出雲黒兎の夢
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中学時代に通っていた母校。
そこの保健室に出雲黒兎はいる。
懐かしい。何もかもが昔のままだ。
保健室の先生には世話になった。
仮病という甘い蜜を覚えてからというもの、どうやって彼女を騙して早退するかばかり授業中に考えていた。
『出雲君、貴方はどうしたいの?』
今にして思えば、彼女にはわかっていたんだろう。
だけれど彼女は授業を教える教員ではない。それに本当かもしれないという恐れもあった。だからいつもチャイムが鳴る寸前に同じ台詞を投げかけてくるんだろう。
早退したいかどうかを自分の口から言わせようとする。
最終決定を本人に委ねている。
保健室の先生のほうれい線。
あの頃のままで変わりない。
ご高齢で長く勤めているんだろうな。だから捌き方も上手い。熱心に一個人の生徒の今後を心配するなんて、ドラマ以外では有り得ない。
「ここは夢の世界。現実を模したリアルな夢を貴方は今観ている」
彼女は……誰だったか。
学校指定の制服を着ているが、あんなに白くて長い髪の女性は見た事がない。三寸木が読んでいた漫画に出ていたキャラクターだろうか。
「夢の世界では全ての意味不明な出来事、突発的な出来事を全て許容できます。中学時代の保健室に二次元のキャラクターである私【雪解 ボタン】がいても、貴方は何も思わない」
彼女が何を言っているのか分かるか?
『分からない。それより右手と富士山を入れ替えてみたんだがどうだろう。世界の政治風景が変わって、近所の駄菓子屋さんメタルロックな感じに生まれ変わったか?』
三寸木は俺の親友だ。
いつも楽しい空想を話してくれる。
今日も保健室の先生を騙せた。
先に早退していた三寸木と一緒に帰り道を歩く。途中の公園の茂みに隠した私服に着替え、街に出かける。厚底の靴で身長をカサ増しして堂々としていれば、誰も自分達を中学生とは思わない。
俺達は昨日借りてきた新作映画を家で観る。
「保健室から公園に移動。街に出掛けると思考しながら、家の中で寛ぎ、出雲黒兎が中学時代には上映されていなかったアメコミ映画を観ている」
あの頃は楽しかった。
何も考えず敷かれた学生時代をただ突き進むだけでよかった。真面目に授業を受ければ楽しかったのかな。国語や社会の授業が大人になってから、何故だか無性に愛おしい。
『三寸木、お前もそうなのか?』
『変な駆け引きはナシだ。俺は我が子に目覚めてほしい。その結果ついでに世界中の子供も救ってやる。その為にお前の、政府の力を貸してほしい』
『本来であればこんな話、門前で突き返される案件だ。自称科学者、自称救世主、自称自称自称。何でお前だけは私自らが来たか分かっているか?!』
「場面はマスター三寸木の所有する秘密地下室。寸前まで見ていた記憶を再現している模様」
『唯一無二の親友だからか?』
『ああそうだ! こんな出鱈目な奇病に立ち向かえるのは俺達くらいだからな。前々から夢幻病がウイルスではなく、何らかの精神的な、何かそういう奴なんじゃないかって思ってたんだよ』
「完全再現ではなく、出雲黒兎の本音を話していたIFの世界を再現している模様。今後の案件に関わる重大発言であると判断」
『真っ先にお前の顔が浮かんだよ。お前、昔から夢の研究者になるんだって張り切ってたからな。そしてお前は夢を叶え、夢を作ろうとしている。三寸木、お前ならこの奇病、夢幻病を打ち破れるんじゃないか?』
「……了解、出雲黒兎を次の段階に進めます。出雲黒兎、出雲黒兎聴こえていますか」
保健室で会った彼女だ。
一体どの漫画から出てきたキャラクターなんだ。
三寸木の読んでいた漫画を、実際に読んでいたわけではない。勧められてたまに読むくらいだった。
「再び保健室にバック。出雲黒兎、ここがどこかわかりますか』
ここは保健室だ。
何故分かりきったことを質問するのか。
ああそうか。彼女は漫画のキャラクターだから、俺の母校の事を知らなくてもしょうがないか。流石の三寸木も学校に漫画を持ってきてはいなかったから。
「保健室。ではあの窓から先には何が有りますか」
窓の外にはグラウンドが広がっている。
その筈だ。昔はそうだった。
改修工事はされていない筈だ。
その筈だ。
窓の外にはグラウンドが広がって
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