9.王都の一日
9.王都の一日
黒ネコの尻尾、という名前だったことに店を出るときに気がついた。
言われてみれば店内の机や椅子にはネコの印章が彫られていたような気がする。
豪勢な皿だった割には支払いはそれほど高くはなかった。
満足な顔をしているマルティナはきっとこの後も何度もあの店に通うだろうし、あまりに値段が高いと懐が痛むだろう。
この後はベント爺さんの店へ寄って買い物をした後、中央広場へ行って、夕方になったらマルティナが働いている店で食事をする予定だ。
ベント爺さんの店は道具屋と薬屋を合わせたような品揃えの小さな店で、大通りから外れた場所にある。
細い路地に入ってしばらくすると、自宅兼店舗の赤い屋根が見えてきた。
古びた扉を開けると、埃っぽい空気が流れてくる。
店内は整頓が行き届いておらず、まるでメディシア先生の部屋のようだ。
今日も店内には他の客はいなかった。
賑わっているのはみたことがない。
「アスウェルとマルティナちゃんか、どうした。今日は納品の日だったか?」
「今日は客として来たんですよ。納品じゃありません」
ベント爺さんを見た賢者がドワーフいるじゃないか、と言っているので人ですよと反論しておく。
どうやら賢者の言うドワーフとはちょっと小太りで髭の生えた老人らしい。
賢者の声が他の人には聞こえなくて良かった。
まずは僕の買い物、という事で収穫祭の看板に使う塗料を探す。
塗料は色ごとに指先程度の大きさの塊で売っている。
そのままでは石のように固いのだが、油で煮ると溶け出して塗料として使えるようになる。
黒と黄の二色を埃だらけの棚から探し出す。
いったい何年間の売れてないんだ。
目的のモノは見つかったので、次にゼルスから頼まれている物を探すことにする。
「ベントさん、釘ってどこでしたっけ」
塗料の棚の付近では見つからなかったので、ベント爺さんに聞く。
釘・・・どこだったかなと呟きながら奥の方へ行ってしまった。
どうやら店主でさえ探さないとどこにあるのかわからないようだ。
釘はベント爺さんに任せるとして、他に頼まれたものを探してみる。
木炭が置いてあると思ったら、その隣にはやたらと不気味な木彫りの人形が置いてあったりと、並んでいる商品に関連性がない。
ちゃんと整理すればいいのに。
さすがに薬はちゃんと管理しているようで、壁面の薬棚にしまってあるのは知っている。
こんな店だが、薬の品揃えは良く、大通りの薬屋にも負けていない。
そこは毎日掃除しているのか、埃がついていなかった。
「釘、あったぞ。アスウェル」
僕が店の中をひっかきまわしていると、ベント爺さんが奥から釘を持ってきてくれる。
大きさはゼルスが言っていた物に近いので問題なさそうだ。
他に頼まれていた針や糸なんかと一緒に、ベント爺さんに差し出すと、全部まとめて袋に入れてくれる。
受け取った後、雑な詰め方をされた中身をマルティナが整頓していた。
「アスウェル、バザルの在庫がなくなりそうなんで採ってきてくれないか」
支払い途中でベント爺さんが困ったような顔をして言う。
バザルの根は解熱効果のある薬草で、南の森では入り口周辺で採れる。
普段なら二つ返事で引き受けるのだけれど、しばらくは森に行く気にならない。
「ごめん、少し前に森で危ない目にあったから、しばらくは森に入らないつもりなんだ」
「そりゃ困ったな・・・」
ベント爺さんが頭を掻きながらどうしたもんか、と呟いている。
まだ在庫はあるようだが、冬になると熱を出す子供が多くなるので、バザルの根は重宝されるのだ。
「森に行けるようになったら採ってくるよ」
そう言いながら、メディシア先生なら在庫を持っているかもしれないな、とも思った。
ベント爺さんのところの在庫がなくなっていよいよとなったら、先生に聞いてみるのもいいかもしれない。
そのころには森に入っても大丈夫だろうけど。
僕らは挨拶をしてから店を出る。
マルティナも僕も埃っぽい空気を吐き出すように、大きく深呼吸した。
扉の向こうでは、ベント爺さんがまた居眠りを始めたようだった。
◆
爺さんの店の前、細い路地を抜けて大通りを第二城壁に向かって真っすぐ行くと、中央広場に出る。
ここはいつも露天商がたくさん店を開いていて、賑やかに人が行き交っている。
並べられている商品を眺めながら、僕とマルティナは広場の中央に向かって歩いていた。
いろいろな果物が並んでいる店では賢者がうるさく質問をしてくる。
どうやらこの賢者は食べるものにご執心のようだ。
真っ赤に熟れたパウトを見てトマトだと言っている。
味はどんなものだとうるさいので、仕方なく一つ買った。
口をつけると中から酸味のある果汁が溢れてくる。
『味は完全にトマトだな。トマトって夏野菜だったような。この果物は今頃採れるのか?』
(夏の終わりごろに採れます。収穫したときは固いので、しばらく置いておくんですよ)
マルティナがいいなぁという顔をしていたので、食べかけで悪いけど、と半分以上残っているパウトを渡した。
「アスウェル、パウト好きだったっけ?」
マルティナからすれば脈絡もなくパウトを買ったように見えただろう。
一口しか食べずにマルティナにあげたので、変に思ったようだ。
賢者との会話の流れで買ってしまったが、少し気を付けたほうが良いかもしれない。
「あー。美味しそうだったから」
美味しいね、とマルティナは残りのパウトを口にしている。
食べながら歩いていると、食べ物屋の並びは終わり、装飾品や刺繍をした布を売っている場所に着いた。
ふと目をやった先に、銀製の装飾品を扱っている露店があった。
『メディシアさんが持っていた指輪に似ているな』
全く一緒というわけではないので、雰囲気が似ているという程度だったが、確かに賢者の言う通りメディシア先生が大切にしていた指輪に装飾が似ている気がする。
細い鎖が絡み合ったように指輪の表面に刻まれていて、一番大きな部分は四葉の形にまとまっていた。
(僕は装飾品なんて詳しくないですけど、これは高そうですね)
急に立ち止まった僕に、マルティナが不思議そうな顔をしている。
「その指輪、気に入ったかい?」
突然、店主が声をかけてきた。
マルティナを連れているし、贈り物をするように見えたのだろう。
「・・・安くしておくよ」
マルティナに聞こえないぐらいの小さな声で、男は囁いた。
若い彫金士が習作で作った物だそうで、値段は銀貨8枚。
思ったほど高くはない。
「いや、この装飾に見覚えがあったので・・・」
知らない人と話すのが得意ではないので、こういう積極的に売り込みをしてくる商人は苦手だ。
「ああ、このデザインは20年ぐらい前に流行したものだから、見たことあるかもな。細かい装飾をするんで彫金士の腕がわかる。コイツはデキが良いよ。ほら、この辺りの溝がちゃんと彫ってあるだろう?腕が悪いとこの辺の細かいところで差が出るんだ」
男がこの指輪の出来について話し出す。
溝の深さとか、角度とかを熱心に話されても僕には価値がわからなかったが、男の語り口調はどんどん熱を帯びてきて止まらない。
ひとしきり話をした最後に、男が小さな声で彼女も喜ぶぞ、と言った。
マルティナが指輪を喜ぶかどうかわからない。
贈り物なら食べ物のほうがいいんじゃないだろうか。
そう思ってマルティナの方を振り返ると、なんだか期待しているような顔をして頬が赤くなっていた。
『あー。これは買ったほうが良いぞ。サイズが合うか確認してから買ったほうが良い』
賢者が助言をくれる。
意外と役に立つのかもしれない。
「・・・彼女の指にあいますか?」
「嵌めてみるかい?」
僕はマルティナを呼んで手を取った。
急な展開についていけないようにマルティナは戸惑っていたが、僕がいいから、と言うと大人しく手を差し出した。
結果、指輪の大きさはちょうど良かったようで商人はこのままで大丈夫だ、と太鼓判を押す。
指輪は左手の薬指に嵌っていた。
『おいおい、左手の薬指っていいのか?』
(いいんじゃないですか?親指にしている人は見たことないですし)
右か左かという事だろうか。
利き手の方に指輪をしたら邪魔になることもあるので普通は左手にするものだと思う。
昨日、メディシア先生の指輪も左手で光っていた。
『あー。特別な意味はないのね』
どうやら賢者の世界では特別な意味があるようで、よくわからないがほっとしているような雰囲気がある。
指輪をしたマルティナは嬉しそうだ。
左手を日にかざしたりしながら、目を輝かせている。
その様子に満足して、僕は銀貨を男に渡した。
「ありがとうございました。マルティナ、行こう」
指輪を見つめてぼーっとしているマルティナに声をかけて、僕は店から離れた。
◆
マルティナの働いている店は広場から少し南門に向けて戻った場所にある。
僕たちは中央広場で店をのぞいたり大道芸人を見たりみたりと楽しい時間を過ごした後、そこへ向かう事にする。
収穫祭が近い事もあって、広場にはたくさんの人が溢れていて、王都の繁栄を感じられた。
5の鐘が鳴っているのが聞こえる。
もう店は開いているだろう。
マルティナが働いている店は飲み屋兼食堂で、早い時間から厳つい男たちが酒を酌み交わしている、お世辞にもガラが良いとは言えない店だ。
繁盛している理由には、料理が美味しい、酒が美味しいというのはもちろんあるのだが、マルティナを含む若い女性が給仕をしているというのもある。
特に、制服が胸を強調した意匠なのは明らかに狙ってやっている。
店主のオードさんとその妻のレイラさんは以前、旅商人だったという噂で、かなり腕っぷしが強い。
酔って暴れる客、下品な言葉を給仕にかける男は簡単に摘まみだされるので店の中は意外と安全だった。
「おや、マルティナ。今日はアスウェル君と一緒なんだね。いらっしゃい」
店に入ると、すでに何人かの客が宴会を始めていた。
5の鐘が鳴ったばかりで出来上がっているというのはどうなんだろうか。
レイラさんは以前は魔法士だったそうで、いまでも様々な魔法が使えるそうだ。
灯りを付けるのに自前でできるから、家計が助かるなんて言っていた。
レイラさんが空いている席まで案内してくれる。
マルティナの同僚らしい女の子が、いらっしゃいと声をかけてくれた。
やっぱりあの制服は僕には目の毒だ。
『酒飲みたいけど、アスウェル君未成年だよね』
宴会をしている男たちを横目に、賢者が呟いた。
賢者の世界では一人でイエノミというのをよく開催していたそうだ。
(成人式はまだですけど。それ、関係あります?)
言っている意味が良くわからないが、お酒が飲みたいんだなというのは伝わってくる。
僕の味覚を通さないと感じられないそうだから、一杯ぐらいなら飲んであげても良いんだけど。
『未成年で酒飲んだらダメだろう』
(・・・5歳児だって軽いのなら飲みますよ)
林檎を水につけておくだけでできるお酒もある。
神官なんかは酒を禁じられているそうだけれど、平民は軽いものなら子供のころから飲んでいる。
学び舎の食堂でも頼めば出てくるが、食事時に飲んでしまうとその後勉強にならないので飲まないだけだ。
部屋に持ち帰って寝る前に飲んでいる生徒は結構多い。
僕は酒が得意な方ではないので、買ってまでは飲まないけれど。
『俺の世界の常識とはだいぶ違うなぁ。まぁ日本以外だと20歳前に解禁されたりするって聞いたことあるし、所変われば品も変わるってやつか』
相変わらず賢者の言い回しはよくわからない。
食堂の端の席を確保して、僕とマルティナは頼む料理や飲み物を選んでいく。
賢者が酒を飲みたいようなので、一杯だけ頼んであげることにした。
「・・・飲み物は、蜂蜜酒にしようかな」
そういった僕の顔を見て、マルティナが驚いた顔をしている。
しまった。
また賢者との会話の流れで突飛な事をしてしまった。
「お、お酒飲むの?」
「あー。まぁたまには?」
僕がそう言うと、急にマルティナの顔が真っ赤になる。
左手の指輪をやたらと気にしたかと思うと、注文を取っているレイラさんの方に視線を送ったりしている。
レイラさんがマルティナに目配せしていた。
『久しぶりに飲めるなぁ』
賢者は妙に嬉しそうだ。
(一杯だけですよ)
『わかってるわかってる。蜂蜜酒って俺の世界にもあるよ。飲んだことないけど』
(そうなんですか。こっちの世界には他には赤い果実から作るのとか麦から作るお酒がありますけど、賢者の世界には他にどういうお酒があるんです?)
『葡萄から作るのはワイン。麦から作るのはビールか。似たようなのがある。他だとウィスキーとか日本酒とか。この世界には蒸留酒はないのか。かなり強い酒なんだが』
(ジョウリュウというのはわからないですね)
酒を沸かして出た湯気を集めて冷やしてもう一度液体にするんだ、と賢者が言っているがよくわからない。
どうやって湯気を集めるのだろう。
集めたとして、冷やしてしまったら元の液体に戻るだけではないのだろうか。
(意味が分からないですが・・・こんどメディシア先生に相談してみましょうか)
謎の技術力を持ち、好奇心旺盛なメディシア先生なら食いついてくれるかもしれない。
賢者の世界は魔法に関しては全くダメだけれど、こちらの世界よりの進んでいる部分もあるようだ。
『いろいろ試してみたい事はあるな。異世界チートでやりがちなやつを』
イセカイチートがよくわからないが、一つだけわかっているのは慎重にやらないと僕が変人扱いされる、という事だった。
最初に野菜の大皿、その後に魚の切り身を油で煮たものが運ばれてくる。
王都の北は港になっているので、新鮮な魚を使った料理が名物だ。
蜂蜜酒が入った銅のコップが置かれる。
マルティナはレントの果汁を水で割ったものを飲んでいる。
この季節には定番の飲み物だ。
『塩しかかかってない』
野菜の皿を見て、賢者がまた文句を言っている。
よほど気に入らないのだろうか。
『アスウェル、厨房に行ってもらえないか?』
(いきなりですね、どうしたんですか)
『この塩だけしかかかってない野菜が許せない。厨房で油と酢と卵を貰ってきてくれ』
(別にこのままでも美味しいですけど・・・)
興奮気味に賢者がまくし立てるので、圧倒されてしまう。
マルティナがいるので、この店なら多少の無理は通るかもしれない。
「マルティナ。厨房で油と酢と卵を貰いたいんだけど」
唐突にそんなことを言われたのでマルティナはきょとんとしている。
「えっと・・・厨房に行きたいの?」
いったい何を言い出したのか、という顔をしている。
まぁそうだろう。
僕が言われたとしてもコイツどうしたんだと思うだろう。
『まぁ見てろって。材料が手に入ればすぐわかるから』
(ホントでしょうね。明らかにマルティナがおかしな目で僕を見てますよ)
不審な顔をするマルティナがをなんとか宥めて、厨房まで案内してもらう。
給仕の女の子たちが溜まっているあたりを通った時にどうしたの、とマルティナが聞かれていた。
「えっと・・・すいません。オードさん、レイラさん。アスウェルが厨房を見たいって・・・」
僕らの注文したものを作っている程度のようで、厨房がそれほど忙しそうではないのが救いだった。
マルティナが2人に声をかけてくれる。
「あら、アスウェル君。どうかしたの?なにかあったかしら?」
オードさんは無言でこちらを見ている。
普通、客は料理に文句でもなければ厨房に来たりしないだろう。
「あ、いえ。ちょっと欲しいものがあるんですけど。えーと・・・」
『油。植物性のヤツ。酢、ワインの酸っぱくなったやつ。卵、これは卵黄だけでいい。あと、かき混ぜる為の容器』
賢者の要求をできるだけ変に思われないように2人に伝える。
マルティナやその後ろに集まっている女の子の視線が痛い。
あんたの旦那、どうしたのという声が聴こえた。
まだ旦那ではないけれども。
「それぐらいなら構わないが、一体何をしたいんだ」
いつみてもオードさんの筋肉は圧力がすごい。
ゼルスもそうだけど、筋肉がすごい人はもう少し他人に対する圧力を考えたほうが良いと思う。
マルティナと一緒に食事に来たのに、僕はいったい何をしているんだろう。
周りから見たらただの変な人じゃないか・・・。
『見てればわかる』
(いや、やるの僕ですけど。で、これどうするんですか)
言われた材料がそろって、厨房にいる全員が僕に注目していた。
とりあえず、言われた通りに作業を始める。
賢者が伝えてきた作業自体は薬作りの手順に似ていた。
卵と酢、それにちょっとの塩を入れてかき混ぜる。
きれいに混ざったところで、賢者が油は一気に入れないで少しづつだ、というのでその通りにする。
(かき混ぜてばっかりですね)
「油に混ざってるな」
オードさんがちょっと驚いたような声をだした。
根気よく混ぜていると、器の中でもったりと固まってきたような感じになった。
『よし、できた。これを野菜にかければ塩で食べるより美味しいはずだ』
「えーと。これを野菜にかけて食べると美味しくなるんです」
言ってる自分が信じられないが、こうでも言わないと格好がつかない。
これで美味しくなかったら、僕は賢者とは一生話さない事にしようと思う。
「あら」
レイラさんが小指で容器の中のものをすくって、口へ運んだ。
マズいという事はなかったようで、少しだけ安心する。
「ちょっと、俺にも食わせてみろ」
オードさんは興味深そうな顔で野菜の茎で容器の中をすくった。。
『少しつけて食べるだけでいいからな』
「少しでいいそうです」
オードさんが野菜を口に運び、厳しい顔が一層厳しくなった。
眉間にしわが寄っている。
「・・・なんだこれは」
『マヨネーズだ』
「えーと・・・なんでしょうか・・・マヨネー・・・ズ?」
何か聞きたそうなオードさんから離れるように僕は後ずさりする。
詳しく聞かれると賢者の事を話さないと収集付かなくなるだろう。
早くこの場を離れたい。
「そ、そういうことで・・・失礼しますッ」
僕は振り返ってマルティナの手を取ると、厨房から逃げ出した。
(なんですかアレ。オードさん怒ってませんでした?)
『怒っていたわけではないだろう。初めて食べたマヨネーズに驚いていたんじゃないか』
(そんな。野菜が美味しくなるぐらいであんな顔しませんよ)
「ね、ねぇ。アスウェル。いまのは?」
マルティナは完全に置いてけぼりな状態だ。
賢者の声が聞こえていなければ、僕の行動はただの奇行にしか見えないだろう。
「えーと・・・そうそう、ちょっとメディシア先生に教えてもらったのを、ね」
とりあえず、困ったときにはメディシア先生の名前を出しておくと、学び舎の生徒はだいたい納得する。
事実、マルティナも納得している顔をしていた。
「ほら、これせっかくだから食べてみようよ」
テーブルの上は、席を離れるときそのままの状態だ。
野菜にはすでに塩が掛かっているけれど、気にせずかけてみる。
僕とマルティナは恐る恐るマヨネーズが掛かった野菜を口に運んだ。
うまかった。
『塩だけより、旨いだろ?』
たぶん、いままで食べた野菜の中で一番旨い。
すごく油臭いのではないかと心配したのだが、そんなことはない。
酸味とコクが口の中に広がって、野菜の味を引き立てているような・・・気がする。
たぶん。
とにかく美味しいのは間違いない。
(たしかに美味しいです。塩だけより食べやすい)
『マルティナちゃんも旨そうに食べてるじゃないか』
マルティナが美味しそうに食べるのはいつもの事なのだが。
賢者が得意満面の顔をしているのがわかる。
『今後、サラダはこうやって食べてくれ』
顔は見えないけれど、絶対してる。
(まぁ塩だけより食べやすいのは確かですけど)
その後の食事には賢者は文句をつけなかった。
むしろ旨い旨いとうるさい。
魚も、蜂蜜酒もこの店で食べる食事はいつも十分に美味しい。
久しぶりに飲んだお酒に僕は少し酔ってしまったようだった。