屋で食べるらしい。気になったのは黒い漆黒の女性が部屋でも、黒尽くしの厚着を脱がない事くらいか。あと出会って1日も経っていないサーシャだが、何やらまた変な態度だったな。
何か言いたそうにしてたけど、結局何も言って来なかったし。
何なんだろう?
★
とりあえず店を開けると目を輝かせ、慌てたようにリラが駆け込んで来る。
「どうしたの?」
一応分かりきっているが、質問する。
「ゆ、勇者様達は…!?勇者様達はどこ!」
目が異様にギラギラしてる。
近所のお兄さんにライブ連れて行って時の事を思い出すギラギラぷりだ。
さすがは勇者マニアか。
「あ〜、今は旅で疲れてるから会いたいなら後にしなよ…」
「今すぐに会いたいのっ!今すぐ!」
「…嫌われるよ?少なくとも第一印象最悪だよ?」
「…むぅ、うっさいわね…。…でも確かに言う通りか…いいわ!変わりに貸しもあるんだから、会う約束を取り付けなさいよ…!」
ビシッと人差し指で人様を差して言うリラ様である。
ま、いいけど…。
「はいはい。分かりました。でも約束は出来ないよ」
ため息と共に言うと、形の良い眉がつり上がる。
「はい、は一回!
…しゃあないわね。じゃそれで勘弁してあげるわ」
リラは仕方なさげに首をふる。
「じゃ…よろしく!」
と己の目的を果たしたリラは去っていった。
それから少し経ったあとグレッドさんが扉を開けてやって来た。
「やぁ。ヤマトくん。ステーキサンドは出来てるかな?」
「ああ…グレッドさん。出来てますよ…」
そろそろだと思い、作って包んで置いた物をカウンターに出す。
「…ところでリラに勇者様達の事を教えたのはグレッドさんですね?」
僕がジト目で睨むとグレッドさんはうっ…!と怯んだあと頭を触る。
どうやら困った事があると頭を触る癖があるようだ。
「いやぁ…ついついいつも勇者様の話をせがまれるから、話ってしまったよ。あはは…は…」
僕が無言でグレッドさんを少し見続けると、なんともバツが悪そうな困った顔する。
そんな微妙な沈黙を破るように、扉を豪快に開けてレイダーさんが入ってくる。
「おぅ!ヤマト!…うん?グレッドも一緒か…」
レイダーさんはグレッドさんに目をやって、すぐに興味を無くしたようにカウンターに座った。
グレッドさんはホッと胸をなで下ろしている。
さすがに可哀想なので今日はこれくらいで勘弁しておこう。
「今日はステーキサンドとウガドリ卵のオムライスですけど…どうします?」
僕の言葉にレイダーさんはニッと笑う。
「両方だ」
「かしこまりました」
「ところで…勇者達が泊まってるんだって?」
レイダーが現れてホッとしたのも、つかの間またバツの悪そうな顔をするグレッドさん。
「グレッドさん…。
結局広まる事なんでイイですけど…」
グレッドさんは僕の言葉にまたホッとしたように息を吐いた。
…こんな風に根が正直過ぎるから、商才はあっても大成出来ずに行商人をやってるんだろうなぁ。
オーブンでステーキに火を入れると、同時にフライパンを温める。
「来てますよ。勇者様達が四人にその仲間が二人です」
「ほぅ…でお前から見てどうだ?」
レイダーさんが面白そうな顔をする。
「ん〜…二人は正に勇者達って感じで、あとの二人はあんまりわかんないですよ」
そう言うと、レイダーさんはなんとも微妙な表情を浮かべる。
「いや…聞き方が悪かったな…。んで強いと思ったか?お前じゃ勝てないか?」
「うーん…。強いと思いますよ?さっき二人の勇者が手合わせしてるのを見る機会がありましたけど…並みの努力と才能じゃ身につかない技量でした」
「ほぅ…手合わせねぇ。それで?」
勝てるか、どうかか…。
「生死を懸けたのなら、負けるつもりはないですけど…試合だとルール次第ですね」
「フッハハハッ!…まぁ、そりゃそうか…?何せヤマト、お前は俺とウィルドの二人の技を継いでるんだからな」
レイダーさんは豪快に笑い、自信たっぷりに不適に笑う。
「…今まであんまり聞けなかったですけど…正直な話レイダーさんや義父は何やってたんです?」
料理を出して、今まで疑問にしていたことを言うと、レイダーさんは途端に言葉に詰まる。
「…ふぅ。レイダーさん…そろそろヤマトくんにも教えてあげてもいいんじゃないでしょうか?勇者様達が来た以上はいずれ知ることになるでしょうからね」
横で話を聞いていたグレッドさんがそう言うと、レイダーさんは頬をかき「あ〜」と声にならない呻きを漏らす。
「あなた方が…二十年前の戦争で何を見て、何を知って、何を思ったのかは私には想像もつかない事ですが、私達に、少なくとも私に取っては紛れもない英雄なのですから…」
普段のとは違う真摯な態度でグレッドさんがそう続けると、レイダーさんは肩を落とし大きく息を吐く。
「英雄…」
僕が驚いたように言うと。
「仕方ねぇな…ちょっと飯を先に喰うから待ってろ」
レイダーさんはそう言うと、料理を一心不乱に食べていく。
それを横目にグレッドさんがカウンターに通貨を置く。
「はい。これサンドの代金ね。めったに聞ける話じゃないから良く聞かせてもらうと良いよ」
じゃ、私はこれでとグレッドさんは立ち去っていった。
食事する音だけがする食堂で少しの沈黙が支配する。
レイダーさんが食事を食べ終わる重い口を開いた。
「詳しく話せば長くなるし、俺が全てを言えるって訳でもないから簡単に話すぞ」
「今も、昔もこの大陸に四つの同じくらいの力の大国があるのは知ってるな?」
僕は頷く。北にはグローリア帝国。西にウィクトル王国。南にマギアソール魔導国。そしてこの村があるカルドニア公国。
「その四カ国にそれぞれ同じくらいの強さを持つ奴らが現れた。南は【絶炎姫】カルラ、西は【守護者】ガイオス。東が【剣神】ウィルド。んで北には【暴獣】と呼ばれた俺が…って一応言っておくが一番強いのは俺だがな」
元々レイダーさんは帝国の人なんだ…ってカルラ!?
「えっ…カルラってあのカルラさん…?」
「…まぁ、あのカルラだ。ちなみにウィルドもお前のオヤジのウィルドだ」
「や、正直義父の事はいいんだけど…」
「気になるのはカルラの事だけか…」
レイダーさんは呆れたように笑う。
「ま、それはおいておくとしてだ。この大陸では大きな戦争が三回だけ起こっているんだ。最初が千年前の魔神王と創世の女神の戦い…これは実際にあったらしいが神話だな。詳しくは分かってねぇし」
「いや…それよりカルラさんの話を…」
「お前な…?気になるのは分かるが…そこまで話すと長くなりすぎる。…それに勝手に話すとなにされるか分からんからな」
一瞬レイダーさんは遠い目をする。カルラさんが怖いらしい。
「で、百年前の聖魔戦争だな。これは魔族達を魔森を抜けた西方に押し込まんだ人類が勝利した。そして二十年前の四つ葉戦争」
へぇ〜。
「当時は四カ国の中が今以上に悪くてな。少しの小競り合いが続いていた。ま、あくまで小競り合いだ。が、ある事件が発端で、四カ国全てが互いに疑心暗鬼になり小競り合いどころか、全面戦争になりそうになった」
「ある事件って…?なった?」
「ああ…この村にはいないが百年前の戦争で負けた魔族は奴隷させられているんだが…その奴隷が事件を起こした…。って事になってるな」
なってるって事は実際は違うのかな。
「実際というかその事件は、魔力が高い魔族だけで、起こせる類のものじゃなかった。背後に国の支援がないと起こせないような…な。
それで疑心暗鬼になった四カ国を調停して戦争を止めたのが四英雄だ」
「へぇ…。えっ…ってどうしてそんな英雄がこの村にいるのさ?しかも三人も」
「フンッ!どうしようもなく胸くそ悪い事があってな。そのどうしようも無いことに憤って俺達4人とその関係者は廃村寸前だったこの村に来たのさ。一人ガイオスのやつは、病であっさり死んじまったがな」
「ってじゃ村人さん達ってほとんど旧来の中なんだ…。胸くそ悪い事…」
「そ、俺の部下とかウィルドの弟子とか色々な奴らだよ。胸くそ悪い事に関しては残念ながら言えねぇだ。中途半端な話で悪いがな」
レイダーさんは悪びれもせず言う。
「…いいけどね」
英雄と呼ばれた人間が全員名誉と国を捨てるほどの何かがあったのか。
「あれ…?勇者さん達との関係は?」
「ああ…話すそもそものきっかけだったな。単純な話、四英雄がいるから勇者は四人なったって話だ」
四英雄がいるから…?
「各国も面子があるからな。一年前に西方に現れた魔王を討伐する勇者を探す時、どれか一つだけの国じゃなく、戦争を止めた四英雄のように、四カ国から一人ずつ出すことにしたらしいぞ?」
「へぇ〜」
「しかも王族から出してる国もあるみたいだからな。俺達の事を知ってるやつもいそうだ。なら…見ず知らずのやつに変な美談を話されるより直接話そうと、思ったのさ」
英雄が国を捨てる。
「もしかして国から追ってとか、かかってる?」
「いや…最初そんなのがいたが力で黙らせた」
レイダーさんは歯を剥き出して凶悪に笑う。
「さすがというか、なんと言うか…じゃレイダーさん達の事は秘密にしたくていい?」
「ああ…それなんだが…わざわざ秘密にするもんでもないが…バレたら面倒。ま、普段通りにしてろ」
「分かった。…あれ?そういえば他のお客さんが来ないや…」
「他の奴ら勇者達を今は様子を窺ってるのさ…。だから昼間は食べに来ねえかもな」
「そうなんだ…」
さて…レイダーさんは立ち上がる。
「ご馳走様」
そして代金を置いて店を出て行った。
とりあえず…そろそろ食べ終わってるだろう勇者達の食器を下げに行く事にした。
と説明過多?ぽい感じでした。
次回はちょっと戦闘と主人公ヤマトの実力一端が見れる…予定です。