8.大輔さんの部屋
子供の成長は早いもので、ついこの間、生まれたばかりの葵ちゃんがもう歩き始める様になりました。歩き始めると危険度が増します。ボクにとってはそれが脅威なのです。これはジョジョのせいなのです。ジョジョと来たら葵ちゃんがどんなにちょっかいを出してもおとなしくしているんです。葵ちゃんは猫がそういうものなのだと思い込んでいるんです。彼女にしてみれば遊んであげているつもりなのでしょうけれど、力加減が判らないから本人は撫でているつもりでも、ボクには思いっきり叩かれているとしか思えません。ちょっと目を離すと葵ちゃんは平手を繰り出すのです。菫さんはその度に葵ちゃんを叱ってくれるんですけど、葵ちゃんにはまだ通じません。
歩き始めると活動範囲が広がります。これまでは葵ちゃんが遊ぶ場所には仕切りが置かれていたのだけれど、それが取り外されたのです。今までは仕切りの外に居れば安全だったのに、これじゃあ気が休まる暇がありません。だからボクはおじいさんとおばあさんお部屋に居ることが多いです。ここだけには葵さんが立ち入らないようにまだ仕切りが設けられているのです。なぜかって? そこにはボクのトイレが置いてあります。元々は居間の端っこに置かれていたのだけれど、葵さんがボクのうんちを平気で触るので菫さんが場所を移したんです。そして、そこにだけは葵ちゃんが立ち入れないように仕切りを設けました。
菫さんが葵ちゃんをおじいさんとおばあさんの部屋へ入れたくない理由は他にもあります。万年床の上に取り込んだままの洗濯物の山、食事を終えた食器や菓子の袋などが放置されたままで、足の踏み場もなく、見るに堪えない状態だからです。それにもまして、おばあさんがこの部屋を掃除しているところを見たことがありません。ボクにはどうでもいいことですけど菫さんには耐えられないのでしょう。大輔さんはこの部屋のことを「バイオハザード」だと言っています。万年床も山積みになっている洗濯物もボクにとってはパラダイスのような部屋なんですけどね。
夏の間は一日中エアコンが付けられています。そのおかげでいつもはドアが閉められている大輔さんの部屋のドアも開けっ放しです。大輔さんの部屋には普段から興味があって、大輔さんが居ないときにはよく忍び込んだものです。大輔さんが居ると、たちどころに追い出されてしまうので大輔さんが留守の昼間は大手を振って入って行けます。
猫が考えることは同じでジョジョも大輔さんの部屋には興味があるみたいです。最近は良く入ってきます。ボクはおとなしくベッドの上で寝ているだけなのに、ジョジョは換気のための開けてある窓から外を眺めるのが好きみたいで、窓の縁の上っては掛けてある服を落としたりします。まったく行儀の悪いやつです。
基本的にボクの邪魔をしなければジョジョなんて放置しておくんですけど、ジョジョが大輔さんの服を落として歩くようなことをしていたら、大輔さんはまたドアを閉めて出かけるようになるかも知れません。そして、大輔さんはまたドアを閉めて出かけるようになりました。でも、それはジョジョのせいではなかったんです。