最後の春に君と

桜舞い散る四月の午後、高校三年生の私の前に現れた転校生・拓也。春の陽だまりのような優しい笑顔と、どこか儚げな瞳に、私の心は激しく揺さぶられた。

文芸部で過ごす放課後の時間。彼が書く繊細な文章に魅了され、一緒に原稿用紙に向かう日々が私の世界を輝かせていく。でも時々見せる彼の寂しそうな横顔が、なぜか胸を締めつける。

夏祭りの夜、花火の下で交わした初めてのキス。「君と過ごす時間が一番幸せなんだ」と囁く彼の声に、私は心の底から恋に落ちていた。

けれど秋風とともに、彼の秘密が明らかになる。そして残り少ない時間―。
「君を巻き込みたくなかった」と涙する彼に、私は決意する。最後まで一緒にいると。

限られた時間の中で深まっていく愛。文化祭で発表した「永遠の一瞬」という小説に込めた、私たちの真実の想い。

そして卒業式の朝、桜のつぼみが綻ぶ頃―。

満開の花が風にそよぎ、薄紅色の花びらがひらひらと舞い踊る。まるで新しい出会いを予感させるように、空気中を舞い踊っていた。

窓の外では桜が風に舞い、まるで祝福してくれているみたいだった。

この時はまだ知らなかった。この美しい春が、私たちにとって最初で最後の春になることを―。

愛する人を失う痛みと、それでも心に残り続ける美しい記憶。十代の純粋な恋心と切ない別れ。