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ソーナッシュ

ハザンの目抜き通りをアールはソーナッシュの一歩後ろを歩きながら、神経がピリピリする感触に肩をすくめ、腕に浮き出る鳥肌をそっとさすった。

朝とはいえ、南の土地らしい爽やかな海風。鳥肌が立つわけないのだが。

「怒ってるな~こりゃ……。」

誰がって、ソーナッシュがである。

ルキアの前でも、今でも前を歩くソーナッシュの神のごとき美貌は、眉一つひそめられているわけでもなく、無表情そのものだ。

怒っているというより、感情がないと見える。

しかし、アールの神経は前を行く人の放つ、無言の殺気にささくれ立ち、正直どっかで酒でもかっくらって布団にもぐりこみたい気分になっていた。

「旦那~。ソーナの旦那。……ルキアも無事だったんだから、そんなに御腹立ちになんないで下さいよ」

声をかけるが返答はない。

そう。ソーナッシュはルキアを襲った男に腹を立てている。

別に怪我をしたわけでもないのだが、(嘗められはしたが)自分のものを勝手に触られた子供の怒りでいっぱい。

アールは、長い付き合いで、それがわかってしまう。

もともと、ソーナッシュと言えば、カルマティアが誇る軍隊の中でも、黒い戦神と呼ばれる恐ろしく強い将軍であった。(過去形)

初陣は13歳で、その頃、カルマティアは冬を越すための食料を得るために近隣の国に攻め入る山賊のような、やくざな国で、相手が飢え死にしない程度に根こそぎ食料を持っていくものだから、近隣国にとってはやっかいで迷惑な国だった。

その軍ともなれば、嫌われ、忌まわしい存在だった。

そもそも、カルマティアという国自体が、大国アウツールとリドマル、シュツルバ等いくつかの国境が入り組んでいた山地と荒野に巣くっていた山賊が徒党を組み、組織化し、鉄や軍馬を産出するようになって、王国化したという、国である。

元国王が山賊のような男なのは当たり前。カルマティア国民全員が山賊なのだ。

それでも、建国200年。

国家としても、王家としてもそれなりに発展してきている。

曲がりなりにも国である。

その国が山賊行為ばりに隣国に攻め入るのだ。隣国も黙っていない。一国で、または同盟を結び、何度ともなくカルマティアを攻めた。

鉄も出る、良質な軍馬もいる、それらも欲しかったに違いない。

しかし、カルマティアが墜ちることは未だ無かった。

カルマティアの土地が高い山に囲まれた高地で、そのほとんどが荒野であることも、彼らに利があった。

そして、軍が強い。

耕す土地がないから、民のほとんどが馬に乗って、馬を鍛錬し、戦う術をひたすら磨いていく。その中からさらに選りすぐって軍隊を形成して鍛錬を繰り返しているのが、カルマティア軍だった。

歴代の将軍、国王をはじめ、有名、無名を問わず、剛の者と言われる勇者、戦士が多い。

その中でも、ソーナッシュは一人で100人を相手にできると言われる男だった。

傭兵を生業とするアールは、カルマティア国民だが、敵国に雇われて、自国軍と戦い、ソーナッシュの戦いを見たことがある。

確か、ソーナッシュが17歳頃だったが、徒歩で身の丈の半分はあろうかという太い剣を持ち、顔色一つ変えずに敵軍の前まで来たかと思ったら、突然走りだし、まっすぐに突っ込んでいき、あっという間に数十人を切り倒した。

いや、あれはなぎ倒したというべきか。

重い剣を軽々と、凄まじい力で振り回し、当たるを幸いに敵という敵を倒していく。剣で応戦しようにも剣がソーナッシュの力に負け、折れる。

鎧も無意味だった。

潰され、跳ね飛ばされ、周囲に血だまりと死体の山だけが出来ていった。

アールはぞっとした。

カルマティアの軍は、どちらかというと陽気で、戦うことが好きな男の集まりのようなもので、アールも戦うことは好きだった。だから、傭兵になったとも言える。

強い敵に会うと高揚するし、勝ちたいと思う。もちろん、生き残りたい。

だが、初めてみたソーナッシュの戦いぶりは____。

正直、気味が悪かった。

戦いが楽しそうに見えない。

人を殺すのだから楽しいということは間違っているのかも知れないが、大義名分、国のため、自軍のため、金のため、何でもいい、あるいは自分の誇りをもって戦うのが、カルマティアの男だと思っていた。

あれが、自国の時期王だというなら、ちょっと厭だな、と思うほどにアールから見て、ソーナッシュの戦い方は、異常だった。

ルキアと出会い、近しくソーナッシュと会うようになって、わかったのは、あの頃のソーナッシュには何もなかったということだ。目的も執着も生きている意味も。

どうしてそうなったか分からないし、分かりたくない。

「まあ、今はルキアがいますしね」

アールははあっとため息をついた。

「23歳のいい大人が、34歳のオヤジに夢中ってんのもどうかと思いますがね」

まあ、ルキアだからまあいいかと、一人勝手に頷く。

執着されているのも、それで困るのもルキアだから、と結論付ける。

少なくとも、ルキアに

「こいつ、馬鹿だけど宜しくな」

と紹介されて異常なまでのルキアへの執着を見せつけられて、アールが思ったのは、「よかった。気持ち悪くない」という、実にほほえましい気持ちだった。

「アール」

「はいはい」

急に名前を呼ばれて、物思いから覚める。黒い闇の化身のような青年が無表情にこっちをみていた。

いつ立ち止まったのか、アールはややどぎまぎしてなんでしょうと伺う。

「朝ごはん」

「あー、はいはい」

「食べないと怒られる」

誰に、って言わずもがな、ルキアに、である。

顔と言葉があってないんですが、とぷぷぷっと笑いそうになりながら、アールは青年を飯屋に誘った。

すみません。やはり短いです。

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