まもなく断罪イベントが開始されますがたったいま前世を思い出してしまった大ピンチな悪役令嬢です。
知っているわ、この景色。
とある魔法学園の豪華なホール。
今日の創立パーティーの為に集まった煌びやかな生徒たち。
何度もプレイしたゲームのクライマックス。
一旦セーブして、最後のイベントに臨む…前世の記憶。
私はヒロインで、これから王子様と結ばれる……ん?
深紅の髪に漆黒のドレス…力強そうな顔立ち……
鏡よ鏡…わたくしは…これって…悪役令嬢!!!??
そそそ、そんなどうしてどうして―――!!?
「断罪直前に前世を思い出すのよ~~~~!!!!!」
昭和生まれでブラック企業に働いていた私の癒しはゲームだった。
ここは前世よくプレイしていたファンタジー風の中世が舞台のイケメンとラブラブになるゲーム。魔法学園に通うヒロインの男爵令嬢リエッタは同じく学園に通う伯爵令嬢ジェラルディーナから数々の嫌がらせを受けつつも最後は彼女を断罪しエヴァン王子と結婚…~fin~続きはみんなの心の中で――
心の中でじゃねえ――!!二次創作で完結してねとかじゃねえこれ現実ぞ!!??
思い出したばかりだから前世の記憶と混乱しているけど、そうわたくしジェラルディーナとして生きてきた記憶も戻って来たわ…王家に嫁ぐ運命を誇りに思い努力して生きてきた…うーん優秀だからこそプライドも高かったわね…ちょっと周りにも厳しすぎたかも…仕事は出来るけどパワハラ上司タイプじゃん自分~!!あ~自己嫌悪みんなごめんなさい、これからは変わっていくから……これから…?いや今わたくし大ピンチでは!?
確か断罪は処刑だったはず…!!やばい!やばいですわ!!!
確かにリエッタに色々意地悪しました!!会話を無視したこともあるし、ちょっとぶつかっても謝らなかったし、困っていても助けませんでした!!
だけどそれは…わたくしジェラルディーナという婚約者を差し置いて学園内でイチャイチャしていたエヴァン王子だって悪いし、これ見よがしに見せつけてきたリエッタだって相当性格悪くない??いやこないだまでリエッタ側だったけどあくまでもゲームだったし…それに今日だってエスコート必須な学園内パーティーなのにすっぽかしてリエッタを連れてくるのですわよ!そこでリエッタとの婚約発表とわたくしへの婚約破棄&断罪……
ハッ!ジェラルディーナは真面目だから早めに会場へついていたけどそろそろ彼らがやってくるのでは!?
と、とりあえず会場から出よう!うん、具合悪くなったとか適当いってまずイベント回避!それからのことはあとで考えよう…!!!
慌てて扉を開けて出ていこうとするも、エヴァンとリエッタにばったりと出会ってしまう。
ジェラルディーナの慌てた様子にふたりは少し驚くも気を取りなおし、
「ちょうどよかった、お前に話がある。皆も聞いてくれ!!」
唯一の出口の扉の前で遮られるジェラルディーナ。
彼の取り巻きが多くて扉に近寄れず、会場の生徒たちにも注目されて動けそうにもない。
これがゲームの抑止力っ…!?あ~~~断罪イベント始まっちゃった~~;;
「ジェラルディーナ!お前はリエッタに度重なる嫌がらせをしていたそうだな!皆も見てくれ!この無残に壊された品々を!」
そう言ってとりまきの男たちが壊された文房具や破れた書物、汚されたドレスなどをジェラルディーナの足元へ投げつけた。
「物だけではない。リエッタへの誹謗中傷、はたや階段から落とそうとしたというではないか!そんな冷徹な女だから私の心を繋ぎとめることができないのだ。なのにあろうことかリエッタへ八つ当たりをするとは…恥知らずにもほどがある!」
「エヴァン様そんなに声を荒げないで…わたしが貴方を独り占めにしていたのでジェラルディーナ様もお辛かったんだと思います。ですが私もう耐えられそうになくて…ジェラルディーナ様のお姿を見るだけでも恐ろしくて震えてしまうのです」
その割には血色いいけど…武者震いってやつかな?
なるほどまずはリエッタを苛めている所から入って不敬者と捕らえたあと、国家転覆の罪をなすりつけて処刑するシナリオね。捕らえられなければ回避できる…!
「何のことかわたくしわかりませんわ。証拠でもありますの?」
「お前がやっていたところを見ていたものがいる。リエッタの証言もある!」
エヴァンがそう言うと周りの取り巻きの男たちが一斉に頷き証言を始めた。
「リエッタ嬢の机から文房具を出して手で折っているのを見ました。なんて卑劣な…」
「リエッタ嬢の部屋から慌てて出てくるジェラルディーナとすれ違いました。リエッタ嬢は汚されたドレスの前で泣いていました。お可哀想なリエッタ嬢…なんて悪辣なジェラルディーナ…!」
「ほかにもある!言い逃れは出来んぞ!!」
いやいや、目撃証言だけで罪をきせようとしているの?この王子も取り巻きもバカなの?これじゃ将来こいつらに国を任せたら大変なことになるわね。
そう、これだけで話が通ると思っているのは王子の権力があるから。
どんなことをしても国王のバックアップがある。学園内の皆もそれがわかっているから口答えできない。自分たちの都合の良いように進めていける楽しさに酔っている、最悪な未来の権力者たち。
こういうのには理詰めでいけってじっちゃん…真実はいつも…なんかの漫画で読んだわ!
前世を思い出したわたくしはもうモブじゃない、切り抜けて見せる!
「まず鉛筆ですが、手で折っていたのを見ていたのですよね?わたくしの力で折れるとでも?他の令嬢の方も無理だと思いますけれど」
そっ…それは…あっ手じゃなくて足だったかもしれない!!よく見えなかったと苦しい言い訳をする取り巻きの女。
「それとリエッタ様の寮へわたくしが忍び込んでドレスを汚したと……まず寮は男子禁制ですわよね、入れてもエントランスまでなのにリエッタ様の部屋からわたくしが出てきたのを見ていた?おかしいですわね。そもそも寮へは入ったことがありませんし、入出記録にわたくしの名前はありまして?」
そ、そんなの後からいくらでも改ざんできるし、寮で見たことは間違いない!!と苦し紛れの取り巻きの男。
ここのクエストは主人公のリエッタ側ならどんなデタラメでも通る簡単なクエストだったのよね、そこを逆手に取らせてもらったわ。まさか私が指摘してくるとは思わなかったでしょうね。
回りの学生たちもあきれ顔だ。それはそう、わたくしという婚約者がいながらリエッタと公然と一緒にいるエヴァン。お世辞にも上品といえないような距離感でいるふたりを良く思っていない者は多い。取り巻き達もただ権力にすり寄っているだけのはみ出し者たち。
周りのしらけた視線に気づいたのか、声を荒げて話し始めるエヴァン。
「な、ならお前がやっていないという証拠をみせてみろ!!」
「そうですわ!こんなに酷いことをしていてまだお認めにならないなんて…」
しくしくと泣き出すリエッタをお前のせいだとなじってくるエヴァン。
「証人ならいますわ。わたくしはエヴァン様の婚約者ですから学園内とはいえ一人で行動することは禁じられています。証言だとわたくしがひとりでいたようですけれどそれは無理なのです」
「うっ……ならその証人を呼んでこいっ!」
「呼べませんわ。呼んだところでエヴァン様の一声でうやむやになってしまうでしょう?それは間違いだとあなたがおっしゃればここではそれが正義になってしまう。わたくしは学友をそんなことに巻き込みたくはありません」
「証言できないなら自らが悪いと認めたも同然!私の勝ちだ!!」
あなたとのお付き合いは勝ち負けなのですね…残念です…。
まぁここまで言えればわたくしも少しすっきりしましたし、そろそろ処刑回避に動きますのよ。
「そうですわね…ですのでエヴァン様との婚約は解消いたします」
「な、に…??!」
自分が言おうと思っていたことを先に言われて驚くエヴァン。さっきまで泣いていたリエッタも顔をあげる。
「確かにわたくしは婚約者として惨めな思いをしておりました。その気持ちがリエッタ様に向かなかったかというと嘘になります。
わたくしのそういう気持ちをくんで下さった方が変わりに代弁してくれたのかもしれません…ですがあってはならないことでわたくしの責任です。婚約解消をもってお詫びいたします。エヴァン様、リエッタ様、誠に申し訳ありませんでした。」
深々と頭を下げるジェラルディーナに静まり返る会場。
まさかあのジェラルディーナが謝るとは、そして婚約解消を言い出すとは―…エヴァンとリエッタは急な展開に言葉も出ない。
この二人の婚約は政略結婚で当人が解消できるものではない。ただ国の未来を担うであろう身分の生徒たちの前での証言は覆せるほど軽いものでもない。辺りの重い沈黙がジェラルディーナの決意を受け止めていた。
静まり返った会場に笑いが響く。
「あ、あはは!あっはっは!そうか!では皆の証人の元、ここにジェラルディーナとの婚約を解消すると宣言しよう!そして新たな真の婚約者はこのリエッタだ!!本物の愛を私は手に入れた!!」
取り巻き達がわぁっと歓声をあげる。
愛してるよと周りをはばからず口づけを交わすエヴァンとリエッタにパラパラと申し訳程度の拍手が会場に鳴った。
「おめでとうございます」
ジェラルディーナも表情を変えず祝いの言葉を述べた。
「うん!今回はそちらの不手際による婚約の解消であるし、こちらは違約金は支払わなくてもいいな、むしろ慰謝料をもらいたいものだがまぁ今までのよしみで免除してやろう。私から父上には話しておく、感謝するように」
本来は自分から言うつもりだったので違約金を支払わねばならなくなると思っていたのだろう。あからさまにホッとしているようだった。新たに婚約も発表できて嬉しそうなエヴァン。
ああやっと茶番が終わる…引き際ですわ。
「ええ、ありがとうございます。…それではわたくしはこれで。皆さまもお騒がせしてしまい申し訳ありませんでした。どうぞ引き続きパーティーをお楽しみくださいませ」
エヴァンとリエッタ、会場の者たちへ美しいカーテシーを披露し、するりと流れるように会場から立ち去るジェラルディーナ。
……っっっっっっっしゃあああああああああ処刑回避できた!!!!!!!
できたーーーーーーー!!!!!!!!!!とりあえず死なない!!
フラグ折ったー!!!うわー自由を感じる!!!!!
はちきれんばかりの気持ちが表情に出そうになるのを我慢しつつ会場の外へ出ようとしたその時、
「いえ、まだよ!!!散々いじめておいてこれで終わりだなんて許せない!
あなたはここで断罪される運命と決まっているのよ!」
リエッタの声が響きジェラルディーナは足を止める。
――リエッタ…まさかあなたも…
さっきまでのか弱さそうな表情はなく、鋭く強くジェラルディーナを睨みつけるリエッタ。
「今はもう私がエヴァン様の婚約者ならジェラルディーナ様より偉いってことよね…なら私がジェラルディーナ様の処分を決めてもいいってことよね?」
「あ…ま、まぁそういうことになる、かな…?」
今まで見たことないリエッタの迫力に押され気味なエヴァン。
このままでは捕らえられて処刑の流れへ動いてしまう…なんとかリエッタの気持ちをおさめる方法は…学友でどなたか味方になってもらえるような人は…いえエヴァンの権力に盾突くのは愚かだわ誰にも頼れない…
大勢の中の孤独。
…………昔もこんなことがあったような気はする…
前世の、中学生の時。
うまくグループに入れなく、ひとり孤立してしまった。
自分から進んで友達を作れるほどまだ器用でもなく、思春期特有の排他的な態度で反感を買い、いじめなどはなかったが味方もいなかった。
親に相談して過剰に反応されるのも嫌で、近所に住むおばあちゃんのところへ行きそれとなく話した。
「学校行きたくないなー…友達いないんだもん…」
おばあちゃんは、そうかいと静かにつぶやいたあと、膝で寝ている猫をなでながらこう言った。
「猫は狭いところに沢山いるとしょっちゅう喧嘩するの。でもひろい場所へいくとそんなことなくなる。お互い優しく付き合えるようになるのよ。人間も同じ。学校はどうしても狭いからね、今は我慢せなだけど広い世界に行ったら今の悩みなんてなくなるよ。大丈夫、物事はよくなるからね」
そういって私も優しく撫でてくれたおばあちゃん。
おばあちゃんの言った通り高校生になったら世界もがらりと変わって広くなり、少ないが友達もできて中学生の時のような思いはあまりしなくなった。
ほんの少しだけ移動したり時間が過ぎれば見える世界って変わるんだなってわかった。
社会に出て辛いことがあっても別に道はあるとわかっていたから頑張れた。
ジェラルディーナは幼いころ王子との婚約が決まってからずっと妃教育に励み、婚約者としての相応しいよう必死に勉強しこの地位に誇りをかけて生きてきた。
ただたまに、本当にこれが自分が求めていることなのかと疑問に思うこともあった。
この生き方が正しい道だとわかっている、だが…。
思い出してもいない前世の生き方が影響していたのだろうか。
遠い空を飛ぶ鳥をみてはもどかしい寂しさが募っていくがどうすればいいかわからなかった。
でも今なら…?
わたくしは別の道を選ぶ事が出来るということを学んでいる。
この美しくて狭いシナリオから離れてみようか――今のわたくしなら、大丈夫。
「エヴァン様に代わって私が言うわ!ジェラルディーナ様、不敬罪により身柄を捕らえ――」
「わたくし、廃嫡し身分を捨てますわ」
リエッタの言葉を遮るように、ジェラルディーナは宣言した。
その内容に騒然となる貴族たち。
貴族は特権階級。平民のように泥臭く働かなくてもよく、清潔と豊かさを思うままに享受できる身分である。それを伯爵令嬢自ら捨てるというのだ。あの汚く卑しい身分へ下ると。
身分社会で成り立っているこの世界で貴族と平民の隔たりは大きい。
まぁ皆さまは驚きますよね。でも田舎で育った昭和生まれの記憶があるわたくしはある程度の野良仕事は大丈夫ですのよ…多分だけど。
ブラック会社に勤めていた根性がここで生きるなんて、何も無駄なことなんてないのかもね。
むしろ窮屈な貴族社会よりも前世を思い出した今では平民の暮らしの方があっているような気がすると思った。
婚約者としての生き方はもう十分やったし、ここでまたエヴァンやリエッタ、貴族同士のごたごたに気を使って生きていくよりもっと違う世界をみてみたいと。
婚約破棄をして自由になれた、自由だと思ってしまったことがジェラルディーナの決意に拍車をかけた。
「そ、そこまでしなくとも…なぁ?リエッタ?しばらく謹慎とかでいいんじゃないか?」
事の重大さに憐れんでくるエヴァン。周りの生徒たちもあまりの展開に騒然としている。
これでなんとかリエッタが収まってくれれば―
リエッタの方を見る。
彼女は小さく何かをつぶやいた後ジェラルディーナに静かに近づき、ふたりにしか聞こえないように囁いた。
「そうまでして罪を免れたいのですか?貴族としての誇りはないのですか?」
「ええ、まだまだ色んなことを楽しみたいの。せっかくこの世界に来たのにもったいないじゃない?」
不敵に笑うジェラルディーナ。
その笑みに少し怯えたような表情をみせたリエッタだったがすぐにジェラルディーナを睨みつけ、
「貴方がいるシナリオは私にはバッドエンドになる可能性が高いのよ…!悪いけどここでいなくなってもらうわ!!」
そう言い放ちエヴァンのもとに駆け寄って指示を出そうとするリエッタ。
あぁ…やはりリエッタも転生者だった。であれば処刑の回避は厳しいだろう。
直前すぎる前世の思い出しだったがやれることはやった、逆に言えばもう打つ手はない
ダメだった――――――
処刑という現実が迫り、いつのまにか握りしめていた拳に汗が滲んできた。
目の前が暗くなっていく。
だめ、ジェラルディーナは最期までしゃんとしていないと…!
震える身体を必死に抑え、まっすぐ立とうと力をいれなおした時、
「ジェラルディーナ様が何をしたというのです!」
周りの学生から声があがった。驚いて顔をあげるジェラルディーナ。
「婚約者をないがしろにしていたのはそのふたりじゃないか!」
「罪でもないようなことでここまで責めるなんて何を考えているの?!」
「不敬なのはそいつらだ!」「そうだ!!」
最初の声をきっかけに一斉にエヴァンとリエッタは非難を浴びる。
急な歓声に驚いているといつも一緒にいた学友たちが近寄って来る。
「ジェラルディーナ様…お助けできず申し訳ありません…」
「私たちを証人にせずかばって下さったのに…何もできず…」
「悔しいです…ジェラルディーナ様は悪くないです…!」
思ってもなかった応援に、体の力が抜けて座り込むジェラルディーナ。
ワガママで気が強いと評判のジェラルディーナだったが、不義を重ねるエヴァンへの芯の通った態度を見ていた生徒たちは一目置いて尊敬していたのだ。
口々に名前を呼び駆け寄る生徒たちに囲まれ、こらえていた涙がはらはらと零れ落ちた。
「わたくしはひとりではなかったのですね……」
「うるさいっ!なんだお前たち、私を誰だと思っているんだ?!私は王族だぞ!!」
「そうよ!あんたたちなんてエヴァン様の命令でなんとでも出来るのよ!わきまえなさい!!」
けたたましい騒ぎの中、教員だろうかひとりの男がエヴァンのもとに歩み寄っていった。
「エヴァン…今日は大事な発表があるからってお忍びで来たのにこれはどういうことだ?」
「叔父さん…!これは…その…」
歩み寄ってきた教員風の男はエヴァンの叔父のライアーだった。
「は~不出来なお前が珍しく嬉しそうに言ってくるから俺も期待していたんだけど…だめすぎるよ…せっかく兄上も呼んでおいたのに…ねぇ」
「兄うえ……ってまさか!!!」
ライアーの目線の先に、また同じような教員のようないでたちの…エヴァンの父親、国王ノーザンが険しい顔をして立っていた。
まさか国王までいるとはつゆ知らず、学生たちは慌てて膝をついて忠誠を示す。
しん…となった会場に、跪いたジェラルディーナ、動揺して立ち尽くすエヴァンとその腕をぎゅっとにぎり真っ青になっているリエッタ。
ノーザンが重い足音を響かせながらゆっくりと三人の傍へ歩み寄り、深い溜息をついてから話し始めた。
「お前が大事な話を行うようだと聞いていたが…酷いものだ。大勢の前で自分の婚約者を糾弾し悦に浸るなどなんとおぞましい…」
「いやこれはこの女がリエッタに…!!!」
「黙れ!潔白は彼女自身が示していたではないか!お前の醜聞にはほとほと呆れた。リエッタとかいったか?その女性と一緒に城から出ていけ、お前は王家にふさわしくない。これからは平民として暮らすがよい。」
「え………!!!??………な…そ……ち、父う…」
「ひとりの人間をここまで蔑んでまで選んだ道だ、相当の覚悟はあるのであろう?」
冷たいノーザンの言葉には一切の隙もない。こうなったらもう撤回は難しいのであろう、エヴァンは決定してしまった通告にへなへなと力なく膝から座り込んでしまった。
「うそよ冗談じゃない…私はヒロインなのに…なんでこんな人と平民にならないといけないの…絶対に嫌…」
座り込んだエヴァンを見ようともせず、ショックのあまり遠くを見つめながら独り言のようにぶつぶつ呟くリエッタ。
「り、リエッタ!!???そんな!俺たちはずっと一緒だと何度も誓ったじゃないかっ」
「王族じゃなくなったあんたに何の価値があるというの??!自分勝手で頭も悪くて、特技もないくせにプライド高いナルシスト!最低な男よ!」
「り…りえったああああああ~~~~」
「おやおや…真の愛とやらはずいぶんと薄情なもので…」
ライアーは甥っ子たちの姿に呆れつつ、ジェラルディーナの傍へそっと近づき目線を合わした。
「まさかこんなことになるなんて…出ていくタイミングを見計らって遅くなってしまった。こんな目にあわせて申し訳ない」
「お、お顔をおあげくださいライアー様っ…!あなた様が謝ることで…は…ひっ…!」
ふと隣をみると同じように頭をさげるノーザンの姿があった。
慌てふためくジェラルディーナをそっと優しく立たせるライアー。
「ジェラルディーナ、息子の不貞を許してほしい。末の息子ということで散々甘やかしてしまったようだ…私の責任だ。」
ノーザンは拳を強く握りしめ、険しい表情で謝罪を述べる。王としても親としても断罪せざるをえなかった辛さが見える。
「いいえ…いいえ…わたくしも彼らの振る舞いを止めることが出来ませんでした…本来なら、将来夫婦となる身ならもっと歩み寄って話をするべきでしたのに…」
「君は何も罰を受けることはないよ、流れるだろう噂だって君の味方が多いだろうし、堂々としていればいい。な?兄上?」
「うむ。私が貴方の不利にならないよう目を光らせるから安心してほしい。もちろんもっと良い縁も繋ぐと約束しよう」
優しく慰められるジェラルディーナ。
しかし彼女の心はもう決まっていた。
「ご厚意ありがとうございます。…でも皆の前で宣言したことを撤回するのは貴族として義に反しますわ。わたくしにも責任を取らせてください。」
ジェラルディーナの申し出に驚くノーザン。
ライアーはそんな様子に笑いだし、
「君はなかなか骨のある人のようだ!ならさ、折り入ってご相談なんだけど…」
ライアーはジェラルディーナにとある提案をしてきた。
あれから―
エヴァンとリエッタは遠い村へ追放された。大変らしいけどなんだかんだ楽しく(?)平民生活をやってるらしい。
エヴァンはすっかりリエッタの尻に敷かれているらしいがまんざらでもなく、リエッタもなんだかんだ一緒にいてくれるエヴァンを頼りにしているらしい。
エヴァンも権威があったから駄目な方向へいってしまっただけだったのかな、今はもう知るすべもないけれど、ふたりが元気ならそれでいい。
わたくしはと言うと―…
「やあジェラルディーナ、君の案はいつも斬新で驚いてるよ。この休暇制度は素晴らしいね、年間休日120日!兵士たちの士気も上がっている。女性を多く雇用する案も素晴らしい。新しい風が国を活気づかせているよ」
報告書を見て喜ぶライアーに微笑むジェラルディーナ。
ジェラルディーナはライアーの元で働くことになった。廃嫡は認められなかったが、その代わりに王直属の臣下として迎え入れられたのだ。
『君はなかなか面白い方だとお見受けする。それなら私のところで働いてみないかい?ちょうど君のような新しい考え方の人が欲しかったんだ』
ライアーは国の中枢で働いていて、国で働く者や国民に対する取り決めなどを管轄していた。
国 家 公 務 員 !!!
ブラック企業につとめていた自分が!?二つ返事で快諾した。
前世の働き方改革を思い出し、ブラック職場を駆逐するべく今は毎日奔走している。大変だがやりがいがありとても充実している。
「ええ、皆が働きやすい場所になれば、国はもっと豊かになるでしょう。」
にっこりと笑うジェラルディーナ。
ライアーは自立した美しいその姿にすっかり惚れこんでいる。
「ジェラルディーナ。今度ディナーを一緒にどうかな?うちのシェフが腕によりをかけてご馳走を用意するよ」
「あら嬉しいわ。あっなら城下のお店はどうかしら?街の雰囲気やどんな食材を使ってるか、客層なんかから色々わかるもの。ひとりではまだ行けなくて…一緒に行きません…?」
お願いポーズをされては提案を断れるはずもなく。
「ふふわかったよ。なら色んな所にお忍びで行ってみようか!」
「ありがとう!!楽しみだわ!」
嬉しそうに笑うジェラルディーナ。
処刑回避したあとのエンディングはどうなるかわからなかったけどきっと大丈夫、何かあったら見方を変えて、うまく避けて時間をかけて、この世界をわたくしは生きていく。
続きはみんなの心の中で…、わたくしは今ここで、続きを作っている――――…