君がくれた季節
それから十年が過ぎた。
私は作家になり、拓也との思い出を綴った小説「君がくれた季節」を出版した。高校時代の淡い恋愛と、若すぎる別れの物語。多くの読者が涙してくれる作品になった。
「この小説、実話なんですか?」
サイン会でよく聞かれる質問。
「大切な人との思い出を元に書きました」
そう答えると、読者の方々は理解したように頷いてくれる。
今日も桜の季節がやってきた。毎年この時期になると、彼との約束を思い出す。
カフェで新作の構想を練りながら、窓の外の桜を眺める。満開の花が風に揺れて、ひらひらと花びらが舞い散る。
「拓也、見てる?」
小さくつぶやくと、頬に一枚の花びらがそっと触れた。まるで彼からの返事みたいに。
彼に教えてもらった愛することの尊さ。限りある時間の美しさ。一瞬一瞬を大切にすることの意味。全てを胸に、私は今日も新しい物語を紡いでいる。
「今度はどんな恋愛小説を書こうかな」
ペンを握る手に力を込める。拓也がくれた季節は終わったけれど、彼がくれた愛は今も私の心の中で輝き続けている。
きっと彼も、空の向こうで私を見守っていてくれる。
「君の分まで、たくさんの愛の物語を書いていくよ」
桜の花びらが、優しく私の肩に舞い降りた。




