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いきなり異世界に飛ばされましたが、私は幸せです~奥手なクマ系騎士隊長の無自覚溺愛生活〜  作者: 麻咲 塔子


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20 意外な討伐方法

蛇が出ます。苦手な方はご注意ください。

翌朝、辺境騎士団と王立騎士団第五隊は森へと向かった。ベルノルトとラルフは辺境騎士団と共に森の中へ、その他の第五隊は森の外で魔物の討伐に当たる。


「くれぐれも無理はするな。怪我のないように気を張って任務に当たれ」

「「「ハイッ!」」」

「イリス、後は頼んだ」

「承知しました」


イリスに森の外に残る隊員のまとめ役を頼み、ベルノルト達は森へと入って行った。森の中は鬱蒼(うっそう)として、朝なのにあまり日も差さず薄暗い。


「この奥に洞窟がある。だが、すぐ近くまでは行けなくてな」


辺境騎士団の団長が困り果てた表情で言う。理由は言われなくともベルノルトにも分かった。


「ああ、ここまで熱気が届いているな。その洞窟から火を吹いているんだな?」

「その通りだ。そのせいで他の魔物も逃げ出しているらしい」


威嚇(いかく)のためか、時折ゴーゴーという音が聞こえてくる。シュランゲが火を吹いている音だろう。洞窟に近付くにつれ、時折顔の皮膚がチリチリと焼けるような熱さを感じるようになっていた。


「こんな大物が出てきたのも数十年ぶりだ。前回はどうやったかなど領地の記録も残っていない」

「だが、このまま放っておくわけにはいかんだろう」

「ああ、森に獲物がいなくなれば確実に人を襲うようになる。どうしたものか……」

「まずはあの洞窟から引き摺り出さないとな。このまま火を吹かれてちゃ倒しようがない」


ベルノルトは顎に手を当てると、考え込んだ。何か頭の隅っこに引っ掛かっている。もう喉元まで出てきているのに――




『うわばみとは大蛇のことですね。日本では、大酒飲みのことを大蛇に例えるんです。古い神話では頭が八つもある悪さをする大蛇に、大好きなお酒をたくさん飲ませて、酔っ払ったところを神様が切り倒すんですよ』




「あぁそうだ! 酒だよ!」

「は? 隊長どうしたんっすか? 昼間っから飲む気すか?」

「違う! 大蛇は酒が好物なんだ!」

「わわわわ!」


ベルノルトは興奮したように、ラルフの肩を掴みガクガクと揺らした。


「バウム隊長、その話は本当か?」

「迷い人の女性から聞いたことがあるんだ。彼女の国の神話によると、悪さをする大蛇を倒すために、ヤツに好物の酒を飲ませて酔っ払ったところを神様が切り倒したそうだ」

「ふむ、やってみる価値はあるな。他に手立てもないことだし」

「アルコール度数が高い酒はあるか」

「そうだな、ウイスキーは五十度くらいあるかな。あとはこの地方のビールに三十度のやつもあるぞ」

「それはいい! 両方飲ませれば悪酔いしそうだな」

「よし、(たる)ごと仕入れさせよう」



団長はすぐに部下へ指示を出した。街の酒屋を回り、なるべく度数の高い酒を樽ごと置いている店から買ってくるようにと。


指示通り辺境の街を駆け回った騎士達は、ウイスキーの樽とビールの樽を荷馬車に積み込み、森へと引き返してきた。



「団長、見つけてきました!」

「良くやった! バウム隊長これでいいか?」

「ああ! さっそくシュランゲの洞窟まで持って行こう」


騎士達は、近付けるギリギリの所まで樽を転がし、立ててフタを外す。



「少し周りにも撒いておこう。洞窟まで匂いが届くように」


酒屋がおまけで付けてくれたビールジョッキで酒を掬い、周りの地面に撒き散らした。酒を掬いながらラルフがブツブツと呟く。


「あーあ、せっかくの酒がもったいないっすね」

「全部終わったら、お前にも飲ませてやるよ」

「隊長、絶対っすよ!」



樽を設置し終えると、少し離れた岩陰に騎士達は隠れた。いつもなら夜の森は危なくて残ったりはしないのだが、今はシュランゲのせいでこの付近だけは魔物が近付かない。森の外に待機していた第五隊も半分をそのまま残し、残りは森に入っていた。どれほどの戦いになるかわからないが、戦力は多いに越したことはない。


「隊長、上手くいきますかね」

「イリス、リコの国の神話では上手くいったんだ。他に手がないなら、これに賭けてみるしかない」



岩陰から洞窟の方をジッと観察していると、やがて先程までの熱気が無くなったことに騎士達は気付いた。


「火を吹かなくなったな」

「ああ、酒の匂いに気付いたのかもしれんな」


団長とベルノルトがそう話していた時、ズルズルと何か引き摺るような音が聞こえてきた。


「動き出したぞ!」


団長が小声で騎士達に注意を促した。皆声を出さずに(うなず)き、いつでも動けるように構えた。

そのとき洞窟からヌッと顔を出したのは、見たことがないほど大きな蛇。真っ黒い体に腹側は毒々しい赤、大きな口からは先の割れた長い舌をチロチロと出している。騎士達の間には緊張が走った。


しばらくは頭を表に出して辺りを探るような様子だったが、ついに体も洞窟から()い出してきた。そのまま迷いなく向かうのは、酒の入った樽の方角だ。


「やっぱり、酒に向かっているぞ」

「まさか、本当に酒が好物なのか?」



半信半疑の作戦ではあったが、もうベルノルトは確信していた。あいつは確実に酒を飲みに出てきたんだと。


間もなくシュランゲは酒の樽へたどり着いた。ふたつの樽を見て交互に匂いを嗅ぐような仕草を見せると、まずはビールの樽に頭を寄せ舌でペロペロと舐め出す。味を見て美味かったのだろう、頭を樽に突っ込みゴクゴクと飲みだした。その度に腹の方へ酒が溜まっていくのが騎士達にも見えた。


酒が腹に溜まっていくのに比例して、樽の底の方にシュランゲの体が入って行った。ピチャピチャと底を舐めるような音がした後、またズルズルと出てきた。どうやら最後まで飲み尽くしたらしい。

少し頭がフラついている様子も見られるが、目は次の樽の方を向いていた。もうひとつの樽の前へ移動すると、今度は味を見ることもなく頭を突っ込んでゴクゴクと飲みだした。


「あれ、五十度もあるウイスキーだぞ。すげぇな」

「ああ、人間がやったらすぐにひっくり返るぞ」


酒を買ってきた騎士達も、アルコール度数が高いことを知っているだけにシュランゲの勢いに驚いている。

シュランゲはウイスキーの樽も底まで舐めると、ゆるゆるとその鎌首をもたげた。


「まだ起きているぞ。酒が足りなかったか――」


そう団長が呟いた時、シュランゲはブワッと一息火を吹くとそのままドサリと崩れ落ちた。


「倒れた。倒れたぞーー!」


騎士達はワーーッと岩陰から飛び出し、拳を振り上げ喜びの声を上げた。若い騎士達がシュランゲに近付く。


「待て! 油断するな!」


ベルノルトがそう叫んだ瞬間、シュランゲがむくりと頭を上げて焦点の合わない目で騎士達を見た。


「うわあ!」


それに驚いた若い騎士のひとりが尻もちをついてしまった。シュランゲの頭は腰が抜けた騎士に狙いを定め、尻尾は周りの騎士に向けて振り回そうとしているのか、ピンと立てている。


「「逃げろ!」」


団長とベルノルトは瞬時に飛び出すと、団長が頭、ベルノルトが尻尾に向かって剣を振り下ろした。


「キェーーーーー!!」


キーンという剣の音と、断末魔の叫びが森に響き渡った。シュランゲの頭と尻尾がゴトリと地面に落ち、シュウシュウと煙を上げて消えていく。


「大丈夫か!」

「だ、団長――」


若い騎士は腰を抜かしたまま、ガクガクと首を縦に振った。


「あれは何だ!」


シュランゲの首があったところには、見たことがないほど大きな魔石が転がっていた。人間の頭ほどの大きさがある。

そしてベルノルトが切った尻尾のあったところには、鈍く光る剣が落ちていた。(つば)の真ん中にはキラキラ光る魔石のようなものが(はま)っていた。


「切った時に何か硬いものに当たったと思ったんだ」

「ああ、まさかこんな物が出てくるとはな」


魔石と剣を回収すると、シュランゲが籠もっていた洞窟に入る。そこには大きな卵の殻が転がっていた。


「こんなところに卵があったのか」

「数十年前にシュランゲが出た時に産んでいたのかもしれないな。それが最近になって孵化(ふか)したんだろう」


魔物の生態は、まだよくわかっていない。騎士達は卵の殻も回収すると、騎士団の本部へと帰還した。


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