かわいそうだ
どうも、コーフィー・ブラウンです。
どうぞお楽しみください。
「じゃあ・・行ってきます・・。」
チラッ
ドアを開けてもう一度振り返るが、静まった玄関。
もう、ここには。
「ふう・・ほんとにここで・・?」
家から2,30分ほど歩いてきた角にある少しボロい教会。
軒にできた蜘蛛の巣を見つめながら、ドアノッカーを鳴らす。
ガッチャッ
「はいっ、何でしょう?」
少しくすんだ白色の長い衣装を揺らして、修道女が姿を半身、現した。
「あっ、あの・・」
「もしや・・天使様でございますか・・?」
教会の庭の方からジョウロを持った老人が、眼鏡越しにのぞき込みながら話しかける。
「え? 先生?」
「・・はい、そうです」
「ええぇっ!?」
オジサンを見た女性はもう一度驚いて少年を見る。
「一応、まだ人間なんですけど・・」
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
「明日、これを届けに行こうと思う。」
頭にタオルを巻き、腰に無数の工具を取り付けたベルトを巻いた男がカレンダーに挟まれた一枚の古紙を持って言うと、
「思うって何よ!思うって! もう何年前の依頼か分かってるの!?」
大きな段ボール箱を抱えた少女がそう叫ぶ。
「しゃあねえだろ。一ヶ月はかかるんだ。とりあえずはもう注文ねえよな?」
「無いし、最近は国相手ばっかじゃん。」
「それこそしゃあないだろう。今時こんな一振りで人を切るやつなんざ、そうそうおらん」
彼はその紙をもって部屋に入り、奥にある黒い漆であしらわれた木箱を棚から下ろした。
「確かー、天使がつかうやつでしたっけ?」
「天使様だ。天使様。 お前は知らんだろうが、こうしておれるのは、本当は彼らのお陰なんだからな」
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
「ここから真っすぐにお進みください。あ、あと、これを持っていけば。」
彼の手には紐のような・・
「これは・・?」
「申し訳ございません、こちらの修道女たちが編んだ祈りの組みひもでございます。
天使になられた際に、邪魔になりましたら直ちに捨てて貰って構いません。」
「そ、そんなことは・・ありがとうございます。」
彼は本当にうれしそうな笑顔で目に涙を浮かべ、
「天使様から賛辞を受けられるとは、私のような辺鄙な町の修道院の院長にはもったいないいぃ・・」
そんなに目の前で泣かれるとこっちが困るよ・・
視線を、高いふもとから低地に広がる街の風景に移す。
田舎者の自分には見たこともない大きな街に、一際目立つ屋根の建物。
あれがこの近辺で一番有力な教会、ピカス聖堂。
あそこから天界に行けるのか・・
その時、聖堂の前に衝撃波の柱が立つと、
ドゴオオオオオオン!
と少し強い風と共に、轟音が響いてきた。
一体何が・・
「天使様・・」
さっきまでうれし涙を浮かべていた修道士がおびえながらこっちを見ている。
「天使だってぇっ!?」
ビクッ 二人とも声の方に振り返る。
そこには、いかにも職人といった様相の男。
コソッ 「すみません・・私の声できかれたのかも」
ーその男から刀をもらい受けなさいー
ひとりでにうなずく少年。
「いえ、大丈夫かもですよ。」
「はあ・・」
少年は男に近づいて、
「あの、その箱の中の刀をいただいてもよろしいですか?」
「!?」
男は肩に担いだ、布に巻かれた箱を見ると、数歩距離をとってカバンからトンカチを取り出して、
「お前っ・・天使を騙るは重罪だぞ・・?」
ーあなたの名を出しなさいー
「いいんですか?」
ー構いません。それより、今、街で暴れている悪魔をー
「分かりました」
「何を一人でしゃべってんだ・・?」
「僕の名前は・・」
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
それは突然だった。
「おうい!次はこれを頼む!」
「はい!」
バイクから降りてすぐにリンゴが入った木箱を数箱載せて、バイクにまたがる。
ギュッ グイッ
「あれ?」 エンジンがかからない。
その時だった。
リイイイイイィン
ー汝に命ずー
「えっ」
ーこの世で我に選ばれし者よー
見回すがこの辺りにはおじさん以外いない。
ー今、世界の悪夢を断つために、あなたには我の剣となりたたかっていただきたいのですー
男が木箱をもって置きに来た時、蛍のように光る少年に気づいた。
「○○○! ○○○! お前っ! 一体何が!」
男が必死に光り輝く少年を揺さぶるが全く意識が戻らない。
何と戦うっていうのさ。
ー悪魔です。ー
悪魔? あの伝承の?
ーはいー
そういうのってさ、子供に言い聞かせるための空想の存在なんじゃ。
ーんーふふっ、そう思っていただけていたなら、彼らの努力も報われるもの。
いえ、悪魔は実在します。ー
そう、でもなおさら僕じゃない気が・・
僕はそこにいるオジサンにも、勝てる気がしないですよ。
ーそう、では・・ー
申し訳ありません、わざわざ話しかけてもらったのに。
ーでは、あなたに天命を授けますー
へ?
「くっそーっ! こうなりゃ思いっきり、」
男は離れて姿勢を低くし、突っ込もうと前に屈む。
ー人間よ! 控えろ! 我は神ぞ!ー
「ふへっ・・へ・・」
おとこは低姿勢のまま地面に膝と手をついて、首を垂れる。
ー○○○、いや、ミーンワイル。
そなたは大衆の天使、ミーンワイル。
翌日までにこの辺りの・・そうだな、ピカス聖堂に来い。
話はつけておく。・・そこの男たちと最後の別れを惜しむんだー
フッ・・
ああ、終わったのか・・脳がやっと自分のもとに戻ってきたような感覚・・。
「クッ・・ああぁ・・」
「おじさん・・」
駆け寄る少年を見た男は安心の表情を浮かべてすぐに、
「ミーンワイル・・あれ?
お前って確か・・・ミーンワイル・・だよな?」
「? ・・いや、僕は○○○ですよ?」
「は、はははっ お前の名前を忘れるわけない、でしょう!
ねえ、天使様っ!」
男はそれを言った途端、なにかに絶望してそれ以来部屋に籠ってしまった。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
「僕の名前は、ミーンワイルです」
「な・・んだと?」
じいさんはすぐに胸ポケットからメモ用紙を取り出し、
「ミー・・ワイ・・ル様、・・!こ、これを!」
差し出された箱の中身は真っ赤な包装布に包まれた・・・
「これを僕が・・?」
「え、ええ。 私めに修理を任せてくださったのですよ。」
「僕がですか?」
「ええ。あなたは、ミーンワイル様なのでしょう?」
「そ、そうなんだけd」
ザッ ザッ
勝手に体が進んでいき、刀を無造作に手に取る。
こんなもの、持ったことないのに。
スラッ
刀身がまるで漆器のように黒く、でも朝の陽光を反射させて白く輝く。
何より、この黒い紐だけであしらわれた柄の目貫は少し色あせていて、柄の漆黒が良く映える。
手に良くにじむままに、
シュッ
刀は、振るものではない。
己を飾るものだ。
しかし、まるでその一振りは空気でさえも切っているみたいな感触がする。
「うん、良い刀だ」
天使が刀を使うのか、もうそんなつまらない論争はいらない。
少年が刀を構えた背後に、モノの陰。
修道士はその場から逃げて草むらに飛び込み、
職人のような男はあしを震わせながらもトンカチを拾い上げる。
「コイツが『悪魔』か」
ーええ、でもあなたなら大丈夫ですよー
「フッ、何を根拠に・・」
その時、悪魔が象のような太い足を彼の脳天めがけて振り下ろす。
ガイイイイイン!
まるで空気の壁、不可視のバリアだ。
「これは・・?」
ー『奇跡』です。あなた方天使は私に選ばれた特別な存在。
私に大小さまざまなものをささげる代わりに、素晴らしい力を授けるのです。ー
「・・僕は今何を捧げたんだ?」
ー最近、肌の調子が良くなくてー、皮膚の細胞をいくつか♪ー
「そんなことなら避けたんだが」
ーえ~ん、チュートリアルも兼ねてるの~!ー
シュン
柄に両手をかけたまま、象の足の付け根を狙い、駆けてゆく。
ズボボボッ
するとそこからまるでトカゲの手が生え出てくる。
「そういうことなら・・」
ーおっー
踏み込んだ右足で、まるでロイター版があったかのように飛び上がる。
「なあ」
ー今のは赤血球をー
「そうじゃなくて、この悪魔はどこを切ったらいいんだ?」
ーん~、そんなの分かんないですー
「そうか、なら・・」
ズブッ! ズズズズ・・ ズバアッ!
気持ち悪い目と口、数本の手足ごと奴の上部をを断つ。
「違うんだ・・あれ?」
あれ、自分で切ったくせに、返り血が気持ち悪い。
なに、このバケモノ・・・
ーあら、切れちゃいましたか~
ワイズからもらった『人格強制ホルモン』。 中々クールでかっこよかったんですけどね~ー
「な・・んで・・」
ギョロ 悪魔の眼はこっちを見ると、カマキリの鎌に変形して、
ギュン ガイイイイイイン!
ー今のはあなたの赤血球と足の裏の皮膚をー
ガイイイイイン! ー肋骨の骨細胞ー
ガイイイイイン! ーわき毛の毛根の細胞ー
ー赤血球ー ー皮膚ー ー皮膚ー ー赤血球ー ー腸の細胞ー・・・・・
「ハア・・・ハア・・・」
ーもうだめですね。 これだから無能な『ミーンワイル』どもはー
もう8%はイカれただろうか。
息をするごとに物足りなさを感じる。
敵の姿もよく見えない。
神様の声も、聞こえるのに意味がよくわからない。
どんどん自分の身体が動かなくなってきた。
ああ、死ぬなコレ。
昔、考えに考えてたことがある。
『人はいったいどこに命を宿しているのか』と。
答えは、
全身、だった。
爪にも、毛にも、へそにも、鼻の先にも・・。
そうだ、僕はまだ死んじゃいない。
この能力はすごいぞ・・なんだって最後の塵になるまで戦えるんだ。
さっきまで一緒にいた修道士さんの顔も、この刀を貸してくれた人の顔も思い出すのは一苦労だけど、僕は守るために戦っていて、まだまだ戦える。
「そうだ・・そうだぁ!」
刀をゆっくりと構える。
構える間にもいくつもの命たちが、バリアとして散ってゆくが気にするな。
「神よ。わたくしにどうか奇跡をお与えください」
ーふうん。 ま、もらっておきますねー
ブッシャアッ! 大量の血液と体液がこぼれでてくる。
「『大衆の鬱憤』オッ!」
それはただ、たった一振りの斬り上げだった。
しかし、悪魔は塵のように吹かれていった。
「すっげえ・・」 職人は涙を浮かべながらも、その景色を目に焼き付けていた。
修道士は少年に駆け寄り、
「ああっ! ああっ!神よ! どうか奇跡をっ! この少年にもう一度微笑んでくだされ!」
ーそれは、あなたが何もかもをささげてくださるのですか?ー
「そ、それはもう・・」
「バカヤローッ! 俺の両腕をもってけ! それでも足りねえなら工房丸ごともだ!」
「ちょっ!神は必要としませんよ!」
「じゃあなんだ! この小僧を殺すのか!?」
ー・・・はあ、分かりました。 今回はチュートリアルですからねー
少年の身体が光る。
綺麗に、きれいに。
ーさあ、戻ってお行きなさい。ー
彼の身体がもとの形を成してゆく。
ー今回のことは内密に。 神との契約ですよ。ー
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
ここは・・目を開けると真っ白な世界。
こんなに白いものがあるのか。
ボフウン
ああ、地面が際限なく沈んでゆく。
「きもちイー・・」
ん? 金色の紐のようなものが見える。
何だろう、これ。
手を何とか伸ばして掴み、グイッと引っ張る。しかし何やら重いものがつながっているみたいなので、もう一度強く引っ張ると、
「ウアイッ! イッダイ!」
いきなりの人の声につい手を離すと、
「何すんのよッ!」
綺麗な少女が急に視界に現れて、バチインッ!
ほっぺが急にすごく痛い・・。
「せっかく、久々にすごく強いミーンワイルだって聞いてたのに・・」
とブツブツいいながらどこかに行ったようで、身体を起こすと、すごく広くて白いベッドの上にいたようだ。
まるで巨大なヒツジの上みたいだ・・
と転がったり飛び跳ねたりしていると、
「ミーンワイル様、入室よろしいでしょうか」
誰だろ・・ちょうどいいや、ここがどこか聞きたい。
「はい、どうぞ」
ガチャッ
入ってきたのは白い服を腕にかけて、僕より背の高い女性三人。
シスターではないのか・・。
「ここは、教会?」
「はい、こちらは教会の頂点、コンミルーシェ大聖堂の『天使の森』です」
「そ・・・」
本当に天使になったんだ。
こうして女性の方々に脱がされて、体をなめられるように触られているのに何も感じない。
本当に何も。
「では、部屋の外へ。 他の天使様の皆様に挨拶を。」
「う、うん」
ペタ・・ペタ・・
裸足でも気にならないくらい綺麗で白い廊下を進む。
「ここにいらっしゃるのは、ワイズ様です。
ここ一番の年長者で、ここの司令塔です。色々聞いても答えてもらえるでしょう。」
ガッチャ
わあ・・広っ。
そこには、ロボット。
一台だけ。
茶色い見事なソファに座り込んでいると、
「やあやあ、すまないね。」
と、ロボットがひとりでに動き出して目の前のソファに座り込む。
「よろしく。新たなミーンワイル。
僕はワイズ。 困惑したかい? 僕の身体は使い物にならないからね。
こうしてロボットを肉体として動かしているんだ。 ハッハッハッ」
ロボットには頭と顔が無いけど、スピーカーと身体の揺れだけで笑っていると分かる。
「よ、よろしくお願いします。ミーンワイルです・・」
「499人目のね」
「え?・・ああ、はい?」
「僕は二人目のワイズだよ。君はこれで499。
惜しかったね、次に選ばれてたら500だったのに。」
「僕のほかにも、いるんですか?」
「うん、いっぱいいたよ。 みんな死んだけどね。
だから君が選ばれてきた。」
そう言ってロボットは指を僕に刺す。
「僕が499人目で、あなたが二人目・・?」
「そっ、仕方ないよ。 ・・役割の違いだ。」
「いったいいつから数えてなんですか?」
「聞いちゃうんだね。君は。」
ロボットは姿勢を正すと、手を出して、パーを向ける。
「天使という存在はできてからもう2000年以上だ。
5、きみらの平均寿命だ。 5年でみんな死ぬ。」
「天使が・・死ぬ?」
「死ぬよ。 少しすごい人間みたいなもんだからね。
病死、自殺、餓死、凍死、焼死、あとは戦死。」
天使が戦死・・・
「悪魔相手に、ですか?」
「ご名答。 一人を除いて全員、悪魔に殺された。
だから、君が初デビューをここに来る前に、かつ一人で悪魔を倒したってのはすごいことなんだよ。」
「ワイズさんは一度しか死んでないんですね」
「ああ。・・・君たちはかわいそうだ。」
「まあ、少し驚きはしましたね。だけd」
「いや、君たちはかわいそうだ。誰がなんと言おうとかわいそうだ。」
「・・・ワイズ、さん?」
「次はエフォードに会うといい。僕は年長者であるが、リーダーは彼だ。」
本作品を読んで頂きありがとうございます。
本作品はファンタジーの中にも人と人のつながりに注目して書いていこうと思っています。
これからもゆっくりと掲載していこうと思っていますので、よろしくお願いします。




