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剣と魔法の世界から日本に転生した賢者~バカとテンサイはカミヒトエ~  作者: 九傷
三章 津田朝日

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第95話 三大賢者

 


 ――――術式、開始。


 まずは回復魔術と同様、自身の魔力を体に循環させ、波長を整える。

 その後、徐々に津田さんに魔力を浸透させ、疑似的に魔力を通わせる。

 こうしなければ、魔力の無い相手に対して治療を行うことができないからだ。

 しかし……



(……やはり、淫魔(インキュバス)の角が持つ魔力が邪魔か)



 意識を失った者や、最初から魔力がほとんど無い者に対し、魔力を浸透させるのは容易だ。

 しかし、今回のように魔力を含んだ異物を混入されている場合、それが邪魔となり魔力が浸透させにくくなる。

 こうなってくると、緩やかに魔力を循環させるようなやり方は通じない。



「……津田さん、すまない」



 俺は一言謝罪を入れてから、自分の口で彼女の口を塞ぐ。



「っ!? ……んっ、……ふぁ、……んぷ」



 それと同時に、津田さんの舌が貪るように口内に侵入してくる。

 艶のある声と吐息が俺の脳を痺れさせるが、これは彼女の意思ではないと煩悩を跳ねのける。

 絡みつく舌を掻い潜り、俺は彼女の喉奥に唾液と血液を送り込む。



「なんだよ。結局おっぱじめるんじゃねぇか。やるんなら最初から素直になれってんだよ」



 下卑た笑いを浮かべた立川が、スマホで俺と津田さんを撮影し始める。

 大方、その画像を使ってあとで脅しでもかけるつもりなのだろうが、それに意識を割いている余裕はない。



(予想通りだが、かなりの魔力を持ってかれるな……)



 異物には異物を。

 津田さんに打ち込まれた淫魔の角の魔力を相殺すべく、俺は自分の魔力を纏わせた唾液と血液を彼女の体内に送り込んだ。

 しかし、淫魔の角の魔力は相当なもので、通常の俺の魔力だけでは到底補いきれるものではなかった。

 必然的に『転換の秘法』を使わざるを得なく、俺の体力は著しく消費されていく



(頼む……、持ってくれよ……)



『転換の秘法』は諸刃の剣だ。

 使えば使うだけ、生命力が失われていくのである。

 最初のうちは体力だけで済む話だが、それを超えるエネルギーは俺の命に係わる部分を削ぎ落していく。

 これまでも何度か『転換の秘法』は使ったことがあるが、その領域まで踏み入れたのはこれで三度目だ。



(だが、今回は意識を手放すワケにはいかないからな……)



 今までは、あとを任せられる仲間がいたからこそ全力を出し切ることができた。

 しかし今回は、そのままぶっ倒れてしまえるような状況ではない。

 俺が意識を手放せば、結局津田さんを助けることができなくなってしまうからである。



(可能な限り、変換効率を上げるしかない……)



 現在の変換効率は、生命力50に対して魔力1程度が関の山であった。

 これを少しでも効率化することで、なんとか意識を手放さないよう調整する。

 凄まじく緻密な魔力構成を、さらに緻密なモノへと作り変えていく。

 神経が焼ききれそうなくらい繊細な作業であったが、不思議と失敗する気はしなかった。



「……おい、てめぇ、何をやっていやがるんだ?」



 キスだけで一向に行為に及ばない俺を流石に訝しんだのか、立川の表情が変わる。

 しかしもう遅い。術式は、ほぼ完了していた。


 津田さんの口内から自分の舌を引き抜く。

 粘り気のある唾液がツーと糸を引くが、先程までの強い吸いつきはなく、俺の舌はあっさりと解放された。



「……言っただろう。彼女の呪いを解くと」


「馬鹿な! できるハズがねぇ! 淫魔の媚薬は、あの世界にだって解毒方法が無かったんだぞ!」


「その通りだ。淫魔の角の効果は、その本体の体液を摂取する以外うち消す方法はない。……しかし、封じる方法はある」


「そ、そんな、ハズは……。あ、ありえねぇ……、ありえねぇ……」



 立川は、目の前の光景が信じられないとでも言うように、あり得ないという言葉を繰り返す。



「淫魔の角に侵された者が、こうして異性に触れられた状態で眠りにつくことはあり得ない。つまり淫魔の角の効果は失われているということだ」



 抱きかかえた津田さんは、先程までの荒い呼吸が治まり、静かに寝息をたてている。

 淫魔の角の効果が消えている何よりの証拠であった。



「そんなことはもっとありえねぇ! 淫魔の角の効果を魔術で抑え込めるなんて話は聞いたことねぇぞ!」


「お前に聞き覚えがないのも無理はない話だ。この技術は、教会が秘匿している技術のうちの一つだからな」


「教会……? ハッ! じゃあてめぇは神官だってのか!? それじゃあ魔力についてはどう説明する! 解呪や回復魔術に必要な魔力量はメチャクチャ多いって聞いてるぜ。この世界に転生したお前が、その魔力をどう捻り出したって言うんだよ!」



 この立川という男……、存外に博識だな。

 盗賊は盗賊でも、それなりに大きな組織の一員だったのかもしれない。



「俺は神官ではないし、技術を秘匿するつもりはないが、わざわざお前に方法を教えてやる義理もない」



 俺は津田さんを床に横たえ、ゆっくりと立ち上がる。

 体力的にはほぼ限界に近かったが、ここでこの男を取り逃がすワケにはいかない。



「神官じゃねぇならなんだって……。おい、てめぇ、なんでそんなボロボロになってんだよ……」


「っ!?」



 言われて初めて自分の状態に気づく。

 手は乾燥したかのようにカサカサとなり、血の気も大分失われていた。

 その手で自分の頬に触れてみると、動揺に乾いてカサカサになっていることがわかる。



「……! そ、そうか! 魔力を捻出した方法がわかったぜ! てめぇ、禁術を使いやがったな!?」



 禁術……?

 俺の記憶の中には、魔力を生み出す禁術は存在していない。

 もし該当するものがあるとすれば、『転換の秘法』しかないハズだが……、いや、そういうことか……



「クックック……、そうか、お前、俺よりあとの時代の人間か……」



 俺は前世で、『転換の秘法』を完成間近まで研究を進めていた。

 恐らく俺の死後、その研究を誰かが引き継いだのだろう。

 そして、めでたく禁術指定をされたというワケだ。



「『転換の秘法』は、使えば確実な死が待っているっつう曰く付きの禁術だ。使いこなせた人間は存在しねぇ。もし存在するとしたら……、おい、おいおいおいおい! 俺の予想が正しけりゃ、てめぇ、とんでもねぇ大物じゃねぇかよ……」



 立川がスマホを取り落として後ずさる。



「三大賢者『マリアス』! 信じられねぇが、それなら淫魔の角の性質を知っていることも、封印術が使えることにも説明がつく!」


「三大、賢者……? そうか、俺は死んだあと、賢者に数えられるようになったのか……」



 俺が生きていたころは、賢者と呼ばれる人間は二人しかいなかった。

 死んでからあの方々に並び称されるようになったのであれば……、少し複雑だ。

 光栄ではあるのだが、生きているうちにそう呼ばれたかったものである。



「じょ、冗談じゃねぇぜ! 賢者なんて相手にしてられるかよ!」



 落としたスマホも回収せず、脱兎のごとく逃げ出そうとする立川。

 元盗賊らしい良い逃げっぷりだが、少しだけ決断が遅かったな。



「っと、てめぇがココの親玉か?」



 逃げ出した立川の前に、大男が立ち塞がる。



「尾田君、ナイスタイミングだ」


「なっ!? てめぇ! まさか、下の連中を一人で抜いてきやがったのか!?」



 こうなっては立川に逃げ場はない。

 それでも悪あがきをしようとしたのか、懐に手を伸ばすが……



「させねぇよ」



 尾田君にガッチリとホールドされてしまう。



「尾田君、そのまま取り押さえていてくれ」


「それは構わねぇが、そんなフラフラで大丈夫なのか?」


「……ああ。その男には、どうしても一発入れてやらなきゃ気が済まないんでね」



 転換した残りの魔力を全て身体強化に回す。



「や、やめろ、待ってくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっっ!?」


「問答、無用だ!!!!!」



 ――そして俺は、持てる全ての力で、立川の腹を思い切り殴りつけた。






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[一言] 燃えるごみは月・水・金( ˘ω˘ )
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