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エピローグ『その後……』

 清々しい朝日が降りしきる中、

「何しているのよ!?」

 閑静な住宅街に1つの声と同時に鈍い音が響き渡る。

 ここ最近になって朝の日常になりつつなっているのだが、時間帯も時間帯でやはり近所迷惑には変わりない。

 近所付き合いを考慮せず形振り構っていられない怒声の聞こえてきた一室。その中央に発生源である部屋の主の姿はあった。

 ネグリジェ姿のレーナが頬だけでなく耳まで真っ赤に染めながら、眉尻を吊り上げ腰に手を当てて仁王立ちで見下ろしていた。突き刺すような視線の先には、男物のパジャマを着たマシューが目尻に涙を浮かべて床に正座している。そんな彼の頭には、殴られて出来たコブが痛々しげに主張していた。

 先ほど聞こえてきた鈍い音で出来たモノだった。早い話が、レーラに殴られたモノである。

 どうしてマシューが朝から怒られているのかと言えば、何がどうなろうとも悪いのは彼だった。

 穴が開くほど睨まれてから、

「どうして毎朝毎朝、私の隣でマシューが寝ているのよ!?」

 まだまだ怒りの収まっていないレーラは突き詰める。

「ご、ごめんなさい!」

 その迫力に耐え切れず彼は何度も頭を下げていた。


 ――あの事件が解決してから1週間ほど経過していた。

 全ての戦いが終わり、遅れて来た自警団によって放心状態だった主犯のガゼットは連行されていった。又聞きの話によると、重犯罪者として断崖絶壁の孤島にある収容所に送られたとの事だった。

 あの時、確実に引き金は引かれていた。だが、小さな金属音が1つ鳴っただけだった。

 シリンダーに弾が入っていなかったのかと言えば、そうではなく1発だけ入っていた。それも引き金を引けば撃てる位置にだ。

 止めに入ったマシューの声にレーラとっさに反応して、ハンマーが落ちる瞬間にもう1度引き金を素早く引いていた。

 ダブルアクションのリボルバーは、引き金の動きに連動してシリンダーが回わる仕組みになっている。

 だから、わざと空の位置に移動させた。

 どうしてそうしたのか聞いてみると、目を細めてレーラは話してくれた。

「本当は殺すつもりだったわよ。でも、アナタの意思を尊重したの。偉いわね、マシューは……とても、私には出来ないわ」

 こうして根本が同じだった今回2つの依頼は無事に完了した。

 まだまだ若手のレーラと見習いの奏は、それぞれ別々の新たな依頼に奔走している。一方、もう狙われる心配のなくなったマシューは、自由に外へと出れるようになった。だが、今もこうして事務所で生活をしていた。

 どうして居るのかといえば、奏によって調べられた彼の生まれに関係していた。

 少しばかり話は反れてしまうが、今から13年ほど前に大陸一の鍵師がいた。その鍵師は、とあるモノを考案し現在の技術と禁断の知恵を融合させて造り上げる。

 どんな強固で大きな鍵でも開けてしまう鍵――その名は“世界の鍵守”と呼ばれるのだが、それの完成と共に鍵師の家族は何者かに殺害されてしまった。それと同じくして、世界の鍵守も表舞台から消えてしまった。しかし、その鍵はマシューの首に下げられている。

 彼は、その鍵師の1人息子だった。

 今回の事件でガゼットに狙われたのは、その鍵にも関係していた。

 最後の災いの入っていたと思われていた白い箱の鍵を開けるため、どんな鍵でも開けることの出来る世界の鍵守が必要だったのだろう。だが、実際は災いどころか何も入っていなかった。

 良かったのだが、少なくとも鍵の存在を知らせてしまった。

 だから、安全であると思われるレーラの事務所で、家事手伝いとして独り立ちするまで護ってもらうというわけだ。

 とはいえ、最初はマシューは1人でどうにかしようと考えていた。お金や人脈など何もなかったが、どうにかなると思っていた。

 それに待ったを掛けたのは、誰でもないレーラだった。

「とりあえず、お金が貯まるまでは私の元に居なさい。それまでの間、この世の中に出ても困らない程度の知識も付けてあげるわ」

 その言葉に甘えてここに居る。

 今、非日常と日常の間で生活をしている。けれども、それはほんの少しだと思っている。

 そう信じてマシューは未来へ進んでいた。


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