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第七話 終話

 祈祷は境内に作られた舞台の上で行われる。

 狐面をつけた巫女たちが、焚き火を囲んで優雅に踊る。


 今年も選ばれし狐娘が誕生しました。町にお恵みをください。その言葉とともに、今年一年の豊壽を授かるのだ。


 優雅な舞に魅了され、気づけば集中して見つめていた。巫女たちの動きに合わせて尻尾を動かす。

 鼓胡乃も人混みの中で珍しく静かだった。何も言わずただ横で立っている。


──人の子らよ。確かに受け取ったぞ。


 そんな九尾の声が聞こえた気がした。声の本を探すように、耳を動かす。


 神社の屋根の上に彼女はいた。座り、扇子を仰ぎ、優雅に盃に口をつけている。

 月を背に佇むその姿は、神秘の狐を思い起こさせる。


『衣弦よ、我が娘よ。狐娘も悪くあるまい?』


 見つめられ、そんな声が聞こえて、「うるさい」と反抗期の男子中学生のように返した。

 応えるように脳内にいつものクツクツとした笑い声が聞こえてきたような気がする。


「どうしたんですの?」


 隣にいた鼓胡乃が、耳を動かして尻尾を揺らしながら尋ねてくる。

 衣弦は誤魔化すように、何でもないといった。



※※※※※※※※※※



「どうだった? 私の舞」


 朱音が狐面を頭の脇につけながら、腰に手を当てる。ふんすと鼻息を荒くして、胸を張っていた。

 人間なのに褒めて欲しくて仕方ない犬のように尻尾が揺れているのが見える。


「正直、お面のせいでどれが朱音か分からなかった」


 苦笑しながら言った衣弦の言葉に、ガーンと効果音がついたように肩を落としていた。

 横にいた鼓胡乃は嬉しそうに尻尾を揺らしながら、右手を口元に添える。


「可哀想ですの」


 彼女の顔は絶対に可哀想と思っていないほどニヤけていた。


「鼓胡乃! それ以上言うとあんたの尻尾めちゃくちゃにしてやるから!」

「やめてくださいですの。セクハラで訴えますの」


 騒がしい二人を見ながら、大きくため息をつく。

 どこか楽しそうに揺れている自分の尻尾の存在に気がついて、衣弦は堕ちてしまっていることを自覚する。それでもと抵抗する心は、苦笑として漏れる。


 正直な話、狐娘になったのはまだ納得はしていない。

 感情は勝手に耳や尻尾で出てしまうし、尻尾を触られると叫ぶほどデリケート。不便なことが多すぎて、男のほうが良かったと今でも思う。


 しかし、仕方ないとは思えるようにはなった。それはほんの少しの変化なのだろうが、確かに変わったところだ。

 まぁ、振り回されるのはごめん被りたいところではあるのだが。


「よぉし! 残った時間、遊ぶぞぉ!」


 朱音の声に反応して、耳がピクリと動く。


「夜髄家はこのあと片付けがあるんじゃなかったっけ?」

「そんなのサボっちゃうよ。いずると遊ぶほうが大事」

「……典型的なダメ女ですの。絶対に群れではハブられるタイプの」


 鼓胡乃がボソリと言った言葉に反応して、朱音は唇を尖らせていた。



※※※※※※※※※※



「いずるー!」


 朝、通学路。いつものように大きな朱音の声が聞こえた。

 衣弦はあくびをしながら、ひょいと尻尾を上げて彼女の抱きつきを避ける。


「ノールックで尻尾モフモフ回避とは……いずるも狐娘として成熟してきましたな?」

「うるさい。毎日毎日飽きずに抱きつかれたら誰だってそうなる!」

「照れちゃって、このこの」


 彼女が茶化すように肩でつついてくる。鬱陶しいとでも言うように、衣弦の耳はピンと立った。

 しかし、朱音の言うことも最もで、悔しいが尻尾の扱いはかなり慣れてしまった。慣れたくはまったくないのだが。


「本当に朝からやかましいですの」


 スッと現れた鼓胡乃が、すまし顔をする。ちゃっかり衣弦の隣に陣取って尻尾を寄せてくる。

 

「うるさいなぁ、あんたの尻尾モフるよ?」

「お断りですの。尻尾の手入れ大変だから、触らないでほしいですの」


 人間と狐娘が仲良くしているのが珍しいのか、通学路の生徒たちがこちらをチラチラ見てくる。

 いたたまれなくなって、曖昧な笑みを衣弦は返した。


 今日も狐娘としての一日が始まる。

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