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いきなり異世界に飛ばされましたが、私は幸せです~奥手なクマ系騎士隊長の無自覚溺愛生活〜  作者: 麻咲 塔子


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4 ふたりの騎士様

「ここ、どこだっけ……」


見覚えのない部屋を見渡して、寝起きでボーッとした頭をなんとか働かせた。ああ、そうだ。異世界に飛ばされたんだったな。ここはベルノルトさんのお家だ。


窓からは明るい光が差し込んでいる。もう朝か。カーテンを開けて外を見ると、裏庭の奥が見えた。昨日は気付かなかったけど、庭の向こう側って川が流れているんだな。裏庭から川の方へ降りる階段もあるみたい。


顔を洗うために階段を降りた。ベルノルトさん、ちゃんと寝られたかな。リビングの扉を開くと、ベルノルトさんの姿はソファにはない。あれ? どこだろう。

裏庭へ続く窓を見ると、外でベルノルトさんが剣を持って素振りをしていた。


「おはようございます」

「リコ、おはよう。昨日は眠れたか?」

「はい、ベッドに入ったらすぐに寝てしまいました。ベルノルトさんは大丈夫でしたか?」

「ああ、俺は大丈夫だ。どこでだって眠れる」

「よかった。私、顔を洗ってきますね」


洗面所で顔を洗うと、昨日買ってもらったワンピースに着替えた。腰のあたりでキュッと切り替えた前ボタンのフレアワンピース。ブルーの生地に白い襟が付いている。ちょっとクラシカルだけど、日本でも着られそう。

昨日着ていたパンツスーツは、シャワーを掛けて洗っておいた。ウォッシャブルスーツで良かったよ……着ることはもうないかもしれないが、一応取っておこう。


「ベルノルトさんも汗をかかれたでしょ? シャワーで流しますか?」

「か、かわっ」

「え?」

「いや、そうだな。流してくるよ」

「じゃあその間に朝食を用意しますね。と言っても、昨日の残りを並べるだけです」

「いや、十分だ。頼んだ」


冷蔵庫からお惣菜を取り出し、ふたつのお皿にきれいに並べてみた。うん、オシャレカフェのランチっぽくなった。紅茶の茶葉も見つけたので入れようと思ったのに、コンロの使い方がわかんないや。これも魔石かな、後で教えてもらおう。


テーブルにカトラリーとお皿を並べたところで、ベルノルトさんがシャツとトラウザーズというラフな格好でリビングに入ってきた。うわ、すんごい胸筋。さすがは騎士さん、鍛えてるなぁ。


「どうした?」

「その、筋肉がすごいなって」

「こ、怖いか?」

「ふふっ、怖くないって言ったじゃないですか」


なんでそんな心配をするんだろう。私は日本から一緒に飛ばされてきたカバンを開け、スマホを取り出した。不思議と、充電は減っていないみたい。


「これ、うちの兄達です」


兄達が写っているスマホの画像を見せた。もちろんラガーマン姿だ。周りにも厳つい男達が写っている。


「おおっ、これはなんだ? 写真にしては鮮明すぎる!」

「これはスマホという道具です。電話といって離れたところの人と通信できたり、写真も撮れたり調べ物もできる便利な道具です」

「そんな小さな板で……リコの国は進んでいるんだな」

「そうですね。でもここでは使えないでしょうね。写真は撮れるかな?」


私はベルノルトさんの隣に行くと、顔を近付けて一緒に写真を撮ってみた。


「ほら、こんな感じです」

「リ、リコ、びっくりした」


スマホにはびっくり顔を私に向けたベルノルトさんが写っていた。いきなり撮って驚かせてしまったみたい。


「この写真は取り出せないのか?」

「うーん、ここでは難しいかもしれませんね。印刷する機械がいるので」

「そうか」


ちょっと残念そう。異世界の写真が欲しかったのかな?

私は画面を、肩を組んだラガーマンに囲まれ兄にお姫様抱っこをされた私の写真に戻した。


「それで兄達はこれです。ね? みんな大きいでしょう?」

「男がいっぱい……」

「兄達がやっている競技を見に行った時の写真です。周りの人達も兄みたいなものですね」

「そうか、ならいいんだ」


よかった、私が怖がっていないって伝わったみたい。


「食べたら買い物に行こう。家具を今日中に買わないとな」

「本当に、ベッドだけで大丈夫ですからね?」

「ああ、わかってるよ」


一緒にお皿を洗うと、街へ出掛けた。と言っても、通りを一本向こう側に行くだけ。騎士団の詰所にも近いし、かなり便利な所に住んでいるみたい。


まずは家具屋へと案内された。ベルノルトさんが化粧台や小物タンスに行こうとするのを、腕を引っ張って阻止するのが大変だった。そんなの必要ないから! 部屋にクローゼット収納もあるし、そもそも荷物は通勤に使っていたカバンひとつと昨日買ってもらった服しかないんだから。

自立した時に、引っ越しの荷物が増えるのも困る。


シンプルなシングルベッドを選んだら、家具屋さんとベルノルトさんからダブルを激推しされた。なんでだ? 私は小柄だから必要ないと言ったら、間を取ってセミダブルになった。



◇◇◇◇


「あら、バウム隊長じゃないですか」


家具屋を出た所で、声を掛けられた。前から駆け寄ってきたのは、騎士服姿の若い女性と男性。昨日見た騎士の制服と同じ黒色だ。ベルノルトさんと同じ隊の方かな?


「イリスにラルフ、こんな所でどうした」

「城壁の向こう側で、小型の魔物が出たと言うんで見に行ったんですよ。魔物じゃなくてただのキツネでした」

「魔物じゃなくてよかったっす。ところで隊長はデートすか?」

「なっ、デ、デート!? この人は昨日の迷い人だ」

「もちろん、覚えていますよ。初めましてお嬢さん、私は騎士団第五隊のイリスです」


ふわ〜、女性騎士さん格好いい! 背もスラッと高くて、金髪を高い位置でポニーテールにして背中に流している。身のこなしが、あなた王子様じゃないの? ってくらい素敵ー!


「は、初めまして。私はリコ・エトウです。昨日は皆さんにお世話になりました」

「足が速かったっすよね。俺も第五隊のラルフっす。よろしく」


こっちはオレンジ色の髪をしたガタイのいい騎士さんで、人懐っこそう。というか、ちょっとチャラい? イリスさんより若そうだ。


「デートじゃないなら、何をしてたんすか?」

「家具を選んでいたんだ。うちには俺の一人暮らし用の物しかないからな」

「あら、だったら他にも必要な物がありますよね? 女性用の化粧品とか他にも色々」

「あっ、そうだな。失念していた。すまないリコ」

「いえ、大丈夫ですよ」

「イリス、ちょっと付き合ってくれないか? 俺だけでは全て揃えられるか自信がない」


ベルノルトさんがシュンとすると、イリスさんがおかしそうに笑って言った。


「フッ、隊長でもそんな顔をするんですね。いいですよ。どうせこのまま昼休みだし、ランチで手を打ちましょう」


イリスさんはドンっと胸に拳を当てる騎士の礼をした。顔はおどけていたけど。

頼もしい同行者が加わり、また街を歩き出した。ラルフさんも当然のように付いてくる。


「おい、なんでお前まで付いてくるんだ?」

「なんか面白そうだから?」

「先に帰っていいぞ」

「え〜俺にもランチ奢ってくださいよ〜」


仕事以外の時間に上司に軽口を叩けるというのは、隊の雰囲気がいいんだろうな。


「まずはここね」


連れてこられたのは化粧品屋さん。生活で使う消耗品も売っているようだ。ファンデーションやリップなどは化粧直し用のポーチに入れていた。だけどさすがにスキンケア用品まではない。正直、連れてきてもらえて助かったよ。

化粧水や保湿クリーム、日焼け止めなど最低限の物だけ買ってもらおう。


「あら、それだけでいいの? 隊長は高給取りだから、遠慮せず買ってもらいなさいよ」

「いえいえ、十分です」

「本当か? 遠慮してないか? なんでも買っていいんだぞ?」


遠慮はしていない。普段から社会人として最低限の化粧しかしてないんです。口紅まで買おうと手に取ったベルノルトさんを止めた。


「じゃあ、これは? 髪につける香油よ。髪がサラサラになるわ」


それは嬉しい! トリートメントがないからちょっと困ってたんだ。ありがたくカゴに追加させてもらった。あとは歯ブラシや生理用品などの生活必需品も一緒に選んでもらった。イリスさんがいてくれてよかった! 日本で使っていた物と同じじゃないから、どれを買えば日本の物の代用になるのかわからないもの。


「服や下着はどうしてるの?」

「昨日、三セットほど買ってもらいました。ひとまず大丈夫だと思います」

「それだけでいいの? もっと買ってもらいなさいよ」

「必要になったらで大丈夫ですから。あっ、寝間着だけは買い忘れたんです」

「昨夜はどうしたの?」

「ベルノルトさんのを借りました」


チラリと上司を見たイリスさんとラルフさんが、なぜかニヤリと笑った。ベルノルトさんはそっぽを向いている。


「隊長やーらしー」

「うるさいぞ、ラルフ!」


ガタイのいい男がふたりでじゃれ合っている。仲がいいのねー。


「じゃあ、次は寝間着を買いに行きましょう」

「お願いします」


昨日とはまた別の服屋さんに連れて行かれた。そこでワンピースタイプの寝間着を二着選んだ。フリルやリボンが付いていてかわいらしい。私、二十六歳なんだけど大丈夫?

あとは、靴下や昨日はなかったキャミソールみたいな下着なども選んだ。


「これは買った? 室内履きよ」


イリスさんが、かわいらしいリボンの付いたスリッパのような物を指差した。そうか、家の中も靴で生活するもんね。私が持っているのは、日本から履いてきた黒いローヒールのパンプスだけ。首を横に振ると、それもカゴに追加された。

その他にも、寝間着の上に羽織るカーディガンや肌寒い時に使えるショールなんかも、イリスさんセレクトでカゴに入れられた。


「隊長、ひとまずこれだけ。あとは季節ごとに買ってあげてください」

「助かったよ、イリス」


会計のあたりで待っていたベルノルトさんに、イリスさんが山盛りのカゴを渡す。


「すみません、散財させてしまいますね。きっと働いてお返し――」

「いいのよー! 隊長は他に使う時がないんだから。貰っときなさい」

「そうだぞ。遠慮はいらない」


否定するかと思ったら、ベルノルトさんはイリスさんに同意した。

たしかに、ベルノルトさんの家は物が少ない。お仕事が忙しくて買う暇もないのかな。私はお礼を言って甘えることにした。

いつか恩返ししますからね!


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