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母の言葉
講演の帰り道、実家に寄った。七十歳になった母は、相変わらず私を心配している。
「美咲、あなたももう三十八よ。いつまでも過去にとらわれていちゃだめ」
「わかってるけど...」
「拓也くんだって、あなたに一人でいてほしいなんて思ってないわよ」
母は拓也のことを覚えていた。あの夏祭りの後、私が嬉しそうに彼のことを話していたから。
「彼はあなたが幸せになることを願ってるはず。一人でいることが彼への愛の証明じゃないのよ」
母の言葉が胸に刺さる。本当は私も、時々孤独を感じることがある。特に夜、一人でアパートにいる時。拓也がいてくれたらと思う瞬間がある。




