第47話 男子高校生の劣情
速水桐花の世界を切り崩す糸口は掴んだ。
そのシナリオについては静子が現在鋭意制作中である。
残りのメンバーも根回しやら準備を進めてもらっているのだが、俺は俺でやらなければならないことがある。
……一重のご機嫌取りだ。
「さあ良助! 次はアレに乗りましょう!」
「……ああ」
一重に腕を引かれ、俺達はまたしても絶叫マシンの待ち列に加わる。
ウキウキ顔の一重に俺は何も言えないが、絶叫マシンの四連打は正直言ってかなりキツい。
先程のフリーホール系のアトラクションで既にグロッキー状態だった俺は、密かに精神安定と身体強化の魔術使用している。
それでもこの状態だというのに、一重にはまるで影響がないように思える。
これはつまり、俺と一重に素の状態でかなりのスペック差があるという証明でもあった。
「良助? 大丈夫ですか?」
「大丈夫だ、問題ない」
今は、な……
「それより、一重こそ大丈夫か? いきなり飛ばし過ぎて後半ダウンしても知らないぞ?」
「大丈夫だ、問題ない♪」
ドヤ顔で真似されてしまった。
同じことを真矢君辺りにされたら思わず殴っていたかもしれないが、一重がやるとただただ可愛いだけである。
「本当ですよ? あと十回くらいなら全く問題無いと思います」
「そ、それは流石に勘弁して欲しいな……」
一重は基本的に嘘は吐かない。
つまり、掛け値なしに本気の発言なのだろう。
恐ろしいスペックだ……
自衛力を鍛える一環として、一重にはそれなりに格闘術の手ほどきをしてきたつもりだが、ここまで超人的な身体能力を得たのは、彼女自身の才能に他ならない。
俺はそれでも一重を守護る存在でありたいと、彼女以上に努力をしているハズなのだが、歳を重ねるごとに差は開くばかりである。
「駄目ですよ良助? 今日はずっと付き合ってもらうんですからね?」
やや不安そうに、上目遣いで尋ねてくる一重。
「わかっているよ。約束だからね」
――――時は遡り、昨晩のこと。
俺は自室で、今後の計画について詳細を詰めていた。
作戦の開始は、休み明けの月曜日を予定している。
方針は決まっているが、何か見落としがないかだとか、根回しは十分かなど、色々と考えることは盛り沢山だ。
静子の書いているシナリオも最終調整の段階に入っているとのことで、明日の夜には書き上がるらしい。
目下問題なのは、やはり一重のことだ。
正直、ここ数日は一重との時間を大分削って計画にあてていた。
ここまで一重に接していないのは、ここ十数年で初めてのことであり、それが妙に不安を掻き立てる。
一重の態度もまた、俺の不安を掻き立てる一因になっていた。
というのも、ここ数日は断りを入れて別行動を取ったり、一重を蔑ろにするような扱いをしたのにも関わらず、ワガママがなかったのである。
先程の夕食の際も、一重が一緒にアニメを見ようと誘ってきたのだが、俺はやることがあるからと断った。
一重はそれを「そう、じゃあ仕方ありませんね」、とあっさり引いたのだ。
正直、これだけあからさまに距離を取れば泣かれることすら覚悟していたのだが、そんなことは全くなく、一重は非常に落ち着いた様子であった。
昔の一重なら、間違いなくゴネていたハズである。
一重の変化をどう受け止めるべきか、正直かなり悩ましい状況であった。
俺に対する心情の変化があったのか、あるいは少し大人になったのか。
果たしてどう判断すべきか……
全く……、人生経験は無駄に長いくせに、対人スキルについては全然成長していない……
情けない話だ。
コンコン
腕を組んでムンムン唸っていると、部屋の扉がノックされる。
「良助……、入っても良いですか?」
一重……?
もう家に帰ったと思ったが、まだいたのか?
「ああ、構わない」
「それでは……、失礼します」
……? なんだ? やけに畏まった態度だな?
日頃からなるべく敬語を使うように指導はしているが、プライベートでは強要していない。
だから、普段家ではもっとしラフな言葉遣いなのだが……
「っ!?」
入ってきた一重の姿に、俺は思わずギョッとして吹き出す。
一重は、バスタオル一枚を纏っているだけの、あられもない姿だったのだ。
「一重!? おま、その格好!? えぇぇぇっ!?」
激しく動揺した俺は、自分でもよくわからない反応をしてしまう。
「やっぱり、リョー君でも私がこんな格好したら、動揺するんだね……」
そりゃするさ! 童貞やぞ! 外見も中身も童貞やぞ!
いくら中身がおっさんでも、体は思春期真っ盛りの健全な男子高校生であるため、反応しないワケがない。
「えへ……♪ 普段落ち着いたリョー君が、そんな反応してくれて、嬉しいな……」
ざわ・・・、ざわ・・・
い、一体どうしてしまったんだ一重!?
一重は時折、幼児退行したように甘えん坊になることがあり、俺はそれをワガママモードと呼んでいる。
今回もまたそれが発動したのかと思ったが、コレはかつてないほど異常な状態である。
動揺したまま言葉も出せないでいると、一重はドアを後ろ手に閉め、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
そして、そのまま抱きついてきた。
「くぁwせdrftgyふじこlp!?」
眼前にはしっとりとしめり気を帯びた、美しい金髪が広がっている。
恐らく風呂上がりなのだろう、一重からは優しい石鹸の香りが漂い、触れた体からは異様なくらいの熱を感じる。
何より凄まじい破壊力なのは、布一枚隔てた先にある恐ろしく柔らかな感触である。
一重の豊満な胸が俺の体に押し付けられ、グニャリと潰れているのだ。
「おぱ、おぱ、おぱ……」
とっさに広げられた手が、無意識にワキワキと動き出す。
最早、俺の自意識はかなたに吹き飛び、何かが決壊寸前であった。
「フフ……、リョー君がこんなに動揺するの、初めてだね……」
一重は無邪気そうな笑顔を浮かべてそう言うが、同時に妙な色気が放出されており、脳が蕩けかける。
ギリギリで意識を保てたのは、ドアの隙間から覗く母のお陰だろう。
俺は歯を噛み締め、一重をベッドの方に突き放す。
そしてそのままドアの前まで駆け寄り、
「何もありませんので、部屋にお戻りください母上」
ニヤニヤ顔の母親に、俺は容赦なく暗示をかけた。
「ふぅ……」
母が大人しく部屋に戻ったのを確認し、ドアを閉める。
暗示は十分に効果があったハズだが、念のためカギもかけておく。
全く、あの母親ときたら……
大体に、一重がウチの風呂を使っていること自体おかしな状況なのだ。
恐らく一重から何かを聞いて、母がそれを後押ししたのだろう。
前々から母は俺と一重をくっつけようと色々仕掛けてくる傾向にあったのだが、今夜のは破壊力が段違いだった。
「全く、悪ふざけが過ぎ……」
悪態をつきながら振り返る。
そして、ベッドの上に転がる一重を見て、俺はさらなる目眩に襲われた。
バスタオルがはだけ、色々と見えてしまっている状態の一重が、耐え忍ぶようにシーツを掴んで目を閉じていたのである。
俺の健全な男子高校生のボディはそれに素直に反応し、○パンダイブを決め込む……
寸前で、僅かな理性が方向転換を行い、机に激突するのであった……




