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口先の勇者  作者: 漆黒のマーブル
3/12

序章への道のり

 サバイバルの基本その一!

 未知なる果実にキスマークを付ける前にまずは簡単な検査をしよう!

 この世には食べられるものと食べられないものが存在する。

 毒というと大袈裟に聞こえるかもしれないが、なにも必ず死へと繋がるものばかりではない。体の何処か痒くて腫れる、などいう軽い異常状態をさせるものも毒だと言える。

 けど普通は放っておけば回復する小さな毒でも、過度な摂取や悪い処理をすれば死に至ることもある。

 だからなにも知らず能天気に色んなものを口の中に放り込むと痛い目に遭うぞ★! 俺のように...

 では一体どうやってそれらを見分けるか、簡単な検証方法としては対象となるものを皮膚に当て、しばらく時間を置くとその当てた箇所が痒くなったり腫れたり、はたまた他に気分を悪くさせる現象が現れたらそれは人体にとって有害のものだと推測することが出来る。

 もちろん100%の精度じゃないけど、それでもその中途半端な知識を頼りに俺は当面の安全を確保することが出来て、今日まで生き延びることが出来た。

 とはいえ毎回毎回テストなんて面倒なことはしない。次に同じものと遭遇する時、すぐにでも食べられないものだと分別できるよう、例え食べられないものでもそれに照らし合わせることが出来るよう、食品サンプルとして必ず一個だけ手元に残すことをおすすめする。

 それと変なテンションになって手で果実を握りつぶす、なんて中二病患者のような検証方法もお勧めしない。もし外れを引いたとき『手が、うずいている...』と、実際に本当まじで大変なことになるから...

 サバイバルの基本その二!

 持てるすべてのものを使う!

 サバイバルは持ってる所持品によって難易度が大きく変わる。

 例えばロープを持ってれば崖など危険な場所で命綱として使うことができる。火打石があれば簡単に火を起こせて、水や生ものを消毒することができる。

 もちろんそんな便利なアイテムを都合よく持ってる可能性は少ない。しかし当時の装備を使えば、ある程度代用と変換することが出来る。

 俺が今付けてる下着であるインナーの口をむりやり縛って、果物などの食べ物をストック出来る袋に変換するとか。同様にズボンを魚を捕る網にし、靴を使って水を貯めるボトルにするとか。

 とはいえリスクがないわけじゃない。

 作ったのはいいけど使い勝手が悪かったりすることがあるし、元の素材となるものが使えなくなり、その機能が落ちる恐れがある。それにー

 今の俺のような下着だけの変質者になるかもしれない。

 それほどまでに犠牲になるものは計り知れない...!

 まあ俺が変態になったのかどうかはさておき! サバイバルの基本その三!

 休憩出来る時は廃人になる勢いでぐうだらしよう!

 サバイバルとは生き延びることだけを目的とするものではない。その状況、環境から抜け出すために行うものだ。故に生命維持と探索を平行にしなければならない。

 それは長く続くことになるかもしれないし、案外あっという間に抜け出せるかもしれない。けど最悪の場合のことを想定すればきちんとした休憩はとても大事だ。

 人は疲れる時なにをしても集中力が下がる。いつ何起こるかわからない森の中で注意力が切れるとうっかり道を踏み外し、命を落とすなんてこともありえる。なにより助けてくれそうな人を見逃す可能性が上がる以上、疲れは出来る限り取った方がいいだろう。

 しかし雨風を凌げる洞窟のようなちゃんとした場所はとても貴重でレア。多くの場合は寒くて心地の悪い、全く疲労が取れない野宿を強いられることになる。

 長い間そんな状態に居続けるとどうしても悪影響が出る。だからちゃんと休める場所を見つけたらー

 って違う!

 ここはわくわくと胸を踊らせる冒険が待ってる異世界のはずだろ! なんでこんなサバイバルじみなことをしなければならないの! ゲーム変わってない?!

 そう、あの人狼と一戦を交えた後、異世界に召喚されたと自覚した俺はまずはRPGの序盤である人間の居る街、もとい冒険者ギルトを目指すことにした。

 もちろん常に冷静かつ聡明であるこの俺が闇雲に探すなんて手間のかかることはしない。人狼との出会いで得られた僅かの情報を頼りに俺はまず今一度目的地へとたどり着けそうな方向、その候補を絞り出すことにした。

 人狼が出現した場所。俺を目撃した時の態度。逃げた時の方角。それらすべてを考慮し、最も人類がいる可能性の高い方角を割り出す。

 そしてその推測を元に俺は今日まで『旅』をし続けた。

 「なぜこうなった...」

 あれからどれくらいの時間が過ぎだのだろう。それすらも分からなくなるくらい俺はただひたすら前へ前へと歩みつづけた。

 もう結構な距離を歩いたはずなのに、国どころか村らしい所すら一切見受けられない。

 加えてスライムのようなファンタジーらしい生き物もイベントらしい出来事も初日を除いてなにもない。逆にサバイバルスキルばかりがレベルアップする一方だからテンションが下がる...

 とはいえその道のりは決して無駄じゃない。淡々と繰り返すだけの日々の中、俺はこの世界についていくつも気づいたことがある。

 まず一つ目は時間の概念だ。

 どうやらここでの一日は俺が認識している一日とは違うみたい。

 スマホや腕時計がないから正確ではないが、俺の体感的7‐10時間ほどで朝と夜が入れ替わっていて、俺のいた世界の2/3が一日ということになる。

 それになんというか、ここの太陽は小さいせいなのか、まぶしくて灼熱な昼時は存在しない。あるのは暖かくて優しく大地を照らす朝のような時間だけだった。

 深夜の方も何も見えないくらい真っ暗な時間はなく、凍えるほど寒くなることもない。だから夜に野宿をしても平気だ。まあこの星のこの側限定なだけかもしれないけど...

 とにかくそういうことだからおそらくこの星は俺の住んでる地球より実に住みやすく、そして小さいことだろう。

 それともう一つ。

 意外なことにこの世界には獣人の他にも動物が存在した。

 一体なにを基準にただの獣と獣人を振り分けるのかと、注意深くそれらを観察してみるとするとただの動物である鳥、羊や鹿などは俺が元に居た地球でも比較的に柔和なものばかりで、虎や獅子などいう凶暴そうな動物は、あの人の姿をした人狼以外は一切見受けられない。

 おそらくそれが獣人と獣を分別する基準となるだろう。

 まあこんな情報を得たところでいつなんの役に立つのかは分からないけど、一応心に留めておこう。

 しかしどうしよう、攻略サイトを見ずに自力でなんとかしようとしたけどイベントへの進み方が全く分からない...

 全くスタート地点ひどすぎだろう! こんなわけのわからないところに召喚するならせめてかわいいナビの一つくらいはつけてほしかった! と、やけになりそうなところでふと、俺はとある重要なことを思い出した。

 そうだ! 最初から急展開の連続ですっかり忘れてたけど、異世界ものといえば魔法だよな!

 魔法とは己の体に秘められた魔力によって生成するもの。あるいは妖精の力を借りて生み出すもの。という説がある。

 実際はどうなるかは分からないけど、もし前者が俺自身に当てはまる場合、リアルに考えるとそもそも魔力というものは地方によって効力が顕現し、消失することはないはずだ。仮にさっきの翻訳みたいな特典を付けられたとしても、本来いないものが急に体に加えたんだ、違和感の一つくらい感じるだろう。それかなにもないということはおそらくその設定は開発者によって没にされた。

 となると仮に俺が魔法を使えるとしたらそれは後者を用いた場合ー呪文を唱えることで周りに存在する精霊達に力を借り、不思議な現象を引き起こす。そっちの方がまだ現実味がある。

 もしそれが本当だとしたら、精霊が好きそうなこのエリアならきっと彼らの力が借りやすい。つまり誰でも簡単に魔法が使えるということになる。

 別に強力な魔法が使えなくてもいい。地味で、生活のためのしょぼいもので構わない。俺はただ誰しも一度は憧れを持つ魔法というものに触れてみたいだけなんだ!

 ということで序盤から詰んだこの状況を打破するヒントと、いざという時の護身の意味も込めて俺はさっそく魔法が使えるかどうかを試すことにした。

 けどいざテストをはじめると興奮したせいか、俺は緊張のあまり手が震えた。だから一旦ゆっくりと一つ深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。

 それが終わると俺は無理やり切り気持ちを替わって、さっと手を前にかざしてからもう一度大きく息を吸う。

 そして遥か昔、まだ俺が現実というやつを知らなかった頃で作り上げた魔法の呪文を口にした。

 「世界を色づかせる四季を司る者よ。不変で不出来なこの理不尽な世界に、ささやかな抵抗を。水柱!」

 や、やばい! くそ恥ずかしい! 黒歴史とも言えるその呪文をあえて気にしないように心を落ち着かせたのに全く効果がない! 自分でもなに言ってんだこいつ? としか思わない。

 もしそれが成功し、なにかが出てきたのならそこそこかっこいいと思うけど、なにも起きないし! まあ、あの人狼がトラップという言葉にひっかかった時点でおおよその予想はついたけどな...全くあたりに誰もいないと知りながら穴があれば入りたい気分だぜ!

 そう、俺の口から出た言葉は、俺の意に反して勝手に具現し、ブーメランという形を取って顕現した。

 しかも勝手にあたりに向けて飛び出して、途中で引き返して遠慮なく主である俺の心を抉り、『トラウマ』というダメージを与えた。

 ハートブレイク。

 致命傷を受けた俺は強制的に見たくない過去を見ることになり、おお! と呻きながら頭を抱えてのたうち回るはめになる。

 幸いその傷は何年も前に既に経験した痛みで、俺の中には少しながら耐性がついている。だからある程度まで回復し、立ち直るまではそんなに時間をかからなかった。

 全く『敵』ではない、むしろ『味方』であるはずの俺にそこまでのダメージを負わせることが出来るなんで...流石言葉だ。

 しかし魔法のことを見落としたから苦労して、こんな状況になると思ったけどどうやらそれは俺の勘違いのようだな。

 これでまた振り出しに戻った。となると一体どうすればストーリーを進むことが出来るのだろう。

 そんなことを考えると思わずため息が付き、答えが出ないままやはり地道に足を動かし続けるしかなかった。 


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