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剣と魔法の世界から日本に転生した賢者~バカとテンサイはカミヒトエ~  作者: 九傷
三章 津田朝日

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第81話 不穏の前触れ

 


 サイズまで聞くことはできなかったが(当たり前だ)、静子と麗美はバストアップに成功したらしい。

 もちろん、短期間であるため、その数値は微々たるものだったようだが、その効果に彼女達は希望を見いだせたようだ。


 静子達に効果が現れたということは、当然、他の購入者達にも効果が出始めているということでもある。

 SNS上では、そのことについて様々な報告が上がり始めていた。


 ある者は劇的な効果があったと呟き、またある者は全く効果がなかったと呟く。

 他にも、少しだけ効果があったとか、太ってしまったとか、その内容はマチマチである。

 しかし、一定数以上の者から効果があったと声が上がっているため、津田ベーカリーの注目度はさらに増し始めている。


 お客さんも日々増え続けており、今では行列のできる店の仲間入りである。

 こうなってくると流石に手が足りないそうで、津田さんはバイトを辞めて店の手伝いに専念しているようだ。

 俺も最初の一週間は体験入店というカタチで雇われていたのだが、陽子さんにお願いされ、その後も週三で店の手伝いに出向いている。

 給料は最低賃金ギリギリだが、俺にとってはメリットも多いので、暫くは続けることになりそうだ。



「あれ? 神山?」



 色々と考え事をしながら歩いていると、後ろから声がかかる。

 振り向くと、津田さんが小走りでこちらに向かってくる所であった。



「やあ津田さん、もしかして夕日のお迎えかな?」


「そうだけど、なんで神山がコッチ来てるの? アンタのウチって、橋向こうなんでしょ?」


「そうだけど、ちょっと店の様子が気になってね」



 正確には、店で働いている悟さんや陽子さんが少し心配だったのだ。

 店が繁盛するのは良いのだが、結果として過労で倒れたりしては元も子もない。

 今朝俺が手伝っている際は平気そうにしていたが、その表情には少し疲れが見て取れた。

 大丈夫だとは思うが、念のため、放課後は様子を見に行こうと思っていたのである。



「うん、まあ、ここの所は本当に忙しいからね。……誰かさんのせいで」


「……それについては、まあ、すまないと思っているよ」



 店のためとはいえ、多少やり方が強引だったのは否めない。

 ステマはもちろんのこと、実際にバストアップ効果を得るために、材料にも少し手を加えさせてもらったからだ。

 その他、SNSを利用して効果的な運動方法の宣伝をしたり、効果が見込める料理の紹介なども同時に行っている。


 結果として津田ベーカリーは繁盛することとなったが、それはそれで問題もあった。

 労働力と、生産力の不足である。

 そのどちらもが、津田ベーカリーには足りていなかった。


 もちろん、静子や俺はそれを想定していたし、だからこそ店を手伝ったりしていたのだが、その想定を上回る効果があったのは否定できない。

 結果的に津田さんもバイトを辞めることになったし、色々と迷惑をかけてしまった。



「ちょ、ゴメン! 嘘嘘! 冗談だから! 神山を責めてなんかいないからね!?」


「しかし、迷惑をかけたことは事実だ。津田さんには、結果的にバイトを辞めさせてしまったしな……」


「いや、だから! 迷惑になんて思ってないから! 大体、私がバイトしてたのだって、ウチが経済的にヤバイからだったんだよ? 店が繁盛してたら、全くやる必要なんて無かったんだから!」



 そうだったのか……

 津田さんは結構派手めな感じだし、てっきり化粧などの美容品代を稼ぐためだとばかり……



「……ってことでさ、確かに忙しくはなったけど、それはそれで私や真昼が手伝えばいいことだし、神山だって手伝ってくれてるでしょ? ……だから、その、感謝してるんだよ……?」



 少し恥ずかし気に、そう言ってくる津田さん。

 その仕草や顔の赤らみ具合など、思春期男子にとっては中々の破壊力である。

 流石に少し照れ臭い。



「ま、まあ、そう言ってくれると助かる……」



 俺はポリポリと頬を掻きながら、それを直視しないよう視線を逸らす。

 このまま見ていると、なんだか変な気分になりそうだった。



「し、しかし、いずれにしても今のままだと人手が足りないだろう? バイトを雇ったりとかは、考えたりしていないのか?」



 いくら津田さんや俺が手伝うとは言っても、学校に行ってる間は流石に手伝うことができない。

 土日はともかく、平日はやはり結構キツイんじゃないかと思う。



「考えてはいると思う……。まだ少し厳しいと思うけど、今の売り上げで安定したら、余裕もできると思うから……」



 経済的に厳しい状況にあった津田ベーカリーでは、そう易々とバイトを雇うことはできなかった。

 しかし、このまま売り上げをキープすることができれば、利益分でさらにバイトを雇うことが可能になるだろう。

 悟さんや陽子さんも、その辺のことはしっかり考えていたようで、一先ず安心だ。

 あとは、この状況を如何に乗り切るかにかかっているだろう。

 踏ん張り時……、というヤツである。



「成程ね。それまでは俺も、しっかりと協力させてもらうよ」



 俺の仕込は大体終わっている。

 繁忙期を乗り切れば、俺がそのまま働き続ける理由もなくなるため、代わりの人材が見つかればバイトは辞めるつもりであった。

 正義部の活動もあるし、何より一重からあまり離れるワケにはいかない。



「……それまでってことは、やっぱり、その後は辞めちゃうってこと、だよね?」


「ああ。名残惜しいが、俺にも色々とやることがあるからね」


「……全然名残惜しそうに見えないけど」



 そう小さく呟きながら、津田さんは少し小走りで前に出る。

 そして振り返り、複雑な表情を浮かべた。



「……津田さん?」


「……あのね? 神山は覚えていないかもしれないけど、実は私、昔、神山に助けられたことがあるんだ」



 昔とは、あさがお幼稚園時代のことだろう。

 俺は津田さんのことを覚えていなかったが、彼女は俺のことを覚えていたらしい。



「だから……、今もまた、こうして助けてもらえて、本当に感謝してるんだよ? 昔は言えなかったけど……、その…………、っ! ありがとう!」



 津田さんは何かを言いかけ、直後に振り払うように頭を横に振る。

 そして、そのまま頭を下げて礼を言ってきた。

 俺はワケもわからず、ただ「ああ」としか答えられなかった。



「…………っ! ごめん神山、なんか今日、私おかしい……。悪いんだけど、今日はこのまま、帰ってくれない?」


「それは構わないが……」



 そう言うのであれば、帰ること自体は問題無い。

 津田さんが手伝うのであれば、陽子さん達の負担も幾分か減るだろうしな。

 ……まあ、少し腑に落ちない感は残るが。



「ごめんね! じゃあ、また明日!」



 そして津田さんは、そのまま駆け足で保育園の方向に走って行ってしまった。
















 次の日、津田さんは学校を休んだ。


 そしてその次の日も、その次の日も、津田さんが学校に来ることはなかった。






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[一言] おおおおおおお!?!?!?
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