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8.招かれざる兄上

 カトリーヌが新しいドレスに着替えて応接間に戻ってから、少し時間が経った。


女神様のお召し物は、瞳の色に合わせた(ドレスの方が色は濃い)紫色のドレスだった。そして質感の違う黒のリボンを、腰の部分で結んでいる。私のドレスのリボンは前でするタイプなので、ちょうど逆かな。

 濃い紫色のドレスと金のアクセサリーの組み合わせには迫力を感じる。並の女性が同じ風に装ったら、少し下品に見えるかも知れないけれど、そこはカトリーヌ。威厳と美しさで並々ならぬオーラさえ感じさせる。こんなに美しくて威厳のある25歳の女性がいるんだなあ、としみじみと感じ入ってしまったよ、私は。


「さすがですね。ボスって呼びたくなります」

「…エリカ、それは褒めているのかしら」


 もちろんだという風に大きく頷くと、カトリーヌはふっと笑いながらソファーに腰をかけた。そのときに、ある疑問が浮かんだ。

 

「でも、ミッシェルさんも長旅でお疲れですよね。道中は埃っぽいですし」

「今日の晩餐は別々よ。けれどね、お客様のお出迎えに平服ではいけないでしょう」


 私の疑問とはズバリ、「特に石畳でもない埃っぽい道中、屋敷に着いたらまずは風呂。疲れてるんだから、一緒に夕食をとるのは時間的(主に私のお腹が我慢の限界)にも遅くなってしまうし、キツイのでは?だったら、着飾る意味は何処にあるのか」ということだ。中途半端な聞き方なのに、カトリーヌはキチンと答えてくれた。流石だ。私の思考を読みましたか。

 

 ミッシェルさんとはあまり話しをしたことがないけれど、噂は耳に入ってくる。なんでもプレイボーイな27歳らしい。おまけに未婚。カトリーヌと似て美形ではあるけれど、実際の性格までは知らない。カトリーヌ並に有能な領主様…それはないか。


「物思いにふけるのは結構よ。でも1つお聞きなさいね」

「はい」

「ミッシェルとは、決して2人きりにはならないこと。何かあったら大声で人を呼ぶのよ、エリカ」


 カトリーヌとは全然似ていないな、こりゃ。



                     ☆☆☆


 太陽が沈んだ頃、ミッシェルさん一行がやってきた。彼以外には、秘書風の男の人と15、6歳くらいの黒髪の少年が一人だった(御小姓さんかな)。そしてミッシェルさんは一発目から強烈だった。


「御機嫌よう、カトリーヌ。王都からこちらに来るまで、随分とかかったよ。途中で馬車の車輪が故障してしまってね。エリカ嬢もお元気そうだ。麗しい2人の女性に再びお会いできて、心が洗われるようです」

 ミッシェルさんはカトリーヌに軽いハグをした後、私の指先にそっとキスをした。私は控えめに「お久しぶりです」とだけ言っておいた。しかしミッシェルさんは顔が無駄に良いだけに、所作がさまになっている。というよりも、彼から醸し出される自信が迫力を生んでいるのかな?そして肩より少し長めの金髪、カトリーヌと同じ紫色の瞳、加えて高身長ときた。女性関係がすごくても「納得」の一言で終わりそうだ。


「今日は疲れたでしょう。湯の準備もありますから、ゆっくりしてらして」

「ああ、そうさせて頂くよ。ありがとうカトリーヌ」


 ニッコリと満面の笑みを浮かべるミッシェルさん。それに対してカトリーヌは、笑顔を浮かべてはいるけれど、声の笑顔はイマイチだ。うーん?今回の滞在には何かあるんだろうか。


「御案内致します、どうぞこちらへ」


 少々の立ち話の後、頃合いを見計らって執事のヨーサムがミッシェルさんに声をかけ、彼ら一行は2階へと消えていった。それを途中まで見送ると、私とカトリーヌは応接間へと向かった。そこで食事の準備が出来るまで待つのだ。

 

「私達は食事をとらなくてはね。お腹が空いたでしょう、エリカ」

「空腹は最高のスパイスです。今日のお夕食は何かなあ。…って、キャティーはいかがですか」

「あまり空いていないわ」


 ふうっとため息を吐くカトリーヌ。何やら、憂いを含んだ横顔である。今更だけど、カトリーヌは実の兄が苦手なんだなって思った。兄弟かあ。私は一人っ子だったからなあ…。

 そういえば久しぶりに実家を思い出したな。私って薄情?


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