夢の中の再会
その夜、久しぶりに拓也の夢を見た。
高校時代の文芸部の部室。夕日が差し込む中で、彼が原稿用紙に向かっている。
「拓也」
呼びかけると、彼が振り返る。十八歳の時のままの笑顔。
「美咲、お疲れさま」
「会いたかった」
「僕もずっと君を見てるよ。立派な作家になったね」
「あなたのおかげ」
「そんなことない。君の才能と努力だよ」
しばらく二人で話をした後、彼が真剣な表情になる。
「美咲、一つ聞きたいことがあるんだ」
「何?」
「君は今、幸せ?」
その質問に、私は答えられなかった。
「幸せよ。作家として成功して、読者にも愛されて」
「それは仕事の話でしょう?君自身は?」
「私自身...」
「僕は君に一人でいてほしくて愛したんじゃない。君が笑顔で過ごしてくれることを願って愛したんだ」
拓也の言葉が心に響く。
「もし君が一人でいることで苦しんでいるなら、それは僕の本意じゃない」
「でも、あなた以外愛せないの」
「愛の形はひとつじゃないよ。僕への愛と、誰か他の人への愛は違うものでもいいじゃないか」
夢の中の拓也は、現実の彼より大人びて見えた。
「君が誰かと幸せになっても、僕への愛が消えるわけじゃない。心には複数の愛を抱く場所があるから」
目が覚めると、頬が涙で濡れていた。でも不思議と心が軽くなっていた。




