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寝る子は起こすな 寝る子は育つ  作者: 技兎
一年目
10/18

旅土産


 スピーカー何重にも流れる奇声。

 元は雪解ボタンの声。だが抑揚やボリューム、声の質等がイジられていて別人に聞こえる。


 三寸木は最初驚いた様子を見せた。

 だがすぐさま足元のパネルを操作し始めた。

 地べたに倒れた体勢のまま十数分。時折眠気と疲労で頭をよろめかせながらも、夢の鍵の電源を切り、雪解ボタンのAIもスリープモードに切り替えた。


「一体何事だ三寸木! 一体何が……」


「想定の範囲内だ……むしろ好都合に転んでいる。犠牲は払ったが、嬉しい手土産を持ってっ、うぅ……!」


 三寸木の中では一区切りがついた。

 そう考えた途端、おでこが地面に落ちてしまう。


 今まで我慢していた限界が溢れ出てくる。

 (まぶた)が睡眠を主張し、肺は空気を求めて呼吸器官全てに過重労働を課す。

 手足の先がジーンと痺れる。脹脛(ふくらはぎ)の内側をミミズが(うね)っている感覚がある。


「お前って奴は……三寸木、何をすればいい? 諸々の事情は後で聞いてやる。だが今はお前の身体に目を向けろ! 事後処理くらいなら、俺が何とかする」


「あぁ悪いな……真を俺の家に。家、知らないか……娘を安眠できる場所に。それと夢の鍵のモニター下にトレイがあるから、そっからディスクを。それには雪解の……(たび)の記録が……」


「分かった。じゃあもうお前は寝ろ! ホテルはこっちで探しておく!」


「はは……やっぱりお前は変わらないな。いっつも俺の後始末に追われて……」


 うつらうつらになる意識で嬉しさを覚える。

 一人先走り作戦を始めたりはしたが、結局は親友と共に始終の場所に立っていた。幼馴染として、子供の頃の記憶がぼんやりと浮かびだす。


 出雲は言われた通りにディスクを取り出す。

 夢の鍵に近付くのは不気味ではあった。

 奇声を上げたAIに近付く。急に起動して襲いかかってくるのでは、などとSFホラーでよくある展開が脳裏を巡る。


 三寸木真は診察台でぐっすりと眠っている。

 病院視察の際に見てきた患者と同じ状態。病気に罹っているとはとても思えない程、穏やかな表情をしている。


「(一旦、真ちゃんを背負(おぶ)って止めてある車に。その後に三寸木を)」


「おれはここでねる」


 振り絞って出る台詞に力はない。

 ふにゃふにゃしていて、

 思考したくないと自暴自棄気味になっている。


「分かった分かった。(お前は後で運ぶからな)」


 真に装着されているヘルメットを外す。

 彼女を背に乗せると、我が子の幼少期を思い出したりしたが、今はノスタルジーに浸っている暇ではない。


「んんー? 出雲さあん、その子は?」


「事情は後で説明する。コレからもう一人大人を連れてくるから、後部座席にある私の鞄やら何やらをトランクに移しておいてくれ! あーそれと近場のホテルに予約を頼む」


「……了解しましたあ」


 再び地下室に戻る。


 三寸木は眠りに落ちていた。

 だらしなく口元からは(よだれ)が垂れている。

 時折ビクンビクンと体が反応している。


「全くッ! この年齢(とし)になってまで、お前に肩を貸す羽目になるとはな!」


 三寸木に肩を貸して部屋を出る。

 その際に夢の鍵に、雪解ボタンに視線を送る。

 ポケットの中の携帯を取り出して彼女の通話履歴を確認する。


「一体、何があったんだ?」


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― 新着の感想 ―
[一言] 雪解に何が起きたのでしょう…成功と言っていますが、いまいち信頼できない気がするのが…一体雪解がどうなったのか、とても気になります!
2022/08/11 20:41 退会済み
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