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剣と魔法の世界から日本に転生した賢者~バカとテンサイはカミヒトエ~  作者: 九傷
二章 速水桐花

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第54話 作戦会議②

 


「書籍って……、どういうことだよ?」



 中々にショッキングな内容のため、尾田君と如月君には例の同人誌のことは伏せてあった。

 本当はこのまま闇に葬りたかったのだが、本格的に協力してもらうにあたっては、そうも言ってられない。

 俺は渋々だが、情報を開示をすることに決めたのであった。



「文字通りの意味です。現在、速水 桐花(はやみ とうか)は、師匠や尾田君達をモデルとした同人誌を出版しています」


「なん……、だと……?」


「マジかよ……」



 驚愕の表情を浮かべる尾田君と如月君。

 そうだろう、そうだろう、驚くよな、普通は……

 しかも内容がアレだっていうんだから、ドン引きしてもおかしくない。



「ど、どんな内容なんだ?」


「おい、尾田……、今の話の流れでわかるだろうが? BL系ってことだろ」


「BL……、それってようは男色ってことだよな? まさか、神山と俺が……?」


「そりゃ……、そうなるだろ。多分、俺も……」



 想像したのか顔をしかめる如月君。

 それにしても尾田君、君はいつの時代の人間なんだ?

 今時の男子高校生の口から、男色なんて言葉が出てくるとは思わなかったぞ。



「そういうことだ尾田君。大変不本意な内容ではあるが、俺達は登場人物として書籍デビューしてしまっているのだよ……」


「……その本ってのは、今あるのか?」


「ある。しかし、読むのはオススメしないよ。静子には読んでもらっているが、中々にハードな内容のようだからね」



 正直なところ、尾田君や如月君にはあまり読んでもらいたくない。

 まずないとは思うが、それを切っ掛けに変な性癖に目覚められたり、意識されたりしても困るからな……

 特に如月君は、本当に怪しいので要注意だ。

 何せ彼は、時々俺に羨望のような眼差しを向けてくるから大変危険だ。



「でも、それってやっぱり止める必要があるんですかね? 所詮は絵だし、同人誌なんて普通の人は見ないと思いますけど……」



 坊っちゃんの質問に対し再び尾田君が食ってかかろうとするが、如月君が寸での所で(なだ)める。

 意外にも、二人は良い関係を築けているようだ。



「確かにその通りではありますが、少し問題があります」


「問題?」


「はい。問題というのは速水桐花――ペンネーム冬虫夏草の画力が上ってきていることと、彼女自身の行動力の高さにあります」



 そう言って静子は、ホワイトボードに例の同人誌の表紙を貼り出す。



「これは……」


「マジかよ……」



 二人が驚いたのも無理はない。

 何せ、その表紙に描かれた人物は俺と尾田君、そして如月君であり、それがはっきりとわかる絵であったためだ。



「見ての通り、漫画なのである程度デフォルメされていますが、見る人が見れば誰が誰であるか、はっきりとわかる作風になっているのです。当時の画力であれば看過できましたが、ここまでの再現性を持ってしまうと肖像権の侵害にすらなってきます」


「肖像権……、法律違反になるってことか……。それじゃあ、訴えることができるのか?」


「……可能ではあります。しかし、対象となる人物が有名人でない上に、同人誌というカテゴリがあまり一般的でないことから、厳重注意などにとどまる可能性が非常に高いです」



 実際、この手の話が裁判沙汰になるようなことはほとんどない。

 絵だと本人と証明することが難しいことから、労力に見合った結果にならないからだ。

 しかも、俺達は同じ高校の生徒同士であることから、当人同士の話し合いで済むと判断される可能性が高い。



「私達は十四歳以上ではありますが、所詮は学生です。大人を介せばやり様はありますが、それは止めたほうが良いでしょう」


「なんでだ?」


「まず、速水桐花の実家がそれなりに財力を持つ家庭であることが問題です。恐らく国選の弁護士は付けられませんので、裁判沙汰となればかなりの費用が必要となります。そうなると当然、財力のある方が有利です」



 裁判は非常に金がかかる。

 たとえ相手が悪くとも、社会的弱者は勝負の場にすら立てないことがほとんどだ。

 理不尽なことだとは思うが、労力がかかる以上仕方のないことだとも思う。



「さらに言いますと、速水桐花=冬虫夏草の証明が必要な点と、作品の内容が成人指定であることも問題となります。それなりに揉める可能性がありますので、情報の拡散は覚悟しなくてはなりません」



「なんだよそれ……、泣き寝入りしろって言ってるようなもんじゃねぇか……」



 残念ながら、これが現実である。

 こちらとしても大事にはしたくないし、最も被害を少なくするのは泣き寝入りすることが一番となってしまうのだ。

 これは今世でも前世でも変わらない、負のスパイラルだと言える。



「そうです。しかし、このまま何もしなければ被害は広まるばかりです。それを少しでも防ぐために、皆さんには協力をお願いしてきました」



 うんうん、と俺は頷いてみせる。

 世間的に見れば非常にどうでもいい内容かもしれないが、高校一年の俺達にとっては中々に重要なことと言える。

 特に、クラスでの扱いが日に日に悪くなっている俺にとって、今回のことが明るみに出れば致命傷になりかねない。


 俺は自分のスマフォに映し出された、冬虫夏草のSNSアカウントを確認する。

 彼女のフォロワーは現在二千程度だが、この数字は日に日に増えていっている。

 ファンだという書き込みもチラホラ見かけることから、徐々に彼女の知名度が上ってきているのは間違いない。

 周囲の人間に知れ渡る前に、彼女を止めなくてはならないのだ。



「ちなみに、その人には直接やめるように言ってないんですか?」


「SNS上でそれとなくメッセージは投げてみましたが、完全に無視されてしまいました。速水桐花=冬虫夏草の確証を突きつけた上でなければ、いくらでもシラを切れますからね」


「……じゃあ、一体どうするつもりなんだよ?」


「それをこれからご説明します」



 そう言って、静子はホワイトボードに設置されたボタンを押す。

 このホワイトボードはロール上になっており、ページを切り替えることが可能なのだ。

 切り替えられたページには、打倒! 速水桐花! とタイトルが入っていた。


 ……打倒?



「まず、今日まで皆さんに色々と動いてもらっていたのは、全てこの打倒! 速水桐花! 作戦の布石でした」


「待て待て! 打倒ってなんだよ!?」


「……? 文字通りですが? いえ、正確には速水桐花の世界をぶっ壊す! の方がしっくり来るかもしれませんね……。では、以降この作戦は速水桐花の世界をぶっ壊す! 作戦と呼びましょう」



 俺の代わりにツッコミを入れてくれた尾田君も、静子の斜め上の返答に何も言えなくなってしまった。

 他に誰かツッコミを入れるかと思いきや、麗美は例の同人誌を食らいつくように見ていて無反応であった。

 そして、如月君もそれを覗き込むように……



「って駄目じゃないか如月君! 君はそんなものを見てはいけない!」


「えっ!? い、いや、でも、やっぱ自分が漫画になっているって聞くと、少し興味が……」



 BLなんだぞ!? 興味あんのかよ! もしかして、既に手遅れだった!?



「オホン、麗美さんも気になるのはわかりますが、今はこちらに集中して下さい」


「あ、ゴメンなさい……。ところで、これは後でお借りしても?」


「構いませんが、取扱には十分にご注意を」


「もちろん! なんなら家宝として厳重に保存環境を作りましょうか!?」



 俺は無言で麗美の頭をはたいた。





 ◇





 翌日、俺と静子はいつも通り仲良く登校をする。

 最初はかなり照れがあったが、四週間も続ければ慣れたものであった。



「さて、速水さんはちゃんと動くだろうか?」


「恐らくは。昨日のつぶやきからも、彼女がなんらかの行動に出るのは間違いないと思います」



 昨日のつぶやき、と言うのは冬虫夏草のツイートのことである。

 一見すると、ただの次回作の予告にしか見えないのだが、俺達にとっては違う意味を持つ。



「彼らに待つ試練、ねぇ……。どんな話を書く気やら……」



 冬虫夏草の次回予告には『幸福を築き上げた彼らに待つ試練』と書かれていた。

 試練、中々に意味深な言葉である。

 内容が内容だけに、嫌な予感しかしないが……



「いずれにしろ、その作品をそのまま世に出させるつもりはありません。彼女がそれを書き終える前に、彼女の世界を切り崩します」


「そうだな」



 速水桐花の世界をぶっ壊す! 作戦は、文字通り彼女の中に作れれた、彼女だけの世界を壊す作戦だ。

 これだけ聞くと中々に物騒な作戦に思えるが、実際には違う。

 俺達は彼女自身に危害を加える気はないし、精神崩壊、精神汚染の類を狙うワケでもない。

 純粋に、彼女の中にある世界観だけを壊すことが目的なのである。


 俺達はこの四週間で、その世界に切り込むための準備をしていた。

 空想虚言者――サイコパスの一種である速水さんの精神は、一般人よりも遥かに難解で強固な構造をしているが、(ひずみ)さえ作れば、魔術師である俺達なら十分に揺さぶることが可能である。



「まずは彼女の動きに注視しましょう。こちらがしっかり引きつけておけば、麗美さん達も動きやすいハズですから」


「ああ……」



 今回の作戦で最も重要なのは、麗美と尾田君達の働きである。

 俺達はあくまで囮にすぎない。



「しかし、もし何も無かったらどうするんだ?」


「無い、ということはないと思います。例えPC内のデータであっても、麗美さんなら問題ないでしょう」


「そうだろうが、アイツは過激だからなぁ……」



 麗美には前科があるので、何かやらかさないか不安である。

 正直、喜々として犯罪行為を行う彼女の将来が少し心配だ……



「日記、または設定を記したネタ帳のようなモノが必ず存在するハズです。それを確保することができれば、作戦の成功は間違いないでしょう」



 グッと可愛らしく拳を握って見せる静子。

 こんな可愛げのある少女が、不法侵入からの家宅捜査を作戦に組み込むなどとは、誰も思わないだろうな……






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[一言] その幻想をぶち壊す!
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