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いきなり異世界に飛ばされましたが、私は幸せです~奥手なクマ系騎士隊長の無自覚溺愛生活〜  作者: 麻咲 塔子


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10/32

10 ランチのためなら

「まだランチはやっているか!」


バンッと勢いよく店の扉が開けられた。


「あら、隊長さん。ギリギリセーフだね」

「ハァハァ、隊長速すぎますよ」

「やっと追い付いたっす」


ここは、食堂りんごの花。ランチタイムも終わろうかという時間に飛び込んで来たのは、騎士団第五隊長ベルノルト・バウムと、その部下イリスとラルフである。


「よかった……リコの初出勤なのに間に合わんかと思った。日替わりランチを三人分頼む」

「はいよ。日替わりみっつー」


グレタは奥へ注文を通した。


「それで走ってきたのかい?」

「ええ、早朝から北の町に魔物が出たって討伐要請があったんですよ」

「隊長ってばランチに間に合わせる為に、すんごい勢いで魔物を狩ってたっす」

「あれ、私達は行かなくてもよかったわね」

「ですね。シュトラウス型の魔物が群れで出たんすけど、早く帰りたい隊長がひとりで全部倒したんすよ」


シュトラウスとは、ダチョウのことである。地球のダチョウよりもひと回り大きく獰猛な鳥型の魔物だ。


「まあ! そんなものをひとりでやったのかい!」

「いつもなら、いくつかの班に分かれてみんなでやるんですけどね。今日は隊長がクマのような勢いで突進して行ったんですよ」

「あれは完全にクマっすね。俺らが馬から降りる間もなく、隊長が群れに突っ込んで終わりっす」

「あんな凄いの久しぶりに見ましたよ」


イリスとラルフとグレタおばさんがベルノルトの方を見ると、自分の話をされているにもかかわらず、全く耳に入っていない様子。厨房の方を見てソワソワとしていた。


「よっぽどリコさんのことが心配だったんですね」

「いや、リコさんの料理が食いたかっただけかもしれないっす」

「ふふっ。隊長さんたら、リコちゃんをここに連れてきた時になんて言ってたと思う?」

「「なんですか?」」


イリスとラルフは、グレタの方へ身を乗り出した。グレタは口元に手を当てコソコソと話す。


「『俺のリコを絶対に人前には出さないでくれ! 口説き落とす前に悪い虫がついたら困るんだ』って、懇願してたよ」

「「あー」」

「あの子が働きたいって気持ちは応援したいけど、外に出ていくのが不安だって複雑な顔をしていたよ」

「それで今日も大急ぎで仕事を片付けたんですね」


それを聞いたラルフはこともなげに言う。


「そんなに好きなら、早く自分のものにすりゃあいいのに」

「無理よヘタレだもの」「ありゃヘタレだね」

「なんか、見てる周りの方が焦れったいすね」


「おーい、日替わり三人分できたぞ」


奥の厨房から亭主の声がした。


「はいよ!」


グレタが料理を取りに向かった。


「おまちどうさま。今日のメインはスペアリブを焼いたものだよ。付け合わせはリコちゃん作だ」

「わ、なんか今日のは色合いが鮮やかですね」

「本当っすね。いつもは茶色いのに」

「あの子の国じゃ、料理の色合いもこだわるらしいよ」

「へぇ~」


イリスとラルフは興味深そうに料理を眺め、手を付けた。


「んっ、これただのマッシュポテトじゃないわ」

「それはポテトサラダらしいよ。うちの国のとは一味違うよね」


茹でたじゃがいもを潰し、ゆで玉子と炒めた角切りベーコンを入れ、マヨネーズと黒胡椒を効かせた大人のポテトサラダだ。


「美味しいわ! これだけを山盛り食べたいくらい」

「こっちはブロッコリーっすね。あ、ニンニクが効いてる」


ブロッコリーと切ったソーセージとキノコを、ニンニクとハーブソルトで炒めパンチを効かせた一品だ。シンプルな料理だが、いつもの付け合わせはイモと茹でただけのカリフラワーだったりするので、色味は格段に上がっている。


「美味い! やっぱりリコの料理は最高だ」

「あ、意識が戻ったみたいね」

「注文以来、上の空だったすもんね」


ベルノルトはバクバクと料理を食べ進めている。が、ピタッと一点を見つめ固まった。


「か、かわっ」

「え?」


イリス達がその目線の先を見ると、厨房の入口から黒髪の頭が出ている。


「あれ、隠れてるつもりっすか」

「ああ、隊長さんから表に出ないよう約束させられたって。でもお客の反応が気になるのかね、ああやって隠れてこっそりのぞいているんだよ」

「リコさーん!」


イリスが厨房に向かって呼びかけると、ビクッと頭が揺れた。リコは恐る恐る顔を出すと、パアッと顔をほころばせる。


「今は私達しか客はいないのよ。出てきたらいいじゃない」

「イリスさん! 食べに来てくれたんですね」

「俺もいるっす」

「ラルフさんも、ありがとうございます」

「リコ、俺もいるんだけど」


ベルノルトはイリス達に先を越されたのが面白くないらしく、拗ねている。


「ベルノルトさんも、お仕事お疲れ様です」

「リコ、今日の料理も美味かったよ。仕事はどうだ?」

「はい! メインはヨハンおじさんが作ってくれるので、私は補助的な感じですね」

「いやいや、このポテトサラダはなかなかのものよ。これだけでもテイクアウトしたいわ」

「また〜イリスさんってば褒め過ぎですよ」


リコは手を振りながら照れている。


「リコちゃん、それが本当なんだよ。他のお客さんからも同じ事を言われたからね」

「俺も毎日こんな料理が食いたいっす」

「駄目だ! 俺が食う分が無くなる」


リコは一瞬ポカンとすると、笑い出した。


「アハハ、ベルノルトさんの分はちゃんと家で作りますよ?」

「リコ……くぅっ」


「いやもう、新婚さんでしょ」「新婚さんよね」「はよくっつけ」


三人は後ろを向いて毒づいた。



「リコちゃん、今日のランチタイムはこの三人で終わりだから上がっていいよ」

「はい、ありがとうございます。お疲れさまでしたー」

「お疲れさん。また明日もよろしくね」


リコはエプロンを外すと、カバンを抱えて出てきた。


「皆さんは騎士団の詰所に戻られるんですよね?」

「ああ、お前らは先に行ってていいぞ。俺はリコを家まで送ってから戻る」

「へいへい、じゃあお先に行くっす。リコさんまたね」


ニマニマしながら、イリスとラルフは騎士団の方へ歩いて行った。


「あの、すぐそこですから大丈夫ですよ? ベルノルトさんもお仕事に――」

「いや、送る」


ベルノルトは強引にリコの手を取ると、家に向かって歩き出した。


「どうしたんですか?」

「リコの料理が……」

「ん? 料理?」

「みんなに知られてしまった!」

「え? 私が作ってるなんて誰も知らないですよね? そもそも知り合いなんて、いつも行く八百屋さんとかお肉屋さんとかお店の人くらいですし」

「だが、リコの料理に惚れてちょっかいを出すやつが出てくるかも……」

「大丈夫ですよー! みんな私の事は子供だと思ってるでしょ」

「いや、どう見てもかわいい大人の女性だ」

「か、かわ?」


自分が最初に子供と間違えたことは、無かったことにしたベルノルト。家の前に着くと、向かい合ってリコの肩に手を置いた。いつもはキリッとしている眉毛は、情けないほど下がっている。


「リコ、どこにも行かないでくれ」

「どうしたんですか、今日は寂しがりですね」


リコは背伸びをして、ベルノルトの茶色い髪をよしよしした。いや、おでこにしか届かなかったから、おでこにした。


「夕食を作って待っていますね」

「うん、わかった。すぐに仕事を終わらせて帰るからな!」


よしよしで急に元気を出し、手を振りながら騎士団の詰所へ走って行った。チョロいクマである。


「お店が忙しくなったら、家のご飯が無くなるって心配したのかな?」


相変わらず鈍感なリコであった。


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