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いきなり異世界に飛ばされましたが、私は幸せです~奥手なクマ系騎士隊長の無自覚溺愛生活〜  作者: 麻咲 塔子


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30 クマ系男子

家でのランチから数日後。イリスさんの休みに合わせて、親戚の小説家の方に会うことになった。先日、例の事件も発表されたし、私が騎士団の討伐に貢献したことも同時に発表されている。


フォルケル伯爵家は、血縁者が不名誉な家名を継ぐことを拒否したため取り潰しになり、父親は鉱山行き、娘は戒律の厳しい修道院、護衛達は王都から追放になったらしい。

陛下から『リコに手を出すなよ』と、国民に釘を刺してもらったようなものなので、ベルノルトさんからも外出の許可が出ている。


親戚の方とは、イリスさんとよく一緒に行くカフェで待ち合わせることになった。


「こちらがリコさん、私のお友達でうちの隊長の婚約者よ」

「はじめまして、リコ・エトウです」

「こちらが私のイトコ、マリウス・ボッシュよ。恋愛小説を書いているの」

「はじめましてぇ、マリーって呼んでね」


そう野太い声で挨拶してくれたのは、背が高くてガッチリした男性……? イリスさんと同じ金髪をツーブロックにし、後ろに撫で付けたようなおしゃれな人だ。


「マリーさん? よろしくお願いします」

「こちらこそ~、今日は凄く楽しみしてたのよぉ」


恋愛小説家って聞いていたから、てっきり女性が来るのかと思ってたよ。えっと、中身は女子なのかな? 口調は女性っぽい。


「あー、この人こんな喋り方だけど気にしないでね。ガタイのいい女だと思って」

「ガタイがいいは余計よっ! 心は乙女なんだからね!」


ふたりの掛け合いは、息がピッタリ合って面白い。さすがはイトコ同士ね。


「ふふっ、仲がいいんですね」

「そうね、母親が姉妹で私達も同い年だし。親戚と言うより姉妹みたいなものね」

「子供の頃は兄弟みたいだったのよぉ。この子ったら剣を振り回してばかりだったし」

「おかげで騎士になれたんだから、いいじゃない」


イリスさんの子供の頃の話をもっと聞きたい! きっとお転婆で可愛かったんだろうな〜。


「話が逸れてるわ! アタシはリコちゃんの話を聞きに来たのよ〜」

「私の話なんて、小説の参考になりますか?」

「なるわよ! 英雄と異世界からの迷い人よ? こんなレアカップルはなかなかいないわ」

「それなら……」


日本という国にいたけれど、仕事帰りに突然この世界に飛ばされて来たこと。着いた場所が森の中で、魔物に襲われそうになったところを第五隊に救われたこと。そのまま保護され、ベルノルトさんが身元保証人になってくれたことや、住むところがない私を居候させてくれたことなど、順を追って話した。


「イリスさんも、こちらに来てすぐにお世話になったんですよ。それがきっかけでお友達になったんです」

「そうだったわね。まだ数ヶ月しか経っていないのに、なんだか懐かしい。ずっと前から友達だった気がするわ」

「ふふっ、私も」

「あらズルいわ。アタシも仲間に入れてちょうだいよ」


メモを取りながら話を聞いていたマリーさんが、ジト目になった。


「もちろんです! 私とお友達になってください!」

「大丈夫かなー。マリウスは見た目は男だけど」

「えっ、どうして?」

「あの人の独占欲を舐めちゃ駄目よ。他の男が近寄ってきたらどうなるか……」

「第五隊長でしょ? 大丈夫よ。私の中身は女だって知っているだろうし」

「えっ、マリーさんもベルノルトさんと知り合いなんですか?」


まるで、ベルノルトさんをよく知っているかの様な言い方だったよ?


「まあ、アタシも元騎士だし?」

「ええぇーーー! そうなんですか?」

「どう見ても、ゴツい騎士体型でしょ」

「イリス! ゴツいって言うな!」


うん、たしかに。騎士団に混ざっても違和感のない体格だわ。なんで言われるまで気付かなかったんだろう。


「マリーさんも第五隊だったんですか?」

「ううん、アタシは第四隊だったの。王都や近隣の街や村で災害が起きた時に、救助や支援に行っていたわ」

「へぇ、第四隊は災害支援部隊ですか。日本なら自衛隊とか消防隊みたいな感じかな」

「リコちゃんの国にもそういう騎士団があるのかしら?」

「騎士とは呼ばないですけどね。同じような役割の部隊はありましたよ」


日本では警察、消防、自衛隊と組織が分かれていたけれど、この国は全部騎士団の仕事みたいね。


「騎士から恋愛小説家とは、大胆な転職をしましたね」

「マリウスってば、騎士団員みたいなムキムキの男はタイプじゃないんだって。だからなんの未練もなかったのよね?」

「そうよー、アタシみたいなのがいっぱい居ても全然ときめかないわ。本当は近衛みたいな見目のいいスマートな感じがタイプなの。だからトキメキは自分の小説から補給することにしたわ」


はー、そういう転職もあるのね。


「私の国でも、騎士の恋愛小説は人気があったんですよ。そういうのは書かないんですか?」

「そうねぇ、王子様と平民との身分差の恋なんかが人気だから、王子や王女の話をよく書くわ」

「騎士の事に詳しいなら、騎士モノを書いたら人気が出そうなのに……例えば、年下ワンコ系騎士に懐かれる女騎士とか」

「えっ、なにそれ! ワンコって騎士が犬なの?」


マリーさんがワンコに食い付いて、カリカリとメモを取る。


「いえいえ。ワンコ系っていうのは、人懐っこくて甘えん坊、寂しがり屋だけど好きな人には一途な犬っぽい男子の事です。そうだなぁ、ちょっとラルフさんっぽいかも」

「えぇ~、ラルフはチャラいわよ」

「名前はオオカミだから、犬系ではあるわね。いいじゃない、年下ワンコ」


マリーさんの言葉に、イリスさんが顔をしかめる。納得がいかないらしい。


「ラルフさんって、好きになったら一途そうだけどな。人懐っこい大型犬って感じ。あとはツンデレで自由人な猫系男子ってのもありますよ」

「ちょ、ちょっと待って。リコちゃんは今までの概念をぶち壊してくれるわね! 聞いたことがないことばかりよ。つんでれ? 何よそれ!」


私は、ツンデレ、ヤンデレ、クーデレなどなど、日本の漫画やラノベでよく出てくる言葉を解説していった。マリーさんはメモを取りながら、ひとつひとつの言葉に感心したように頷いている。


「そうやって、男子を分類する文化はなかったわ。恋愛小説では、リコちゃんの国は一歩も二歩も進んでいるわね!」

「本当ね、面白いわ。じゃあ、隊長だと何に分類されるの?」

「ベルノルトさん? そのままズバリ『クマ系男子』かな。体が大きくて包容力があって、気は優しくて力持ちみたいな。ヒゲもクマっぽいし」

「アッハッハ! そのまんまね!」


イリスさんとマリーさんはテーブルをバンバンと叩いて大ウケだ。


「あら、クマ系も結構人気があるんですよ? あとはそうだな、肉食系男子と草食系男子と……ロールキャベツ系男子とかもありますね」

「もう、何よそれ。リコさんの国の人って面白いわねぇ」

「アタシは物凄く勉強になったわ! 新作のアイデアが湧いてきたもの。あ、だけど先にリコちゃんと英雄の物語を書くわね」

「私達のは後回しでも――」

「それは無理よ。もう新聞で連載することになってるの」

「えぇっ!? 新聞?」


本を出すんじゃなくて、新聞なの? テレビやネットがないこの国では、新聞の方が本を出すより多くの人が読むことは間違いない。


「うん、もう二週間後から連載開始よ。アタシがリコちゃんの話を聞くって新聞社の知り合いに言ったら、速攻で連載をもぎ取ってくれたのよ。楽しみにしててね」

「リコさん、心配しないで。隊長からも許可が出ているわ。週に一回全十二話の予定ですって」

「えぇっ!?」


ベルノルトさんも知ってたの!? ふたりともなんて手回しのいい……



◇◇◇◇


二週間後、マリーさんの連載が開始した。タイトルは『英雄と黒髪の乙女』。

もしかしなくても、黒髪の乙女とは私のことだ。本人とのギャップがありすきて恥ずかしい。恋愛小説って言うから日本のラノベのような感じかと思っていたのに、結構真面目な小説なのよ。異世界転移の話なのにお堅いって、なんか不思議だね。


実際は『いーやー! たーすーけーてー!』って場面も、『乙女は(はかな)げな声で助けを求めた』だもんね。マリーさんに、こんなに盛って大丈夫なのか聞いたら、


「恋愛小説ってそんなもんよ〜。名前も出てこないんだし、多少創作が混ざってもいいの」


ですって。登場人物は『英雄』と『乙女』で通すらしい。ベルノルトさんと違って、私は完全に一般人だしその方がいいかな。


今話題の英雄をモデルにした話だというので、男女問わず評判がいいらしい。一か月が経つ頃には、大人気作になっていた。

私はマリーさんともすっかり仲良くなり、イリスさんと三人で出かける仲になった。


「小説が載る日は新聞の売れゆきもいいんですって。一冊の本にまとめる話も出ているわ」

「マリーさん、凄いですね!」

「何言ってんの。リコちゃん、あなたのおかげよ。お礼に今日のランチは奢るわね」

「マリウス、ありがとー! 持つべきものは人気作家のイトコね」

「イリス、あんたには言ってないけど」

「いいじゃない。紹介料よ」


このふたりの掛け合い、ずっと見ていられるわー。その日はありがたくランチをご馳走になった。


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