表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/10

アピール 前編

7話のラスト、2行ほど加筆しました。


颯太は、電車を降りると、汐梨の鞄を右肩に掛け、歩き出しだ。

汐梨は颯太の背後にピタリと寄添い、後を追う。

颯太が人混みをかき分けて歩く為、背後につけた汐梨が人にぶつかる事はない。


改札を抜けると、汐梨は右手を颯太の左手に重ね、指を絡めた。

所謂、恋人繋ぎと言うやつだ。

同じ学校に向かう生徒が騒然となった。

汐梨はそんな事はお構いなしに颯太に話しかける。


「颯太ってさ、やっぱり女の子にダダ甘だよね」

「何処がだ?」

「荷物は全部持ってくれるし、電車の中では私が押されないように壁になってくれるし、ホームを歩く時も前を歩いて道作ってくれるじゃない」

「男女の体力差を考えれば、当たり前じゃないのか?」

「ふう〜ん」

「何だよ?」

「別にぃ…。教室に行ったら、今度は私が颯太を守ってあげるわ」

「当てにしてるよ」


2人が教室に入ると、やはり注目を集めた。

昨日同様、颯太は男子生徒に取り囲まれる。


「小向、お前昨日、駒井さんをナンパから助けただけって言ってなかったか?」

「……」

「この写真、何なのか説明しろよ」

男子生徒がスマホを颯太に突き付ける。

昨日の下着売り場の写真…

ではなく、汐梨が自分でアップしたものだ。

汐梨は颯太と腕を組んだツーショット写真をタイマー撮影し、グルチャにアップしていた。

ご丁寧に「私達、付き合い始めました♡」とコメントまで付いている。




下着売り場の写真に頭を悩ませた2人だが、

「もう、逆に追加で燃料投下しちゃおうよ」

汐梨はそう言って、他にも何枚かアップしていた。

これが、今朝汐梨が言った「もう一手」であった。


背後から颯太に抱きついて「ラブラブ♡で〜す」とか

自分のブラウスの上に颯太のYシャツを羽織り「彼シャツ最高〜♡」とか

頭がお花畑になったような写真ばかりである。


汐梨の行動に男子と女子は真逆の反応を示した。

女子は概ね祝福ムード。

グルチャにも祝福のコメントやスタンプが並んだ。


純粋に祝福の気持ちだけでなく、人気の高い汐梨が颯太とくっついた事により、汐梨に想いを寄せる自分の意中の男子に対し、チャンスが広がるなどの打算もある。


少数派だが、颯太が顔を晒した途端、直ぐに彼を射止めた事に反感を持つ女子もいた。

颯太をロックオンしていた女子も、冷やかな反応を示した。


男子に至っては、ほぼ全員が颯太に不満を持っている。

颯太は確かに勉強は出来るが、それだけだと思われていた。

ネクラ、陰キャ、コミュ障、ボッチ、etc 颯太への評価はネガティブなモノばかりだった。

自分より下だと思っていた相手が、人気の女子と付き合い始めた事が気に入らない。

見下していた相手が、自分に出来ない事を出来たのが我慢ならない。

ただの妬み嫉みだ。


「この写真なんだって聞いてんだよ!」

颯太に詰め寄った男子生徒が声を荒げた。

「見ての通りだよ。汐梨は俺の彼女だ。これで満足したか?」

面倒くさそうに颯太が答えた。

「ふざけんな!誰に断って、汐梨とか気安く呼んでんだ!」


「本橋君!」

汐梨が颯太を庇うように2人の間に立ち塞がった。

「貴方にそんな事、言われる筋合いは無いわ。颯太には私が名前で呼んでってお願いしたの。他の誰かの許可が必要な理由が分からないわ」

「……」

外面そとづらの汐梨からは想像出来ない厳しい言葉に、本橋と呼ばれた男子生徒がたじろいだ。

「その写真だって、女子だけのグルチャにアップしたものよ。男子の貴方が何で持ってるの?気持ち悪いわ」

汐梨が自分の身体を抱くような仕草を見せる。

憧れている汐梨から出た「気持ち悪い」の一言は、本橋の心を大きく抉った。

気付くと女子生徒の多くが、変質者を見るような目で、本橋を見ていた。

本橋が吊るし上げられる様子を見ていた他の男子は完全に戦意を喪失した。

宣言通り、汐梨は颯太を守った。


しかし、颯太に対する攻撃は止んでも、わだかまりが消えた訳では無い。

教室内には依然として、緊張感が立ち込めていた。

そんな中、汐梨は颯太が驚いた顔で自分を見ている事に気付いた。

「どうしたの、颯太?」

「あ、いや、ソイツ、本橋って言うんだ?お前、よく知ってたな」


「「「「「ブフッ!」」」」」


教室内の空気が一気に弛緩した。

汐梨も吹き出した。

「キャハハハ、颯太、それ酷いよ。去年も同じクラスにいたのに」

「去年もいたのか?!」


「「「「「ブフッ!」」」」」


再び教室中に失笑が零れた。


(うわぁ、これキツイよ)

(小向君、素でやってるよね)

(あれだけ執念しつこく、絡んでたのに…)

(名前どころか存在すら認識されてなかったって…)

(イタい、イタ過ぎるよ、本橋…)


小声で話す女子の会話が、残り少ない本橋のHPをゴリゴリ削った。


「本橋、もう小向に絡むな。お前が、惨めになるだけだぞ」

颯太を取り囲む輪に参加しなかった男子生徒の1人が、本橋の肩を叩いた。

新たに介入してきたのは、男子のトップカーストのリーダー寺原テラハラ 大輝ヒロキだった。

「小向はお前の事なんて、眼中にないってよ」

「なっ…」

「ほら、みんな散れ。駒井さんが、誰と付き合おうが本人の自由だろ。これ以上イタい事するな」


大輝に逆らえる者は1人もおらず、男子生徒が散っていく。

彼の介入により、騒ぎは完全に収まった。


「寺原君、ありがとう」

お礼を言ったのは汐梨だった。

「いや、俺も前から小向には興味があったんだ。普通に話しかけても相手にされなそうだし、恩を売る良い機会だったよ」

大輝は汐梨ではなく、颯太の方を向いて、言葉を続けた。

「小向、今度ダブルデートしないか?」

突然の大輝の誘いに、颯太も汐梨も困惑する。

「良いだろ?それで、騒ぎを収めた貸しはチャラだ」

「……」

「面白そうじゃない。良いよね、颯太?」

渋る颯太に対して、汐梨は乗り気だ。

「決まりな、詳しい事は後で決めよう」

それだけ言うと、大輝は自分のグループに戻っていった。



この後も、颯太と汐梨は学校中の注目を集めたが、大輝が2人をダブルデートに誘った事で、学校内の噂は真っ二つに分かれた。

女子生徒にとっての大輝の存在は、男子生徒にとっての汐梨のそれと同等である。

ぽっと出の颯太とは違い、本物の学校内のアイドル的存在だ。


ダブルデートに誘ったというのは、彼女がいると宣言したのと同じである。

『寺原 大輝の彼女は誰だ?』

多くの憶測が飛び交った。

しかし、それが明らかになる事はなかった。


騒ぎの半分を大輝が受け持ってくれる形になったが、男子の汐梨への関心が薄れた訳ではない。

諦め切れない男子が、直接、汐梨の元に押し掛ける事もあった。

主に運動部のエースやイケメンと噂される、自分に自信のある連中だ。


「二人きりで話がしたい」

汐梨にそう言った男子は

「恋人のいる女性に向かって、二人きりになりたいなんて、正気を疑うレベルです。颯太の前で話せない事なら、聞く気はありません」

バッサリ斬り落とされた。


本橋のように颯太を見下し、ディスる男子もいた。

「そんなヤツの何処が良いんだ?!」

汐梨が颯太を選んだ事に納得のいかない男子は

「恋人を『そんなヤツ』呼ばわりされた女の子の気持ちが分かりますか?貴方のような無神経な人とは、何もお話する事はありません」

あっさり撃墜された。


また、優良物件である事が判明してから日の浅い颯太を競争率の低い内にゲットしようと思っていた女子も少なからずいた。

こちらは主に下級生が多かった。

中には玉砕覚悟で颯太を訪れる娘もいた。

「ごめんね、噂通り私の彼氏なの」

汐梨のガードを突破する事は出来なかった。


汐梨は着々と足場を固めて行った。

お気に召しましたら、ブックマーク、評価をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ