プロローグ
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数千年の昔、人間と異形の者達は共に世界を生きる隣人だった。人間は知恵を持ち、異形の者達は人を凌駕する力を持っていた。
人は道具を作り、都市を築き、知識を積み上げた。異形の者達は大地を守り、天災を退け、世界の均衡を保っていた。
互いは互いを必要としていた。時には肩を並べて戦い、時には同じ食卓を囲み、時には血を分かち合った。
人と異形の子は産まれにくく、大層珍しいものであったが、双方の血を引く子供達は人の姿と知恵を持ちながらも常人を遥かに超える力を持った。
角を持つ者
鱗を持つ者
獣の耳や尾を持つ者
その力は人間社会において重宝され、やがて彼らは人々を守り導く存在となっていった。
それが後の"貴族"である。
だが、時代は変わる。
都市は巨大になり、人は繁栄した。
武器も魔法も発展し、人間はかつてより遥かに強くなった。
そして人間は思い始めた。
「異形など必要ない」
知恵と力を持つ者は、やがて傲慢になる。
人間は異形の者達をこう呼び始めた。
仇為者
世界の敵。人類の仇。
かつて隣人だった存在は、いつしか迫害の対象へと変わった。異形の者達は狩られ、追われ、滅びていった。
その思想が最も強く根付いた国。それが
レオリア皇国
異形を嫌悪し、排除し、滅ぼす国
だが皮肉なことに、その皇国の支配階級――貴族達こそ異形の血を引く者達だった。
異形の血を引くからこそ強い。
強いからこそ支配する。
力を持つ者が上に立ち、持たぬ者を統率する。
それが皇国の秩序だった。
皇家、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵
爵位の序列は基本的にはそのまま血の強さを示す。
特に皇家は、獅子の異形の血を引くと言われていた。
王者の象徴たる獅子、異形の中でも極めて強い存在である。
だが、皇族や貴族の力の糧であるその血の奥底から時折現れるものがある。先祖の姿を色濃く受け継ぐ者。
角、鱗、尾___
人の姿に異形の証が現れた存在、それは
"オカエリ "
と呼ばれた。
祖先が"帰ってきた"存在。
だが、人々はそれを歓迎しなかった。
異形は仇為者。その血が濃く現れた存在など、許されるはずがない。
多くの国では、オカエリは生まれた瞬間に処分される。
"オオクリ"
そう呼ばれる儀式によって、存在ごと消される。生きることすら許されない命。
だがレオリア皇国は違った。
彼らはその力を「資源」として扱った。オカエリを拘束し、監禁する。そして禁断魔法によって力を抽出する。
魔力も、血も、生命力も。
すべてを搾り取り、国家の力として利用する。
そして、力を失ったオカエリは廃棄される。
それが皇国の秩序だった。
だが、歴史上誰も想像しなかった出来事が起こる。
オカエリは通常、人の姿を保つ。
角がある、尾がある
その程度だ。
だが、ある日生まれた子供は違った。人の姿など、ほとんど残していなかった。
いや、最初から存在しなかった。
そこにいたのは、完全な異形。
漆黒の鱗
夜を覆う翼
黄金の瞳
伝承の中でしか語られない存在。
異形の中でも別格。
獣でも魔物でもない災厄そのもの。
"黒龍"
それは人類史上、初めて生まれた完全なオカエリだった。
その名は、ルレーヌ・ハーバリオン
人類最強と謳われる黒龍の血を受け継ぐ規格外の存在、皇家を凌ぐ唯一の貴族、ハーバリオン公爵家の娘。
世界はまだ知らない。その誕生が後に世界の均衡すら揺るがすことになると___




