腕の中で
「キカティアには悪いことをしたな・・・・・・」
しばらく黙ってソーナッシュに抱かれて廊下を行き、もうすこしで自分に与えられた部屋に着く所で、ルキアはぼそりとつぶやいた。
彼にしては、もっと良いやりようがあった気がした。
女性に告白させ、ましてや、体を張らせるなど、フェミニストなルキアにとっては論外なことだった。
頭を掻く。
この国の誰かが自分を殺そうとしている______意外とへこんでいた。
最初は怒りも湧いた。呆れもした。
が、殺そうと思うほどのことを自分がしているのかもしれない。
そのことが急に怖くなった。
正しいと思うことをしてきたつもりだったが、本当にそうだろうか?
反面
完璧な人間などいるものか、とも思う。
せめぎ合う気持ちが瞳に揺れた。
「ルキア」
ソーナッシュが視線をルキアに落とす。
足も止まっていた。
何の感情も浮いていない能面のような美しい顔だが、自分を気遣うのを感じて、ルキアは苦笑した。
「そんな顔するな」
「ルキアも」
珍しくソーナッシュが言い返す。
ルキアは目を見張って、ついで爆笑した。
「ゆうね~。明日、雨が降らなきゃいいけど」
ちょっと、気分が浮上する。
「大丈夫、出ていくにしても、どうせついて来るんだろう?」
笑って、ソーナッシュの腕を叩くと、ギュッと抱きしめられる。
「きついぞ、こら」
「_____ナギは置いていこう」
「そりゃ、王が国を出るわけにはいかないだろうしな。と言っても、ついて来るかも……」
子供のようなソーナッシュの独占欲に笑ってしまうが、女王の出奔は想像でも笑えない。
最後は、ちょっと、ひきつりながら、部屋の前でソーナッシュに降ろすように言う。
おとなしく黒い王太子が宰相を下す。
立派な扉の前には、兵士が2人。
近衛で、ルキアも見知った顔だった。
護衛だろうが、ルキアの逃亡を阻止する役割も担っている。
「宰相様。」
「御苦労さま」
声をかけながら、扉をあける。
そして、扉を閉めた。
何かとんでもないものを見た気がした。
自分の目が信じられず、もう一度、扉を開けた。
が、やはりすぐ閉める。
緑色の目がこぼれそうに大きく見開かれ、心臓がバクバクした。
「あれは、」
「そういえば、客が来た」
ひきつる喉からルキアが言葉を絞り出す前に、ソーナッシュが言った。
ばっと、ルキアがソーナッシュを振り返る。
「客だというから」
ソーナッシュがぼそぼそと。
「おまえ_____!!!あれほど!」
「どうなさいました、宰相?」
ルキアが我を忘れて、ソーナッシュを締め上げようとするが、近衛兵が心配気に近寄ってくる。
さらに「曲者では?」と扉を開けようとする。
「いや、何でもない!」
それを慌てて制し、ルキアはソーナッシュの腕をつかむと、
「疲れたから、休む!誰も部屋に近寄らせるな!」
素早く、言い置くとソーナッシュを連れて、部屋に入った。
後には、近衛兵が首をかしげていたが、ルキアはそれどころではなかった。