1.回想シーン
私がノイゼス王国(山や海に囲まれる豊かな国だ)というか、カトリーヌの屋敷でお世話になって2年が経った。
眼が覚めたら豪華な天蓋付きのベッドで…というあの異世界トリップお約束を体験する事になるとは思わなかった。
うん。そして、天蓋が飾りではないことも分かった。
冬はビロードのカーテンを閉めて寝るだけで暖かいし、夏は麻かレースで出来たものを使えば虫よけにもなる。
話が脱線したね。
豪華な天蓋付きベッドで、私は高熱を出していた。どうも、寝ている時にうわ言まで口にしていたらしい。曰く、
「あああっ。やった~、第一志望の大学進学けって~い」
「ちょっと、それ私のご飯!」
「ピアノ…ピアノ持ってきて」
…等々。冬に夏服を着て倒れていた曰くありげな少女のうわ言かい!
というか、おもいっきり不審人物でしょう。
2~3日経ってから、やっと不審人物(私)は体調が安定した。
その前から、私は軽くパニックを起こしていた。
何で今が冬なの?
ここどこ?
そもそも日本じゃないし、ノイゼスなんて聞いたことないし
私、電車に乗ってなかったっけ!?
「とにかく熱が下がるまでは安静に」と外人メイドさんや医者に言われ(何故か言葉は通じたので、逆に不安を煽った)仕方なく彼らを質問攻めにするのは諦めた。皆親切ではあるけど、無表情だし従わざるを得ないオーラがあったからだ。スマイルはゼロ円ではないんですね…。
そして体調が安定した私に面会を申し出たのは、屋敷の女主人だった。
コンコンというノック。
その日の午後に女主人が訊ねにくることは、事前にメイドさんから聞いていた。
来て欲しくないようで、一刻もはやく会って話をしたい気分だった。私が毛布をギュッと握るのと同時に、メイドさんがドアを開けた。
最初に目に入ったのは、銀髪に紫色の瞳を持つ女性。その後に初老の執事らしき男性も続いたけれど、その時は女主人の方しか目に入らなかった。
無表情…というか、どことなく冷たい雰囲気がある。
でも絶世の美女だ。紫の瞳って本当にいるんだ。
沢山の疑問や不安があったはずなのに、すっかり彼女に見惚れてしまった。
「具合はどうかしら?初めまして。私の名はカトリーヌ・ジャスティン・フラセノーズ
…この屋敷の主よ」
「あっ。あの、大丈夫です。初めまして、私は神崎恵梨花…エリカ・カンザキですっ」
女神様は頷くと、近くの椅子に腰をかけた。
メイドさんと初老の男性は立ったままで、部屋の隅の方に移動した。
「貴女は街外れの街道脇に倒れていた。どうしてかしら」
「…私にも分かりません。というよりも、気がついたらこの部屋のベッドにいて」
「何も覚えていないということ」
その言葉の後、お互いに色々と質問をした。
そして分かった事は、
今は真冬であるということ(日本はくどいようだけど夏だ。
日本という国名は聞いたことが無い。
私もノイゼスを始めとして周辺の国名を聞いたけれど、記憶に無いところばかりだった。
話せば話す程、国どころか私のいた世界とも違う。だんだん背筋が寒くなった。
そして、この世界に来る直前のこと――あの日、私は友達の由香と一緒に一日遊んだ。時計が七時を回って、そろそろ帰ろうとどちらともなく言い出した。それで、私は由香と一緒に電車に乗った。由香が彼氏のことを愚痴っていた時だ、私達の乗っていた電車が急停止し、その弾みで私は座席から体が放り出された。由香は…分らない。そこで、私の記憶は途絶えていた。
「あのっ。私の側に由香は…女の子はいませんでしたか!?」
「いえ、貴女の側には誰も」
ちょっと考えるような顔にはなったが、女神様は即答だった。
回想シーン次も続きます。