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文芸部の後輩
翌週、出版社での打ち合わせの帰り道、偶然文芸部の後輩と出会った。
「桜井先輩!」
振り返ると、当時一年生だった田村さんがいた。今では立派な国語教師になっている。
「田村さん、お疲れさま」
近くのカフェで話をした。彼女は結婚して二児の母になっていた。
「先輩の『君がくれた季節』、授業で使わせてもらってます。生徒たちも感動してくれて」
「ありがとう」
「あの、失礼かもしれませんが...先輩はずっと佐藤先輩のことを?」
私は微笑んだ。
「忘れられないのよ。きっと一生」
「でも、佐藤先輩はきっと先輩に幸せになってもらいたいと思ってますよ」
みんな同じことを言う。でも、私にはわからない。拓也が本当は何を望んでいるのか。




