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いきなり異世界に飛ばされましたが、私は幸せです~奥手なクマ系騎士隊長の無自覚溺愛生活〜  作者: 麻咲 塔子


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31 サプライズ過ぎませんか?

近ごろ、朝起きたら裏庭のりんごの木を見るのが日課になっている。

春に咲いた花はだんだんと実がふくらみ、りんごの形になってきたのだ。日本のりんごと比べると少し小振りかな。実はまだ青いけれど、枝は重そうにしなっていた。



「リコ、ちょっといいか?」

「ベルノルトさん、おはようございます」

「ああ、おはよう。今日なんだが、仕事は休みだよな?」

「はい、お店が臨時休業ですって」

「ならいい。出かけたいところがあるんだ。ついてきてくれるか?」

「えっと、どこでしょうか。なにか準備はいりますか?」

「いや、そのままでいいから、ついてきてくれ。そうだ、あのスマホとかいう道具も忘れずにな」


庭にひょっこりと現れたベルノルトさんから、不思議なお誘いを受けた。

どこに行くのかな……? スマホで景色でも撮りたいとか?

私達は軽い朝食をとると、騎士団から連れてきた馬にふたりで乗った。



◇◇◇◇


「ここって……」


馬に乗ってたどり着いたのは、王宮の向こう側にある中央大聖堂だった。相変わらず重厚感のあるたたずまいだ。近くで鐘楼を見上げると、ん〜首が痛いな。

以前、買い物に連れて行ってもらった時に、王侯貴族はみんなここで結婚式をすると聞いた覚えがある。そんな由緒ある聖堂になぜ……?


「あっ、来た来た! リコちゃんこっちよ!」


私が間の抜けた顔で鐘楼を見上げていると、聞き覚えのある声がする。


「グレタおばさん!」


いつもよりよそ行きの格好をしたグレタおばさんと、騎士の正装をしたイリスさんとラルフさん、それにスーツをオシャレに着こなし胸に花を挿したマリーさんが、大聖堂の階段の上にいた。


「ほらほら、準備に時間が掛かるから急ぎましょ」

「え? なに? 準備って?」


グレタおばさんとイリスさんから両腕を掴まれ、ズルズルと教会の中へ連行された。まさに連行、だって騎士様だもの。


「あの、私なんかやらかした?」

「何言ってんの! 着替えて準備をするだけよ」


控室と書かれた扉を開くと、揃いの制服みたいな服を着た女性が三人もいた。その三人にグレタおばさんが声を掛ける。


「この子が今日の花嫁さんよ。お願いしますね」

「お任せください!」

「世界一の花嫁さんに仕立てますわ!」

「なんてかわいらしい。腕がなるわ」


グレタおばさん達の会話を聞いて、一瞬思考が止まる。


「花嫁さんって、誰が?」

「あなたよ、リコさん」

「えええええぇ〜〜! 聞いてないんですけど!?」


私の驚き方を見て、三人の女性が気の毒そうな顔をする。


「そりゃびっくりするわよね。陛下もお人が悪い」

「ごめんなさいね。国王陛下が『花嫁に内緒にしたら面白いんじゃないか』なんて言い出すから」

「『女性は色々と準備があるから、急に言われても困るの』と王妃様も仰ったのよ? でも陛下は子供みたいな所がおありだから……せめてものお詫びにと、私達を派遣されたの」

「えっ、ではあなた方は王妃様の侍女さんなんですか?」

「「「ええ、そうなの」」」


ベテランそうな侍女さん達は、にっこりと笑った。王妃様の侍女って、貴族の令嬢じゃなかったっけ。平民ではなれないよねぇ。


「サプライズ結婚式なのは理解しましたけど、王妃様の侍女さんに支度を頼むだなんて畏れ多いです!」

「リコさん、王妃様がそうするように言われたんだから、気にしなくて大丈夫よ」


イリスさんもパチリとウインクをして言う。本当に? ド庶民だけど大丈夫? 


「そんな不安そうな顔をしないで! 私達に任せてちょうだい」


侍女さん達は、慣れた手付きで私のワンピースをスポーンと剥ぎ取った。


「内緒じゃなければお肌のお手入れもできたのに……」


ブツブツと呟きながらも、ドレス用の下着を着けコルセットを絞りあげられた。なるほど、胸がないから、寄せて上げるんですね。


「うぅっ、苦し……」

「あなた華奢だから、あまり締めなくてもドレスは入りそうね」


テキパキと着付けられながら、ひとつ気になったことを聞いてみた。


「あのぅ……このドレスはどこから……」

「王家の衣装保管室よ。歴代のお妃様や王女様のドレスが保管されているの。どれでも使っていいと両陛下から許しを得ているから安心してね」

「リコさんの体型を知っている私も一緒に選んだのよ」

「ひぇっ!」


王族のドレス!? 道理で生地が高そうだと思ったわ。私の服の趣味を知ってるイリスさんが一緒に選んでくれたおかげで、わりとシンプルなプリンセスラインの白いドレスだ。


「黒髪に似合うと思って、白にしたの。どうかしら?」

「とても素敵です。私の国では花嫁さんは白を着るんですよ」

「あらまあ! 偶然だけどピッタリだったってことね」


侍女さん達は嬉しそうに話しながらも、手は止まらない。着付けが終わると、鏡台の前に座った。

これまた慣れた手付きで髪が結い上げられていく。こちらに来てから一度も切っていない髪は、肩まで伸びて結えるようになっていた。


「アクセサリーは隊長さんからよ」

「このネックレス?」

「セットのイヤリングもね」


侍女さんが着けてくれたネックレスは、深い青の宝石が付いていた。まるでベルノルトさんの瞳のようね。素敵……



「ドレスも白だし、この子なら初々しい雰囲気の方が似合いそうね」

「ええ、そうしましょう」


丁寧に肌を作り上げ、メイクを施していく。あれこれ塗りたくられた気がしたけれど、とても自然な仕上がりになっている。とても厚化粧をしたようには見えない、なのに目元はパッチリしていつもの百倍きれいになった私が鏡に映っていた。


「どうかしら?」

「ありがとうございます……私じゃないみたい」

「あら、あなたの顔を活かして化粧したんだから、これがあなたの顔よ」

「いやあ、プロの侍女さんって凄いわ。とてもきれいよ」


イリスさんも、腕を組んで感心している。


「あなたにもしてあげるわ、ちょっとじっとしてて」

「いや、私は騎士だから」

「いいからいいから」


イリスさんとグレタおばさんまで、軽く化粧を施された。


「ふたりとも、とってもきれいよ!」

「なんか照れるわねぇ。最近はあまり化粧なんてしていなかったから」

「私も騎士服の時はしないんだけどなぁ」


侍女さん達も、ウンウンと満足げに頷いている。

その時、控室の扉をノックする音がした。


「どなたかしら?」


侍女さんが扉を開くと、


「あっら〜! きれいな花嫁に仕上がったじゃないの」


マリーさんの明るい声が飛び込んできた。後ろにラルフさんの姿も見える。


「マリーさん! 結婚式だから、今日はそんなに素敵な格好をしてくれていたんですね?」

「そうよ〜アタシは花嫁の付添人ってやつ? 女友達の大事な役目よ」

「ガタイはいいけどね」

「イリス、おだまり!」

「てことで、私とマリウスが付添人で、ラルフは会場までの先導役よ」

「先導させてもらうっす」

「まあ! ありがとう!」


そういうことだったのね。こちらの世界でほとんど知り合いがいない私のために、みんなで考えてくれたんだ……。


「さあさ、お母様の出番ですよ。花嫁のベールを下ろしてあげてください」

「私がやっても、いいのかい?」

「グレタおばさん、是非お願いします」

「リコちゃん、幸せになるんだよ。ぐすっ」

「おばさん、迷い人の私に親切にしてくれてありがとう。ぐすっ」


「あ〜ほら、お化粧が落ちてしまうわ。おふたりとも泣くのは早すぎます」


侍女さんが私達の目に滲んだ涙を拭いてくれた。


「じゃあ、私は先に行ってるからね」

「リコさんは任せてください」


グレタおばさんは頷くと、一足先に控室を出て行った。

入口付近ではラルフさんがボケーっと突っ立っている。どうしたのかな? すかさずイリスさんが突っ込む。


「ラルフ、あんたどうしたのよ」

「いや、イリスさんその顔は……」

「あら、あんたもお化粧してもらったの? いいじゃない、ね? ラルフ」

「へ? ああ、うん、いいっす」


マリーさんの問いかけに、心なしかラルフさんの頬が赤い。


「おやおや?」

「これはまた」

「あなたの結婚式の時も、お化粧してあげましょうか?」


侍女さん達に肩をポンと叩かれたイリスさんは、


「なっ、そんな予定はないわよっ!」


と、やけに動揺していた。これは『ツンデレ女騎士と年下ワンコ騎士』が見られるかも? 

マリーさんとベール越しに目が合うと、お互いニヤリと笑った。


「そろそろお時間です」


聖堂の係が時間を知らせに来た。私は侍女さん達に頭を下げお礼を言う。


「お三方、今日は本当にありがとうございました。両陛下にも、心より感謝していますとお伝え願えますか?」

「ええ、私達も花嫁さんの支度を手伝えて楽しかったわ」

「両陛下にもお伝えしますからね。お幸せに」

「ほら、英雄が待っているわ。いってらっしゃい」



イリスさんとマリーさんに挟まれ、腕に手を掛けエスコートしてもらった。着慣れないドレスだから、両側に騎士様がいるのは頼もしい。私達の前には正装姿のラルフさんが歩いている。


聖堂の入口には食堂りんごの花のヨハンおじさんが、正装をして手にブーケを持ち待っていた。


「ヨハンおじさん!」

「リコちゃん、おめでとう。今日は俺が父親の代役をしてもいいかい?」

「はい! こちらこそお願いします」


突然異世界に飛ばされた私は、本当の家族とは生き別れていた。だから今の私は、食堂のヨハンおじさんとグレタおばさんのことを、この世界の両親のように思っている。


「じゃあ、私達は先に入っているわ」

「皆さんも、ありがとう」


イリスさん、ラルフさん、マリーさんは、係に連れられ中へ入っていった。


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