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朝、ところにより台風

朝方、(一晩惚けていたわけではない、あれからまた、怪しい男を追って探してのだ)ルキアが取りあえず宿まで何とか帰り就いた頃、

「俺ってもしかして馬鹿?せっかく物凄く怪しいのに!絶対怪しいのに!」

ルキアの機嫌は台風状態だった。

「みすみす逃がすなんて俺の馬鹿!」

部屋に帰るなり、ベッドの上にひっくり返る。手当たり次第に周りのものを投げ付ける。半分、恐怖に竦んで動けなかった情けなさもあって、まさしく大荒れである。

先に帰っていたソ-ナッシュがさり気なく部屋を出るためにドアにむかったが、タイミング悪くアールが戻ってきた。

ドアの前で鉢合わせしてアールが目を白黒させるが、ソ-ナッシュは地を這う様なルキアの声をきいた。

「どこに行く気なわけ?ソ-ナ!」

貴方が荒れそうなんで避難していました、とは流石に言えず、ソ-ナッシュは相変わらず表情のない顔をルキアに向けた。

ベッドの上に胡座をかいた見掛けは美少女な34歳は親父のようにぽりぽりとむき出しにした金の頭を掻く。

「俺が走り回って!得た!情報とか!お前が犬並みの嗅覚で得た情報とか!今から突き合わせる必要があるよな!今から!」

スタッカートの効いた言葉はかん高く、耳障りでルキアの怒りがびしびしに乗っていた。

「ふつう、俺がつらそうだったり、」

「辛いのか?」

「......何かあったようだったら、何かあったのか?と聞くのが礼儀だと教えていたろうが!」

「......何かあったのか?」

ソ-ナッシュが答えた瞬間、枕が飛んできたが、ソ-ナッシュはひょいと躱す。

「この阿呆!まんま棒読みじゃねえか。昔はともかく今は少しは人間じみてきたと思ったのに、そんなんじゃ、王太子やめたら誰もかまってくれなくなるぞ」

「......ルキアがいるから良い」

「何時までもいると思うなよ!......さて、アール、何ドアにへばりついている?」

「いや、あたしは平民なんで!」

「馬鹿云うな。人に上も下も糞もあるもんか。俺なんか、盗賊だぜ?」

恐れおののく大男にルキアは怒りをおさめると二人に先ほど出会った男の話をした。

話終えた途端にソ-ナッシュがルキアの頤を鷲掴みにする。

「どこを嘗められた?」

「痛いって!教えない、お前も嘗める気だろう?」

ルキアは手を振払って舌を出す。

ルキアはうんざりしているが、昔からこの王太子は執着心が妙に歪んでいる。

根は王宮の侍女たちが時に喜ぶような男色の気の全くない、健全な男なのだが、ルキアに関しては異常事態である。

早くに母親を亡くし、一見すると山賊にも見える頑強で蛮勇轟く元国王である父親に子育てなぞ出来るはずもなく、侍女に囲まれて育ったせいか、幼少期から外見だけは聡く大人びた子供で、同年の子供と遊んだこともなく少年期や思春期をすっ飛ばして大人になったときく。

だが、ルキアはたんに子供のままなんじゃないかと睨んでいる。

また、姉のナギノ、現カルマティアの女王がこれまた子供がそのまま大きくなっただけの超我がまま、自己主義者で、自分が楽しければ何をしても良いと思っている。

二人を目の前にすると自分は保父さんになった気がするルキアである。

自分はもしかしてカルマティアという国というより、この二人のお守をするために宰相の役を押し付けられているのではないかと思う。余談だが。

「問題はナギにしてもソ-ナにしても口を開かなければ、べっぴんってことだよな。こんな苦労してんのに羨ましがられるんだから割があわないったら、、、。」

ソ-ナッシュを退け、ルキアはひとり愚痴りながら、姿勢を糺して座りなおした。

「さて、怪しいのは怪しい男がいるからそいつを探せばいいんだが、闇雲に探しても拉致があかないだろう?何かないか?」

「あたしが、小耳の挟んだ情報ではどうも神隠しにあったっていうのはそんなに多くないんですよ」

云われてずっしりとした大きな巨体を床に落ち着けたアールが答える。

「どう云うこと?」

「前評判程、現実は大袈裟な話ではなかったらしいんですよ。最初は。男と女が一晩で居なくなったとか、暗がりで後ろから殴られたとか、鶏の血が巻かれていたりとか、、、。よく考えれば駆け落ちとか他愛もない悪戯じみたものだったらしんですが、ここ数日、人が死んでるのが見つかって大騒ぎになったらしいんです。その場所がどうも町を見下ろすかのような丘であることが多く、昔そこで生け贄の儀式をしていた言い伝えなどあって、何時のまにかそういう話になっちまったようで。」

ところがよくよくアールがその昔あったという「生け贄の儀式」を調べてみると魚が取れますようにと魚を祠に捧げていたらしい。

「何だそれは?結局、昔話が一人歩きしすぎただけか?で、本当に死んだのは何人だ?」

「3人です。昨日のを入れて。」

「多いような、少ないような、、、。」

「多い。」

珍しくソ-ナッシュが口を挟む。

「戦以外でカルマティアの民は死なない。」

「そういえば、そうですね。」

アールも納得顔にあいづちをうつ。

ルキアは一人、ため息をついた。

「それはそれで、問題じゃねえ?」

ま、自殺も少ない、他殺も少ない、また、死刑も少ないと言う変わった国もいいかも知れないと思う。ちなみに男も女も頑強で病死も少ない。

代わりに以前は穀類など安定した作物が取れず、出生率が低かった。今では、ルキアが行っている大規模な灌漑事業や他国との交易のおかげで、人口も少しずつ増えている。

しかし、ルキアが宰相になってから密かに他殺や自殺が増えてきている事実を彼はまだ、知らなかった。彼の政治的近代的施策が何を招いたか、彼が知るのはまた、別の機会となる。

「取りあえず、男を探すぞ。」

ルキアが仕切りにそう宣言して2人を部屋から追い出す。

「へ?ルキアは?」

ア-ルが聞けば、美貌の宰相は笑顔で答えた。

「あほう。俺が帰ったのは明け方だ。寝るに決まってるだろう?」

あくびなんぞしながら、パタンと扉をアールの鼻先で閉めてしまう。

「あっしもさっき帰ったんですけど……聞いてませんよね?もう。」

諦めたアールはすでに外に向かうソ-ナッシュの後をゆっくりと追い掛けていった。

すみません。ちょっと、短いです。

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