9.またいつかお会いしましょう
大輔さんの部屋に興味があったのはボクたち猫だけではありませんでした。
葵さんは歩けるようになったのと同時に朝も早起きになりました。今までは葵さんが居間に降りてくるのは大輔さんが出掛けた後だったんですけど、優輔さんのお弁当を作りに降りてくる菫さんと一緒に葵さんもやってきます。そして、初めて大輔さんの部屋に行ってからというもの起きてきたら真っ先に大輔さんの部屋へ行くようになったのです。
葵さんのお気に入りは窓から見える外の景色です。ベッドの上ると葵さんでも窓から外を見ることができるのです。窓を開けたり閉めたりしばらく遊んでいると、今度はサイドテーブルに置かれた目覚まし時計やテレビのリモコンで遊び始めます。それからティッシュや大輔さんの薬箱に手をかけ始めます。葵さんが遊んでいるのをにこやかに見守っていた大輔さんもさすがに薬箱に手を出されたら黙ってはいません。
「ダメ、ナイナイしてね」
「ハイ」
葵さんはそう言って薬箱を大輔さんに手渡すんですけど、大輔さんが箱を置くとまた手を伸ばすんです。そして、大輔さんが出掛ける時間になると葵さんは一緒に居間へ戻って行きます。当然大輔さんは自分が居ない間に薬箱に悪戯をされたり、間違って口にされたら大変なので出掛ける時には自分が居ないときに葵さんが部屋に入らないようにドアを閉めていきます。
優輔さんはサービス業なので、土・日も仕事です。明子さんも例によって出勤ですから土・日は大輔さんが葵さんを見ていることが多いです。菫さんは普段の子育て疲れで土・日はごろごろしています。大輔さんが葵さんを見ていてくれるので安心して寝ていることもあります。大輔さんは常に葵さんから目を離さずにいてくれるからです。
それに、明子さんも出勤するときは出勤前に葵さんを連れて買いものに行き、寝かしつけてからの出勤ですから菫さんもゆっくり出来ます。実家で一緒に暮らすメリットを最大限利用している菫さんです。
そして、優輔さんがお休みの時は三人で出掛けて行きます。お友達の家に遊びに行ったり、食事に行ったり。コロナ禍であまり遠出も出来ないし、人込みも避けなければならないので出掛けるところは制限されますが、葵さんにとってはそんなことは関係なくて、お出かけするのは楽しくて仕方がないみたいです。
これからクリスマスやお正月を迎えるのにあたって楽しいイベントもたくさんあるのだけれど、新しい生活様式に見合った楽しみ方を模索しながら松坂家は葵さんとボクたち三匹の猫を中心に今日も明るく過ごしています。こんな生活がいつまでも続くようにボクも願ってやまない今日この頃です。
それでは、今回はこの辺で。また機会があればその後の松坂家の様子をお知らせしたいと思います。