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剣と魔法の世界から日本に転生した賢者~バカとテンサイはカミヒトエ~  作者: 九傷
三章 津田朝日

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第79話 津田ベーカリー繁盛作戦②

 


「静子、それなら俺に良い考えがあるぞ?」





 俺のプランを説明すると、女子よりも先に尾田君が反応する。



「バストアップ効果ぁ!? それって、要はその、胸を大きくするとか、そんな類の効果のことか?」


「その通りだよ尾田君」



 俺が自信満々に答えると、尾田君はなんとも複雑そうな表情で腕を組み始める。

 まあ、男にとっては正直どのように反応していいかわからない効能だし、その反応も無理はない。



「マ、マスター、それは誠ですか!?」



 麗美が、らしからぬ口調で尋ねてくる。

 静子も俺の発言に、珍しく動揺しているようであった。



「ああ。効能について問題がないことは検証済だ。それに、実績もある」



 そう言って一重を見ると、一重はやや恥ずかしそうに目線を逸らす。



「ま、まさか……、一重さんの胸が大きいのは、マスターの仕業だったと言うのですか!?」



 仕業とは随分な物言いだが、まあ間違ってはいない。

 母親譲りの素質があったとはいえ、この年齢で一重の胸がここまで育ったのは、間違いなく俺の努力によるものだ。



「仕業、というほど何かをしたワケではない。食事や運動で日々調整していっただけだ」



 まあ、若干魔術的干渉をしたのは否定しないが。



「そ、それは、いつ頃から……?」



 静子が少し食い気味に尋ねてくる。

 これもまた珍しい反応である。



「もちろん、幼少からだ」



 まあ正直、女性ホルモンが分泌され始めるまでの間に関しては、意味があったか怪しいところだが……



「そ、そんな……、何故それを、私にも教えてくれなかったのですか……?」


「えっ!? い、いや、だって、静子はそんなことには興味ないとばかり……」



 静子が本気で悲痛そうな表情をしたため、俺は慌てふためく。

 こんな反応をされたのは、静子の両親に謝りに行った時くらいだぞ……?



「……私だって、一応女の子ですよ? そんなこと、興味あるに決まってます……」


「そうですよマスター! マスターが一重さんを大事にしているのはわかりますが、もっと周りもちゃんと見てください! 女の子は繊細なんですからね!?」


「すす、すまなかった……、以後気を付ける……」



 二人の圧力に押され、俺は情けなくも謝ることしかできない。

 中身はリアルに高齢者の俺が、まさか女子高生二人に説教されるとは……



(でも、別に俺は悪いことはしていないと思うんだが……って、ひぃっ!?)



 俺が言い訳じみたことを考えていると、一重までもが俺に睨みを効かせてくる。

 どうやら、一重的にも俺が悪いということらしい。女心は複雑だ……

 まさか、前世から数え60を超えてから女性関係で苦労することになるとは思わなかった。



「フンッ……」



 俺が女性陣にやり込められているのを見て、坊ちゃんが鼻で笑ってくる。

 なんだか物凄く腹立たしかったが、ここでその怒りをぶつけるのも大人げない。

 俺は深呼吸をして息を整えつつ、話題を元に戻すことにする。



「あ~、まあ、つまり、その辺のノウハウについてはそれなりに自信がある、ということを言いたかったワケだ」


「マ、マスター、それで、具体的な方法については!?」



 再び食い気味に麗美が尋ねてくる。

 隣に立っている静子も、いつも以上に圧が強い気がする。



「……え~、まずみんなに尋ねるが、簡単に胸を大きくする方法について、誰か心当たりがある者はいるか?」


「そんなことを知っていれば、誰も苦労はしません!!!!」



 俺の問いに、凄まじい勢いで麗美が反応してくる。

 静子も隣でブンブンと首を縦に振っている。

 本当に二人とも、まるで人が変わったかのような反応っぷりである。



「胸を大きくするっていうのは、単純に胸囲ってこと?」



 そんな二人を無視して、坊ちゃんが質問をしてくる。



「そ、その通りだよ、坊ちゃん」



 麗美と静子の圧が強過ぎるので、今は坊ちゃんを相手にしてる方が幾分か気楽だ。

 ナイスアシストと言いたい。



「……ん~? んなもん、筋トレすりゃいいだけの話じゃねぇのか?」


「馬鹿だな、尾田……。そういうことじゃねぇだろ?」



 いつものように尾田君が疑問を口にし、同じくいつものように如月君がツッコミを入れる。

 丁度いい、このまま勿体ぶった説明をしても(らち)が明かないと思っていたところだ。

 このやり取りに乗っかってしまおう。



「いや、尾田君の言っていることは間違いではないよ」


「え、ええ!?」


「別に、何も不思議なことではないだろう? バストとは別におっぱいだけを表す単語ではないしね」



 俺はそう言ってオホンと咳を挟む。

 ワザとらしいが、会話を切り、注目を促す初歩的なテクニックだ。



「結論から言おう、胸囲を増す簡単な方法は二つある。一つは筋肉をつけること。そしてもう一つは、太ることだ」



 俺の言葉に、すぐさま食いついてこようとする麗美と如月君を手で制す。



「言いたいことがあるのは理解できるが、まずは落ち着いて聞いてくれ。……無論、これだけではみんなも納得できないだろう。しかし、実際のところはこの二つこそが、胸を大きくする近道であることは間違いないんだ」



 俺はそう言って、静子からノートPCを借り、画像をスクリーンに映し出す。

 映し出されたのは、保健の教科書などに載っている、女性を横から断面図で表したような絵だ。

 別に特別に用意したモノではなく、ネットで適当に引っ張ってきた画像である。



「丁度わかり易い図があったので、コレで解説しよう。まず、乳房の構成についてだが、このように脂肪が九割、乳腺が一割となっている。そのことからも、太ることで脂肪を増やせば、胸が大きくなるということはわかるだろう? 次に筋肉についてだが、この脂肪の部分は、図の通り大胸筋の上に乗っている。……つまり、筋肉が脂肪の土台になっているワケだ。だからこそ、この土台が厚みを増すことで、その上にある脂肪も必然的に厚みを増す」



 そこで一度言葉を区切ると、麗美が挙手をしたため質問を許可する。



「マスター、確かにマスターの言うことはわかります。ただ、今時の胸の大きさに悩む女子であれば、その程度のことはとっくに知っていると思います。かく言う私も、筋トレで胸囲を割り増ししていますので。……それでもどうにもならない現実があるから、みんな悩みを抱えているのですよ」



 麗美も他人事ではないからか、その言葉からは切実な思いが感じ取れた。



「まあ、そうだろうな。この程度の知識であれば、少し調べればいくらでもわかることだ。そして太るというにことに関しては、女性ならば抵抗があって当然だろう」


「……でも確かに、ぽっちゃり系だとか、元々太っていたというグラビアアイドルなんかは、胸が大きかったりするよね」



 坊ちゃんの言葉に女性陣は冷たい視線を送るが、間違ったことは言っていない。

 実際、その通りなのである。

 ……ただ、そのために敢えて太るというのは、女性からしてみればどうしても抵抗があるのものだ。



「坊ちゃんの言うように、そういったケースももちろんある。ただ、実際はダイエットをすると胸から痩せることが多く、万人が同じような効果を得られるものじゃない」



 そう言ったところで、静子が何かピンと来たのか挙手をする。



「ということは……、もしや師匠はその、部分痩せをコントロールできる、と言いたいのでしょうか?」



 流石静子、良いところを突いてくる。

 しかし、残念ながらそれは正解ではない。



「不可能ではないな。ただ、色々なプロセスを踏む必要があるし、完全にコントロールするにはそれこそ科学的なり魔術的な手を入れる必要がある」


「では、やはり筋力を付ける方向で……? でも、それならパンは関係ないか……」



 麗美が質問というより、自問自答のように呟く。

 しかし、それはこの話題の本筋に関わるものであった。



「そうだ。今麗美が漏らしたように、今回の件は津田ベーカリーの繁盛を目的にしている。つまり、パン自体に宣伝効果が無くては意味が無いんだ。ただ太らせるだけなら、カロリーの高いパンを作ればいいが、その後の運動を確実に行わせる方法がない以上、最悪評判を落とすことになりかねない」



 そこで、察しの良い静子は気付いたようだ。



「……つまり、パン……、食事のみで、胸の成長をコントロールする?」


「その通りだ。俺は、『部分太り』するパンを……、津田ベーカリーのウリにしようと思っている」



 俺は決め顔でそう言った。





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― 新着の感想 ―
[一言] >俺は決め顔でそう言った。 CVはやみんで再生されました( ˘ω˘ )
[良い点] やはり天才かもしれません! バストアップに造詣が深すぎて全然分かりません(笑) あと、坊ちゃんが鼻で笑ったところでクスリときました。
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