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寝る子は起こすな 寝る子は育つ  作者: 技兎
一年目
2/18

蔓延する病


 夢幻病が世界に及ぼす打撃。

 正体不明、原因不明の病。

 全人類が平等に恐怖する。


 一年が経過した今でも、自分が発病するのではないかと怯える人は絶えない。更に陰謀論者、彼らが出鱈目(でたらめ)に撒き散らすフェイクニュースは、自らの足で知る事を放棄(やめ)た人々の不安を煽る。


「夢幻病は〇〇国が作った病気!」


「政府は自分達の汚職を隠す為に夢幻病という病気を作った!」


「夢幻病は病気というがそれは間違い。何故なら、子供だけが罹るなんておかし過ぎる。あれは単なる集団催眠」


「『驚愕!? 夢幻病と日本政府の陰謀‼︎』」


 彼らは人に在らず。

 死の寸前まで。あるいは自分が危機的状況に置かれるまで、決して(おとし)める行為を止めない。彼らは人の皮を被った害悪だ。



 人間が最初に通る幼少期という道。

 その道が突然途絶えた。

 多くの者が奈落の底へ転落する。


 小学校以下、幼稚園や保育園は機能停止。

 教師や保育士達の職は失われて路頭に迷う。

 ベビー用品の売上は右肩下がり。勉強道具を売り出している会社も同様の事態に陥っている。


 標的は子供用雑貨を販売する店だけではない。

 否、それ以上の打撃を受けたのは社会全体だ。


 想像してほしい。

 我が子を擬似的に失った親の心労を。

 デスクワークに集中できるか。接客に身は入っているのか。真摯(しんし)に向き合い、職務を全うできるだろうか。


 出来ない。出来る筈がない。

 今は眠っているだけだが、

 明日には静かに息を引き取っているかもしれない。

 そんな不安に(うな)されながら、薬を常飲する日々を送る。


 今、世界的に睡眠がブームである。

 睡眠で疲労回復できる上に、運が良ければ我が子に出会える。

 元気な姿で歩き回る我が子の姿がチラついては消え、チラついては消え。ファーストフード店には、スーツで眠る人の姿が爆増した。


 自殺をする大人の数は、

 例年の十倍にまで膨れ上がった。

 その半数が一家無理心中である。


「大変だねー、子供を持つ親は」


「眠ってるだけだろ? 業務に支障をきたしてんじゃねえよ。めんどくさい」


「やっぱ独身って最高だわ!」


 独身貴族達による心無いマウント。

 その行動に意味はあるのか。誰が得をする。

 意味はあるし得もある。本人達(かれら)は愉悦に浸りたいのだ。誰かを蹴落とさないと、見下さないと生きていけない悲しい生き物。


 あるいはさみしがりや。

 注目を浴びたいが為に馬鹿をする馬鹿。


 炎上騒ぎは以前からあった日常茶飯事。

 だが今ではその火で死者も出ている。

 それでもボヤ騒ぎは起こり続けている。



 そんな彼らに対する補償は。

 子供を失った家族への手当は。

 病床数の確保は。横行する死者数の歯止めは。

 国はこの一年で一体何をしてくれたのか。


 結論から言えば、何も出来ていない。

 むしろ大幅に悪化した。


 彼らが悪いわけではない。

 全世界一斉にして共通に発病した奇病。

 物流は止まり国交は途絶え。とても他国の支援をしている場合ではない。そして今まで続けていた輸出や輸入も(とどこお)る。


 物価高、それに(ともな)う増税。

 広がる物資不足。キャベツ一玉400円。


 危機的状況下、降り注ぐ更なる負債。

 脳の許容限界を超え破裂する。

 足が止まり、思考が延々と同じ考えを繰り返す。


 病床の数が足りないのは理解している。

 家庭の逼迫(ひっぱく)も重々承知している。

 夢幻病への対抗策も(こう)じなければならない。


 国を支える議員達も同じ人間だ。

 彼らもこの苦しみを共有する仲間である。

 同じ様に嘆き悲しみ、我が子の生還をただ泣いて待ちたい。

 そんな願望、切望に折れる事なく、彼らは立ち向かっている。


 だが、何度だって言おう。

 誰がこの事態に対処して最善を尽くせるだろうか。

 我が国の為に粉骨砕身の覚悟で国家に従属した彼らだ。

 職務を果たせと言われれば、頭を下げて謝罪する他ない。

 しかも彼らの中にも子を持つ親もいる。

 心労癒えぬまま、未知への対抗策を考えろという無理難題。彼らの行く先は鬱病か統合失調症。


 そうして議会の場に出席しなくなった。

 正当な理由で出席できなくなった彼らを人々はストレスの()け口に、非難の対象にする。


「給料泥棒!!!」


「一般庶民の生活なんてどうでもいいっていうのか!!」


「議員辞職! 議員辞職!」


「国賊は出て行け!!」


「あの人たちも頑張ってる」


「『〇〇議員 出席日数0日でも給料支給!』」


「ふざけるな!!! 死ね! 死んでしまえ!!」


「『〇日〇時に首相官邸にてデモを実地予定!』」


 普段彼らがネット上に上げる、

 至近距離で撮影して、デモ参加者を誤魔化す手段。

 それを使わずとも、ここ最近では多くの民衆が(つど)う。中にはこの気に乗じた自称国民も多く混じっているだろうが、以前よりも純度100%の国民が多く混じっているのも事実だ。


 やり場のない不安やストレス。

 そこに転がる社会的な重み。

 吐き出せば騒音、溜め込めば病む。



 コレらは夢幻病が及ぼす被害の一端。

 深刻なのは案外シンプルな問題。

 『活気の消失』である。


 外を歩けば鬱屈な顔。

 メディアからアニメやドラマといったエンタメが廃絶。

 似たり寄ったりな情報を繰り返す。


 社会的な停滞は後退。

 今人類は初めて、後退の一途を辿っている。

 大国同士の戦争や人為的ウィルスの蔓延(まんえん)

 今まで多くの難題に直面したが、その最中でさえ人は成長し前進してきた。しかし今、未来へ前進する勇敢な人間は一握りしかいない。


 立ち向かおうにも支援がない。

 解明しようにも機関が機能していない。


「人類はここで潰える」


「神が裁きを下したのだ! 愚かな人間を見限り、最も残酷な方法で死を配られたんだ!」


「個人で出来る範囲何てたかが知れてる。しかもお手上げ状態ときた。終わりだよ終わり。残念でしたーーーー」


 唯一の希望の火である学者達でさえ、

 停滞の指にそっと消される。

 世界から光が消えていく。

 祈る神にさえ見放され、誰もが下を向いていた。


 しかしこんな時でもいるものだ。

 往生際の悪い人間という奴は。


「……完成した。コレで……夢幻病に立ち向かえる!」


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― 新着の感想 ―
[一言] 人間のあさましさと、恐ろしさ。政治家と国民、外国と日本、そして子供と親の分断。すごく風刺的ですね…。一体どうなってしまうのか…でもその中でも往生際の悪い、治療を考えてしまう人間もいるようで……
2022/08/04 23:44 退会済み
管理
[良い点] 集団ヒステリーの心理がうまく描かれています。  コロナ渦の現代でも報道にはなってないのですが集団ヒステリーによるクラスター、実は発生してます。  それだけではなく実はロシアの戦争も実は一…
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