プロローグ~死神付きの拾い者~
「人は見た目が9割」やら「外見で人を判断する」という考えはよくない…というよりはバカみたいだと思ってた。
うん。今なら言える。
そうでもないよ。見た目は重要。
外見というか衣装は、その人の社会的地位やその他諸々を如実に物語る。
季節は冬。
貴方は外出先の帰り道で、早く屋敷に戻りたくて仕方が無い。
と、馬車が止まる。
雪の塊か何かが落ちていたのだろう。貴方はため息を吐きながら、再び馬車が動き出すのを待つ。
ふっと、馬車内のカーテンをめくる。
チラホラと雪の降る冬、街道脇に倒れている女性が一人。
貴方がその姿を見て驚くと同時に、御者から遠慮がちに声をかけられる。
御者は敬虔なアリスタ教信者だが、それと同時に現実主義者だ。
困っている者は救わなければならないが、主人の不興を買ってまで見知らぬ女を助けようとは思わない。
主人が「馬車を出せ」と言ったなら、そうするまでだ。
その場合、女を見捨てたのは主人である。
貴方は御者の目論見など、とっくに気が付いている。
もう一度ため息を吐くと馬車から降りる。
倒れている女性の顔を覗き込む。
14、5歳程の少女だ。
顔色は青白いが、少女の肌は肌理が細かい。多少雪が積もってはいるが、その黒髪は艶やか。
しかし、少女はおよそ冬には適さない格好をしている。
仕立ては良さそうではあるが、夏服だ。
ビュウと吹き付けてきた風はひどく冷たい。
傍らに立つ御者が、ブシャンッ!派手なくしゃみをした。
貴方は思う。
ただの庶民では無さそうだが、貴族でもないだろう。
この少女はどこかから逃げてきたのかも知れない。
もし助けたら厄介なことになるかも知れない。
その時、微かではあるが少女の指がピクリと動いた。
さあ、貴方はどうする?
…あの時私がTシャツに膝の破れたGパンを穿いていたとしたら、
多分助けてもらえなかったんじゃないかな。
助けるかどうかを見た目で判断するのは良くない。
でも、
「ボロを着た物乞いの行き倒れ風な少女」を助ける貴族もいないと思う。いたとしても、良心的な気持ちから…とはいかないかも。
私を助けてくれたのは、カトリーヌ・ジャスティン・フラセノーズ伯爵未亡人。当時、23歳。
ちなみに私は当時18歳だった。
断じて、14、5歳の少女ではないのだ。
貴方がカトリーヌだったら、どうしたかな?
私だったら…どうしただろう。