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剣と魔法の世界から日本に転生した賢者~バカとテンサイはカミヒトエ~  作者: 九傷
三章 津田朝日

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第86話 昔話

 


 一時間後、奴等から連絡が入った。

 要求は全く同じであるが、これ以上逆らうようであれば津田さんに善からぬことをすると(ほの)めかしてきた。

 流石に今度は相手を挑発するようなことはせず、大人しく従うフリをしてやり過ごすことにした。

 しかし、それが逆に奴等の警戒心を強めたのか、一つ条件が加えられた。

 それは、俺がこの家から離れないことである。



「……本当にすまない。神山君を拘束することになってしまったな……」



「いえ、問題ありません。俺が直接動けば奴等の警戒を強めますからね。いたずらに刺激すれば、夕日達に何をされるかわかりませんし、どの道その予定でした」



 先程の電話から、奴等のアジトについては粗方割り出すことに成功している。

 あとは構成人数、そして夕日達の所在の確認などを済ませれば、いつでも行動に移せる状態だ。

 俺が動くのは、全ての安全を確保してからである。



「……それで、これからどうすればいいんだい?」


「こちらの準備が整い次第ですが、悟さんは犯人の指示通り、廃業届を持って保健所に向かってください」


「……そうか。まあ元よりそのつもりだったし、問題無いよ」



 悟さんは、何か憑き物が落ちたような、安心した表情になる。

 しかし、その瞳は僅かながら憂いを帯びていた。



「……いえ、実際に提出はしなくても結構です。悟さんは、ただ保健所に向かうだけで構いません」


「そ、それは、どういうことだい?」


「既に奴等の拠点は割り出せました。準備が整い次第突入を予定しています。つまり、悟さんに動いてもらうのは奴等を油断させるためでしかないのです」



 俺がそう言うと、悟さんの表情が驚愕に染まる。



「そ、それは本当に?」


「はい。今は夕日達の安全を確保する段取りをしているところです」



 俺の言葉に、悟さんと陽子さんは顔を見合わせて困惑している。

 無理もないだろう……

 何せ、所詮は一高校生に過ぎない俺が言うことなのだから。



「……信用のできる警備会社が動いています。決して夕日達に危険が及ぶようなことはしませんので、ご安心を」


「……そうは言っても、私達には判断が付かないよ。第一、君は何故そんな警備会社を?」


「それは、自分がその会社の株主で色々と融通が利くからです」



 当然だが、完全に嘘である。

 そもそも、株主にそんな特権はない。

 まあ、例外はあるだろうが……



「株か……。いやしかし、株には詳しくないが、それでも、お金はかかるんじゃ……」


「その心配もありません。多少の制限はありますが、株主優待と家のツテでどうにかなりました」



 正直、こんな状況でもなければもう少し気の利いた理由を準備できたのだが、今は無理やり押し通すしかない。

 誤魔化せるがは五分五分だが、魔術も使って強引に説得を試みる。



「……そうか。いや、娘達と君に危険がなければ、いいんだ」



 二人に対して仕掛けた思考誘導は、どうやら上手くいったようだ。


 この術は人避けの魔術にも用いられる基本的な心理、思考の誘導であるため、魔力はあまり消費しない。

 その分強制力は薄いが、今の二人の精神状態であれば誘導自体は容易(たやす)かった。

 ……ただ、少ないとはいえ魔力を消費していることには変わりない。

 既に俺がまともに扱える魔力は、残り僅かである。



「……ありがとうございます。それでは、恐らくまだ時間がかかりますので、二人は休んでいて下さい。自分も暫し休息を取らせていただきますので」



 そう言い残し、俺は席を立った。





 ◇





(さて、ああは言ったものの、具体的にどうすべきか……)



 俺が実際に動かせるのは、正義部の面子と研究所の職員だけである。

 この内、研究所の職員に関しては戦力としてはあてにならないため、バックアップだけをお願いすることになるだろう。

 となると、戦力的には正義部の部員のみとなるのだが、正直彼らにも無理はさせたくなかった。

 そもそも一重や麗美はともかく、尾田君とシンヤ君はただの一般人だからな……



(まあ、二人のことだから、絶対協力を申し出てくるだろうけど)



 むしろ、そうなった場合を想定し、対策を考えた方が良い気がする。

 最悪、犯人達のアジトを制圧するだけなら、俺と一重、麗美の三人だけで十分だろうし、二人にはバックアップを任せればいい。



(……何にしても、まずは静子の報告を待つか)



 俺は一時的に貸してもらった和室に座り込み、瞑想を開始する。

 全く気分ではないが、二人に言った手前休んでいるフリくらいはした方がいいだろう。



「……………………………………」


「……神山君、ちょっといいかな?」



 暫し瞑想していると、和室に悟さんがやって来た。

 もしや、魔術の効き目が薄かったのだろうか?



「大丈夫です。なんでしょうか?」


「……こんな時にどうかしていると思うかもしてないけど、少し昔話をしに、ね」


「……昔話ですか?」



 いくつか内容を予測していたが、これは完全に想定外の話であった。

 本当に、何故このタイミングで?



「……君は、正義君という呼び名を、覚えているかな?」





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― 新着の感想 ―
[一言] 昔から正義部だったのですね( ˘ω˘ )
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