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剣と魔法の世界から日本に転生した賢者~バカとテンサイはカミヒトエ~  作者: 九傷
三章 津田朝日

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第83話 失われた太陽

 


 学校を出て地元に戻り、俺は速やかに津田ベーカリーへと向かう。

 時刻はまだ九時過ぎくらいなので、こんな時間に制服で歩く俺を訝しげに見る者もいたが、知り合いはいなかったので一々声をかけられることもなかった。



(……失態、だな)



 色々と考えたが、やはりこれは俺の失態だ。

 いくらあの日、津田さんに帰るよう言われたはいえ、やはり様子くらいは見に行くべきだった。

 それに、昨日津田さんが休んだ時点で、お見舞いに行くことだってできたハズ。



(全く、思春期のガキか俺は……)



 あえて連絡を取らなかったのも、見舞いに出向かなかったのも、決して心配していなかったからではない。

 単純に、その程度で連絡を取ったり、見舞いに行って、変に意識されたくなかったのである。

 要は、気が引けたというか、気恥しかったのだ。


 こういった、自分に素直になれないところは、まさに思春期の特徴と言っていいだろう。

 しかし、俺の中身はあくまで四十……、いや、通算五十過ぎのオッサンなのである。

 全くもって年甲斐もない……



(……とはいえ、やはり俺の精神は、肉体の年齢に引っ張られているのだろうな)



 前々から感じていたことではある。

 今思えば、一重の人格を無視したような女神化計画なんてものを思いついたのも、幼稚さだとか無邪気さゆえだったのかもしれない。

 ……まあ、女神は無理でも、立派な女性に育て上げるという思いは、今でも変わらないのだが。



 多少思考が逸れたが、グダグダと思い悩んでいるうちに津田ベーカリーが見えてくる。



「っ!?」



 しかし同時に、妙な違和感が俺を襲う。

 拒否感、忌避感、不快感……、そういった感覚に近いモノを感じたのだ。



(コレは……、人避けの結界……!? 何故こんなものが……?)



 感覚を研ぎ澄ませると、やはり津田ベーカリーの周囲には人避けの結界が張られていた。



(まさか、地上げ屋の構成員に魔術師がいるのか……?)



 当然だが、この結界は俺や麗美、静子が張ったものではない。

 俺達の目的が店の繁盛である以上、こんなことをするメリットなどないからだ。

 となると、これを行ったのは津田ベーカリーが繁盛して困る者達……

 例の、『タチの悪い不動産会社』側の仕業である可能性が高い。



(……しかし、ここまで大胆な行動を取って来るとはな)



 相手に魔術師がいる以上、こちら側にも魔術に精通した者がいることはバレていると思って良いだろう。

 電子情報に痕跡は残していないが、店自体に施した術式は今でも機能している。

 もし魔術師が店に訪れていたのであれば、こちらの存在に気づく可能性は十分にある。



(そのうえでこんな真似をしてきたということは、バレても構わない状況になった……、つまり何らかの勝機を見出したということか?)



 あるいは、本当にこちらの存在に気づいていないか……

 こちらの世界にも幸運の魔除けのような、ある種魔術的な物は存在している。

 俺の施した術式も隠蔽はしてあるし、普通の魔術師がそれを見破るのは困難だ。

 ただ、たとえ普通の魔術師であっても、なんらかの魔術的痕跡があれば警戒はするハズ。

 そのうえで行動に出た時点で、甘い考えは捨てた方がいいだろう。



(……ともかく、まずは悟さん達の状況を確認しよう)





 ………………………………………………


 ……………………………………


 …………………………





 俺はバイトの時と同様、裏口の方に回り込む。

 人避けの結界は解除していない。

 今はその方が好都合と言えるからだ。

 まあ、人避けの結界には明確な目的意思を持った者を阻む効果はないため、気休め程度でしかないが……


 呼び鈴を押すと、少しの間を置いてからゆっくりと扉が開く。



「……神山君か。……すまないんだけど、今は店をお休み中で……」


「それはもちろん、わかっています。そのうえで、何があったかを聞きに来たのです」


「………………」



 悟さんは、どう答えるか悩んでいる様子だ。

 俺は一応バイトとはいえ、ここの従業員でもある。

 ある程度は説明が必要だが、どこまで言って良いものかという葛藤があるのだろう。



「……ある程度何が起きているか、状況は察しているつもりです。……津田さんは、やはり家にいないのですか?」


「っ!? 何故それを!? まさか、君は朝日がどこにいるのか知っているのか!?」



 目の色を変えて俺の肩を掴む悟さん。

 その態度を見て、後ろに控えていた陽子さんが慌てて止めに入る。



「あなた! 落ち着いて!」


「っ……、す、すまない……」


「……いえ。自分も思わせぶりな発言をして、すみませんでした。残念ながら、自分も彼女の所在に関しては知りません。ただ先日、隣町で彼女の目撃証言があったようなので」


「……そうですか」



 津田夫妻は目に見えて沈んだ様子になる。

 恐らく、その情報については既に知っていたのだろう。



「……できれば、詳しい話をお聞かせ願えませんか?」


「……中で、お話しましょう」





 ◇





「……詳しい話と言っても、特に話せることはないのよ」



 お茶を入れ、ようやく席に着いた陽子さんが、第一声でそう言った。

 しかし、その沈痛な表情からは決してそうは感じられない。

 つまり、『話せない』理由があるということだ。



(…………原因はアレか)



 俺は夫妻に対し、唇に指を当てて沈黙を促す。

 そして手で動きを制しながら、店の方へと向かう。



(……チャチな術式だな。まあ、人目がある中じゃ、この位の対応が関の山か)



 俺は店内の数か所に、見つからないよう貼られていた呪符を全て剥がした。

 これで盗聴の心配は無いだろう。



「……失礼しました。盗聴器の類は全て取り外しましたので、もう大丈夫ですよ」



 俺がそう言うと、津田夫妻は驚いたような視線で俺を見る。

 まあ、ただの高校生が盗聴器を取り外す技術なんて持っているなどと、普通は思わないだろうからな……



「……君は、何故そんなことができるんだ?」


「自分は学校で正……、便利屋のようなことをしていまして、以前そういったトラブルを抱えた友達を助けたことがあるんです」



 まあ、実際は取り外しじゃなくて、設置をしたんだけどな。

 ただ、今回に限っては、そういった文明の利器は利用されず、魔術的措置しかされていなかった。

 恐らく、常に人がいる津田ベーカリーに盗聴器をしかけるのは困難だったのだろう。

 その点、呪符であれば、しゃがんだ際に棚の隙間に仕込むなどは容易いことだ。



「……君は、相も変わらず人助けばかりしているんだね」



 相も変わらずとは、俺の幼稚園時代と比較して、ということだろうな。

 津田さんは過去の俺と面識があったそうだし、その関係で悟さんが昔の俺を知っていたとしても不思議ではない。



「……性分なので」


「……………………」



 俺がそう返すと、再び沈黙が返ってくる。

 どうやら、盗聴器だけの問題ではなく、単純に言うのが躊躇されるような内容であるらしい。

 そうなると、流石に無理やり聞き出すのは躊躇われる。

 ただ、どっちにしろ俺は自分で調査する気満々だが。



「……ここで私達が黙っていても、君は自分で調べてしまうんだろうね」


「否定しはしません」


「…………」



 再びの沈黙。

 しかし、今度は十数秒程で、悟さんは口を開いた。



「…………夕日が、誘拐されたんだ」




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― 新着の感想 ―
[一言] コレは教育やろなあ( ˘ω˘ )
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