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寝る子は起こすな 寝る子は育つ  作者: 技兎
一年目
9/18

おはようございます


 仕事が忙しかった。

 そんな言い訳をするつもりはない。


 万全の準備を整えていた。

 そんな言い訳をするつもりはない。


 出雲は何とかすると口にした。

 検討を重ねるという政治家としての言葉ではなく、親友として尽力するという意味で口調を崩した。


 だが結局の所は怖気付いていたのかもしれない。

 頼れるのは自分と旧友とAI。

 たった三人だけで世界を揺るがす奇病に立ち向かう。漫画の世界でしか許されない少数精鋭の愚行。


「三寸木!」


「……やあ出雲、遅かったじゃないか。こっちは文字通り寝る間も惜しんで準備してたんだぞ??」


 三寸木は夢の鍵の横で座り込んでいる。

 手を振ってはいるが起き上がる様子はない。

 起き上がれない程に衰弱しきっている。


 親友の容態も心配だった。

 だがそれ以上に目を見開いたのは、夢の鍵の上で眠る少女。会ったことはないが、一目でその子供が誰の子か分かった。


「……娘か」


「そうだ! お前に紹介しないとな。【三寸木(ミスギ) (マコト)】、俺の自慢の娘だ。惚れてもいいぞ、惚れたら殺すけどな」


 子供特有の愛くるしさ。

 出雲には全く似ていない。

 母親似なのだろうと結論を出す。


「自分の娘を実験台に使うのか……!」


「実験台なんて、失礼な事を言うなお前は。安全性は確保されているのは体感済みだろう?? それにあの後も臨床実験は続けていたさ。それよりどうだ、録画した作品(ゆめ)でも観ないか。半分は無声映画だけど」


「……っ!」


 我が子を実験台にするとは何事だ。

 そう言葉を発するより先に思考してしまう。

 他に誰がいるのか。


 (つの)れば希望者は出てくるだろう。

 だが注目を浴びればリスクが高まる。

 夢幻病の治療法と(のたま)う人間は初期の頃にはいた。だがその後に待ち受けていたネット民の特定と過激派の暴力沙汰が取り沙汰されてから誰もしなくなった。


 それだけではない。

 仮に本物だとすれば国単位の危険性が付き纏う。

 非常事態であろうと国は国、政治は政治。

 治療法が見つかれば価値が生まれる。情報開示をするか否か、治療に必要な材料費、治療の順番。全てに価値を投影すれば億を超えた兆の価値が発生する。


 『夢幻病発病者』 『情報封鎖』

 この二つを満たせる子供は一人しかいない。


「一旦待つんだ。こんな突然にやっていい事じゃない。もっと日時を決めて。それに三寸木、お前もやつれてるじゃないか」


「待つ? 一体いつまで待てばいいんだ? いやどれだけ待ちぼうけを喰らえばいいんだ?? 俺達は十分に待った。これ以上は我慢の限界だ。目の前に娘を助けられる術があるのに、何を待つ必要がある」


「準備不全だと言っているんだ。とにかく今日は中止してっ」


「中止?! 馬鹿を言うんじゃない!!」


 三寸木は立ち上がろうとする。

 だが周りには支えがない。

 夢の鍵を支えとしては使いたくなかった。

 結果立ち上がろうとはしたが前に顔面から倒れ込み、出雲のズボンの(すそ)を掴んだ。


「お前は娘が(まぬが)れたからそんな事が言えるんだ! だったら何か、お前の子供が孫を産んで、その子供が夢幻病に罹っていなければ踏ん切れないのか!!?!」


「落ち着け! 落ち着け三寸木!!」


 睡眠不足からくる苛立ち。

 掴んでいた裾を離して足首を爪を立てて握る。


「頼むと出雲ぉ、お前らしくないぞ??? いつものお前なら、馬鹿やって馬鹿する馬鹿(うましか)なのにヨォ! 何でそんな堅苦しい岩石になっちまったんだあぁぁあ」


「(駄目だ、完全に錯乱している!) 雪解ボタン! 俺を眠らせた時みたいに、三寸木を!! ……雪解? 雪解!!?」


 応答がない。

 管理者(マスター)ではないから命令を聞かないのか。

 そう納得しても不自然ではなかった。

 だが今までの数少ない会話と彼女から掛かってきた電話が、その考えを否定した。


「ああぁぁぁ?? ああ! 何で君がこのタイミングでここに来たのかと思えば、雪解が連絡をしたのか。彼女もあれからだいぶ学習を重ねたから、マスターである私の意見なしに行動するようになったか。コレはまた成功確率が上がった!」


「成功確率? ……まさか!」


「何だ気付いてなかったのか? もう夢の鍵は作動している。雪解ボタンは私の愛娘の真を救う為に単身夢幻病に挑みに行っている最中さ!!」


 100円ショップのキッチンタイマー。

 夢の鍵の機材横に貼り付けられていたそれが、けたたましい音を立てて時限を知らせる。


「おおもうそんな時間か!」


「一体何の時間を決めていた!?」


 出雲の言葉を無視して夢の鍵の元まで這い寄る。

 立ち上がらず、器材の下にあるパネルを駆使してサルベージを開始する。


「出雲、お前は勘違いしている。何も一発土壇場勝負を仕掛けようとは流石に考えちゃいない。何回か夢をサルベージした後、真の救出作業をするんだぁッハー! ただそれが今日一日で丸々やるってだけでな!!」


「(今止めても意味がない。一旦、雪解が戻ってから……)」






『ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ』『不生不滅不垢不浄不増不減是故空中無色無受想行識無眼耳鼻舌身意無色声香味触法無眼界乃至無意識界無無明亦無無明尽乃至無老死亦無老死尽無苦集滅道無智亦無得以無所得故菩提薩埵依般若波羅蜜多故心無罣礙無罣礙故無有恐怖遠離一切顛倒夢想究竟涅槃三世諸仏依般若波羅蜜多故』『AHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHA』





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