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5 街で買い出し

買い物がひと通り終わると、近くの食堂へ入った。


「おや、今日はかわいい子を連れているね。新人さんかい?」


給仕をしていたおかみさんから声を掛けられた。どうやら行きつけの食堂らしい。


「いや、リコは昨日こちらに来たばかりの迷い人だ。俺が保護している。また世話になるだろうからよろしく頼む」

「リコです。よろしくお願いします」

「おやまあ、それは大変だったね! 私はここのおかみでグレタだよ。みんなからグレタおばさんって呼ばれてるんだ。よろしくね」


私達は四人がけの席に案内された。人気があるようで、テーブル席もカウンター席もほぼ埋まっているようだ。


「ここは騎士団の連中がよく来るんだ。美味くて量も多い」

「そうなんですね。楽しみです」


四人とも日替わりランチを注文した。おかみさんから量を心配されたので、少なめでお願いする。さすがに騎士さんと同じ量は無理そうだよね。


「はい、おまちどうさま。今日はポークソテーだよ」


うわあ、美味しそう。大きなお肉と焼いたソーセージ、付け合わせに焼いたじゃがいもとカリフラワーが添えてある。私のお肉は半分ほどのサイズにしてくれている。うん、少なめでお願いして正解。

テーブルの真ん中にドンと、カゴに入ったパンも置かれた。これは食べ放題らしい。


「いただきます」


私が手を合わせると、イリスさん達から不思議そうな顔をされた。あ、こっちではしないよね。


「私の国の食事をするときの挨拶なんです。つい癖で」

「いいよ、好きにしてくれ」


ベルノルトさんはふわっと笑ってくれた。


「それはなんか意味があるんっすか?」

「そうですね。料理を作ってくれた人、食材を育ててくれた人、なにより命をいただくのでその全てに感謝するみたいな感じですかね」

「素敵な習慣ね。私もやろうかな?」


イリスさんが真似をしていただきますをした。ふふ、なんか不思議。


お肉は胡椒が効いていて美味しかった。パンは噛みごたえがあるのでひとつで満足。

三人の騎士達は、あれだけあったお料理もパンも全部食べてしまった。凄いな!


「ベルノルトさん、普段の食事はここか買って帰ることが多いですか?」

「そうだな。騎士団の食堂もあるし、自分ではほとんど料理はしないな」

「あの、だったら私がしてもいいですか?」

「リコが? 料理ができるのか?」

「私の国の家庭料理で良ければ……」

「ぜひ頼む! 食べてみたい」


ベルノルトさんは大きな体を乗り出して言った。そんなに家庭料理に飢えていたのかな? 私も凝ったものは作れないけれど、一人暮らしで自炊はしていたので簡単な物ならできると思う。


「隊長、食い付きすぎ」

「怖がられますよ」


イリスさんとラルフさんが何か小声で言っていたけど、よく聞こえなかった。


「じゃあ隊長、私達は仕事に戻りますね」

「ご馳走になるっす」

「ああ、買い物助かったよ」

「ありがとうございました」


ふたりにお礼を言って、店の前で別れた。そのまま私達は調理器具を売っているお店に行くことにした。


「あの、荷物は大丈夫ですか? 私も持ちますよ」

「これくらいなんてことないよ」


ベルノルトさんの両手は、私の買い物の袋でいっぱいになっている。騎士隊長さんに荷物持ちなんかさせて申し訳ない。


調理器具のお店では、鍋をふたつとフライパン、トングやボウルなどを買った。まな板と包丁はパンを切る時に使っていたので家にあるのは確認した。スープを温める時に使った小さなお鍋もある。


「他は買わなくていいのか?」

「ええ、これだけあれば大丈夫だと思います。あとは家にある物で何とかしますよ」


食料品店にも寄った。そこでは調味料やスパイス、チーズなどを買った。八百屋さん、お肉屋さん、パン屋さんと寄って、その度にベルノルトさんは、


「うちで保護しているリコだ、よろしく頼む」


とお店の人に顔つなぎをしてくれた。みんな、違う世界から突然飛ばされて来た私に同情し、


「困ったことがあれば、すぐに言うんだよ」


と、優しい声を掛けてくれた。人情味あふれる人達で、ちょっと泣きそう。


店を出て大きな通りを歩いていると、


「甘い物は好きか?」

「はい、大好きです」


そう聞いたベルノルトさんは、少し先にあった屋台で紙袋に入った何かを買ってきてくれた。


「これは……」

「揚げ菓子だ。食べてみて」


袋を開けると、砂糖とシナモンの掛かった一口サイズの揚げドーナツみたいなお菓子が入っていた。串がついていたので、ひとつ刺して食べてみる。


「ん、揚げたてフワフワで美味しい!」

「そうか」


ベルノルトさんが嬉しそうに笑った。


「ベルノルトさん、甘い物は?」

「こう見えて、実は好きなんだ」


そうなのね、しばらく一緒に暮らすのなら食の好みを知っておきたい。ベルノルトさんは両手が荷物で塞がっているから、串を口まで持っていけないよね。


「はい、どうぞ」


私はベルノルトさんの口元に、串に指した揚げ菓子を差し出した。

 

「あ、ありがとう」


顔が赤くなってる。大人の男性に子供みたいな扱いをしちゃって、恥ずかしかったかな。でも揚げたての方が美味しいもんね? 私達は交互に揚げ菓子を食べながら、家路についた。



◇◇◇◇


冷蔵庫に食料品を入れ買ってきた鍋などを洗ったところで、家具屋さんがベッドを持って来てくれた。荷馬車で運んでくれたみたい。


ベルノルトさんと家具屋さんで二階の空き部屋まで持ち上げてくれた。一緒に頼んでおいたシーツと掛け布団も敷いて、枕を置けば私の寝床が出来上がった。


「ベルノルトさん、本当にありがとうございます。見ず知らずの異世界人のためにここまでしてくださるなんて、神ですか?」

「フッ、なんだそれ。大げさだな」

「あなたは魔物から守ってくれただけでなく、生活まで整えてくれた命の恩人ですよ。私、頑張って働きますからね! この国でも早く自立しなくちゃ」

「いや、そんなに急がなくていいからな?」

「ひとまず、この国の習慣に慣れるまでは家の事をやります。仕事はそれから探すつもりですけど、それまで居候させてもらえますか?」

「ああ、いつまでもいてくれていい」


良い人だな〜。せめて美味しい料理を作って喜んでもらおう。掃除や洗濯もして、家では仕事の疲れを癒やしてもらうんだ。居候の私が出来るのはそれくらいしかないもんね。


「じゃあ、夕食の準備をしますね! ベルノルトさんの好きな物ってありますか?」

「そうだな、やっぱり肉かな」

「ふふっ、そんな気がしていました。逆に苦手な物はありますか?」

「いや、何でも食える。遠征に出た時なんか、その辺で獲物を狩ったりもするからな」

「おお、ワイルドですね」


身体が資本のお仕事だから、お肉だけじゃなく野菜も食べてもらおう。


「じゃあ、リビングでゆっくりしててくださいね」


ソファの前のテーブルにお茶を出して、キッチンに戻った。魔石のコンロの使い方も覚えたぞ。私は初めてのキッチンに戸惑いつつも、料理を仕上げていった。




「すごいな、いい匂いがする」


ベルノルトさんは待ちきれなかったのか、料理中もキッチンをのぞきに来たり、リビングをクマのようにウロウロしていた。声を掛けると料理を運ぶのを手伝ってくれる。


「今日は、色んな野菜を薄切りにした豚肉で巻いて焼いてみました。これはアスパラ、これはじゃがいもとにんじん。あとはコールスローと野菜とベーコンたっぷりのミルクスープ。こっちのハムとチーズは切っただけです」

「ものすごく美味そうだ。初めての料理だよ」


そう言いながら、パンを切ってくれた。いただきますをして食べ始める。


「美味い……すごく美味いよ、リコ」

「お口に合ってよかったです」


ベルノルトさんは本当に美味しそうに食べてくれた。山盛りにしていた肉巻きもコールスローも全部無くなり、スープのおかわりまでしてくれた。多めに作って正解だったわ。


食後はふたりでソファに座ってお茶を飲んだ。もう春だから薪ストーブに火は入っていないけど、なんだか暖かい気持ちになった。


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