旅土産
スピーカー何重にも流れる奇声。
元は雪解ボタンの声。だが抑揚やボリューム、声の質等がイジられていて別人に聞こえる。
三寸木は最初驚いた様子を見せた。
だがすぐさま足元のパネルを操作し始めた。
地べたに倒れた体勢のまま十数分。時折眠気と疲労で頭をよろめかせながらも、夢の鍵の電源を切り、雪解ボタンのAIもスリープモードに切り替えた。
「一体何事だ三寸木! 一体何が……」
「想定の範囲内だ……むしろ好都合に転んでいる。犠牲は払ったが、嬉しい手土産を持ってっ、うぅ……!」
三寸木の中では一区切りがついた。
そう考えた途端、おでこが地面に落ちてしまう。
今まで我慢していた限界が溢れ出てくる。
瞼が睡眠を主張し、肺は空気を求めて呼吸器官全てに過重労働を課す。
手足の先がジーンと痺れる。脹脛の内側をミミズが畝っている感覚がある。
「お前って奴は……三寸木、何をすればいい? 諸々の事情は後で聞いてやる。だが今はお前の身体に目を向けろ! 事後処理くらいなら、俺が何とかする」
「あぁ悪いな……真を俺の家に。家、知らないか……娘を安眠できる場所に。それと夢の鍵のモニター下にトレイがあるから、そっからディスクを。それには雪解の……夢の記録が……」
「分かった。じゃあもうお前は寝ろ! ホテルはこっちで探しておく!」
「はは……やっぱりお前は変わらないな。いっつも俺の後始末に追われて……」
うつらうつらになる意識で嬉しさを覚える。
一人先走り作戦を始めたりはしたが、結局は親友と共に始終の場所に立っていた。幼馴染として、子供の頃の記憶がぼんやりと浮かびだす。
出雲は言われた通りにディスクを取り出す。
夢の鍵に近付くのは不気味ではあった。
奇声を上げたAIに近付く。急に起動して襲いかかってくるのでは、などとSFホラーでよくある展開が脳裏を巡る。
三寸木真は診察台でぐっすりと眠っている。
病院視察の際に見てきた患者と同じ状態。病気に罹っているとはとても思えない程、穏やかな表情をしている。
「(一旦、真ちゃんを背負って止めてある車に。その後に三寸木を)」
「おれはここでねる」
振り絞って出る台詞に力はない。
ふにゃふにゃしていて、
思考したくないと自暴自棄気味になっている。
「分かった分かった。(お前は後で運ぶからな)」
真に装着されているヘルメットを外す。
彼女を背に乗せると、我が子の幼少期を思い出したりしたが、今はノスタルジーに浸っている暇ではない。
「んんー? 出雲さあん、その子は?」
「事情は後で説明する。コレからもう一人大人を連れてくるから、後部座席にある私の鞄やら何やらをトランクに移しておいてくれ! あーそれと近場のホテルに予約を頼む」
「……了解しましたあ」
再び地下室に戻る。
三寸木は眠りに落ちていた。
だらしなく口元からは涎が垂れている。
時折ビクンビクンと体が反応している。
「全くッ! この年齢になってまで、お前に肩を貸す羽目になるとはな!」
三寸木に肩を貸して部屋を出る。
その際に夢の鍵に、雪解ボタンに視線を送る。
ポケットの中の携帯を取り出して彼女の通話履歴を確認する。
「一体、何があったんだ?」




