1297回の旅路
ブルーレイディスクには予め細工が施されている。
起動時にメニュー画面から始まる仕組みである。
メニュー画面では一般的な操作が可能。
音量の調整や字幕の切り替え。
雪解が一人二役を演じる吹き替えも備えてある。
これが大衆向けに以前から設置されていた機能。それとは別に夢幻病対策に後から組み込まれた機能がある。
『収録されている時間』
『狭間に差し込まれる暗転数』
「理論上だと眠っている人間は全員、目覚めるスイッチみたいなのがどこかしこにあるんだけど、残念ながら俺の手を持ってしても技術の進歩はそこに到達しきれなかった」
「それが見つかれば、子供達を起こす最も早い手段なんだろうな。収録時間はMAX8時間越えで暗転数は……!?」
暗転数1297回
画面上にはそう表記されていた。
暗転とは夢の切り替えを意味する。
荒廃した世界の夢を観ていたら、突然森の中にいた。前後の互換性がない夢同士の狭間に差し込まれるタイミングを指す。
「1297回も」
「おかしい……雪解ボタンが真の夢の中に入っている時間は8分と数秒。夢の中は時間の流れが非常に遅くなるのは予想通りだが、こんなに場面転換を繰り返す筈がない……真の身に何が起きているんだ!」
脳科学者として、親として。
三寸木は娘の身に起きている夢幻病の得体の知れなさを再確認した。もしかすると本当に、神の領域に足を踏み入れたのではないかと。
一抹の不安が脳裏をよぎる。
その不安を三寸木は、自らの太腿に拳を振るう事で払拭してみせた。
「(神域に踏み込む恐れなんぞ、娘と今生話せない恐怖に比べれば屁でもない!)」
リモコンのスタートボタンを押し込む。
するとそこに流れたのは、
1297回分の雪解ボタンの旅路の通過点だった。
この先3話は雪解ボタンの旅路の抜粋です。
前後関係全くなし。
支離滅裂な話が3話続きます。