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剣と魔法の世界から日本に転生した賢者~バカとテンサイはカミヒトエ~  作者: 九傷
二章 速水桐花

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第51話 接触

 


 作戦開始から三週間が経った。

 相変わらず速水さんの視線は感じるが、目立った変化はないように思える。



「本当にコレ、効果あるのか?」



 今後の予定を記載したプリントを眺めながら、尾田君が尋ねてくる。



「まあ、目立った効果についてはまだないかな。ただ、速水さんは間違いなく意識しているよ」


「例の視線感知ってヤツか?」


「ああ。それと、静子の監視網にも何回か引っかかっているようだね」



 静子には俺との恋人役を演じる以外に、速水さんの動向について監視を担当してもらっている。

 と言っても実際に監視しているワケではなく、各所に設置されたカメラで拾った情報を後でまとめてもらっているだけだが。



「監視網って、隠しカメラとかのだよな?」


「まあ、データはそれだけじゃないけど、概ねその通りだよ」



 実際に隠しカメラを設置するのはそれなりのリスクが生じるため、ごく限られた場所にしか仕掛けられていない。

 それだけでは大した情報は得られないのだが、既に設置されているカメラを利用することで、情報量についてはある程度カバーできている。



「それだけじゃないって、大丈夫なのか……? 監視カメラとかから犯人を探すのって、かなり大変だって聞くが……」


「まあ、目視であればそうだろうね。でも、その辺は静子であれば何も問題ないよ」


「……例の魔術ってヤツか」


「正確には、魔術と科学の併用だけどね」



 音声データも映像データも、全ては電子情報にすぎない。

 そして、カメラなどで記録されたその電子情報は、他のメディアを介して人間が理解できる状態でアウトプットされているのだ。

 その電子情報を直接読み取ることができれば、わざわざ視覚情報に頼る必要はない。


 静子はそれを、魔術を利用することで可能としている。

 それは、かつて俺が伝授した技術でもあるのだが、その技術において静子は既に俺を遥かに上回っていた。

 静子はこの方面において、恐ろしいほどの適性を示したのである。



「成る程な。しかし、山田って結構凄いヤツだったんだな……」


「だろ? 尾田君もそう思うだろ?」


「あ、ああ。でも、なんでお前がそんなドヤ顔するんだ?」



 自分の弟子が褒められているのだ。ドヤ顔だってしたくなる。

 師匠は、弟子の成長は我が事のように嬉しいものなのだ。

 前世で同僚が、弟子の成長を凄まじく自慢してきてうんざりしたものだが、まさか今になってその気持ちが理解できるようになるとは思わなかった。



「ぐぬぬ……、私だって、これくらい……」



 静子の実力を見て悔しがる麗美。

 できると言い切れなかったのは、実力を測る物差しがしっかりしているからでもある。



「麗美、お前には他の才能があるんだから、あまり固執するなよ? 現状でも静子に勝っている部分はいくらでもあるんだからな」


「マスター……。でも、やっぱり悔しいです……」


「ま、気持ちはわかるけどな。その辺はしっかり切り替えていけよ」



 俺も最初は悔しかったのだ。その気持は大いに理解できる。

 しかし、こういったことは切り替えが一番大事だ。

 一点に固執すればするだけ、自らの可能性を狭めることに繋がるのだから。



「努力は、します……」



 まあ、前世があるとはいえ、麗美もまだまだ十分に若いからな。

 その辺のコントロールは人生経験を積んで得られるものだし、追々身に着けていけば良い。


 俺はそんな麗美を横目に、コホンとわざとらしく咳を入れる。



「さて、それはともかくとして、静子にまとめてもらったこの情報をベースに、来週からの作戦を立てようか」





 ◇





 作戦開始から四週間目の朝。

 今日も俺は、静子と共に登校している。


 残念ながら本日は天気が悪く、学校まであと僅かという所で雨が振り始めてしまった。



「今日はギリギリ曇りという予報だったんだがなぁ……」



 天気予報では曇りのち晴れで、降水確率は10%以下だった。



「良助君、これを……」


「ん、折りたたみ傘? 準備していたのか?」


「はい。近い地域の予報では、少し降水確率が高かったので」



 成る程。確かにそんなケースは良くあると聞いた気がする。

 東京でも県境では隣の県の天気予報のほうが当たる、なんて話をクラスメイトがしていたのを思い出した。



「……で、これはアレだよな。アレをする、ということだよな?」


「はい。相合傘をしましょう」



 臆面もなく言い放つ静子。

 ここ数週間で随分と馴染んだものである。

 俺なんか、未だに体温を感じるだけでドキドキしているというのに……



「……やはり、すべきだろうか」


「はい。私も恥ずかしいですが、コレはチャンスだと思いましょう」



 全然恥ずかしそうに見えないのだが……



「……そう、だな」



 俺は観念し、折りたたみ傘を広げる。

 やはり普通の傘とは違い、面積が狭い。

 これではより密着しなくてはならないな……



「では、失礼しますね」



 俺が傘を広げて考え込んでいると、静子は断りを入れてから傘の内に入ってきた。

 ド密着である。



「あの、近すぎませんか?」


「いえ、これでも少し足りないくらいです。やはり折りたたみ傘は小さいですね」



 思わず敬語になってしまった俺に何も突っ込まず、淡々と返す静子。

 なんだろうか……、この俺との余裕の差は。



「このまま立っているのも良いかもしれませんが、じわじわ濡れてしまいますので行きましょうか」


「あ、ああ」



 静子の言葉に素直に頷き、俺は歩き始める。

 知らず知らずのうちに、俺は完全に主導権を奪われていた。





 …………………………………………


 …………………………


 …………





 教室の前で静子と別れ、少し濡れた袖をまくっていると、一人の女生徒が近づいてくる。

 ……速水 桐花(はやみ とうか)だ。



「神山君、ちょっといいかな?」



 作戦開始から四週間目にして、初の接触であった。





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― 新着の感想 ―
[一言] ワイも静子ちゃんにド密着されたい( ˘ω˘ )
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